第9話 この辺で浮気女のパートが見たいんじゃない?
たんたんたん。
たんたんたん。
たんたんたんたんたんたんたん。
ぴゅっ。
「………………ふぅ」
金持ちの大学生風の男、
「気持ちよかったぁ……」
満足そうに余韻に浸ると隆は無邪気に聞いてくる。
「千春ちゃんはどうだった?」
「………………すっごく良かったです」
千春は完璧な営業スマイルで答えた。
勿論内心では(いいわけねぇだろ短小包茎早漏野郎! こっちには散々ご奉仕させといて前戯もなしの即入れ即射精とかありえねぇし入れてる感覚すらなかったわ! てかなんで三三七拍子なんだよ笑かす気か? セックス舐めんな! あたしのおマ〇コ舐めろや!)と思っていたが。
(全然満足出来ないし! あぁーもう! 選択間違ったかなぁ……)
そんな後悔すら浮かぶ始末だ。
直樹なら入れる前に何度かイクまで丁寧に前戯をしてくれる。
モノも長ければ行為も長くて、セックスに不満を感じた事など一度もなかった。
もっとも千春は隆と寝るまでそれが当然なのだと思っていたのだが。
(……って、だめだめ! 直樹とはもう終わったんだし! こいつの場合セックスは赤点でも顔は良いし、実家も太くて将来性だってあるんだから!)
弱気な気持ちを叱りつける。
人生において男選びは重要だ。
イイ男を捕まえれば人生薔薇色、専業主婦になって男の金で一生遊んで暮らせる。
ダメ男ならその逆だ。
現に千春の父親は甲斐性無しの癖に金遣いの荒いクズで、そのせいで散々苦労を強いられてきた。
薄汚れたオンボロマンションには恥ずかしくて友達なんか呼べなかったし、欲しい物があってもろくに買って貰えなかった。身の回りの物はほとんどが貰い物や中古品で、そのせいで小さい頃は貧乏神とか呼ばれてイジメられていた。
そんな負け犬人生を変えてくれたのが今の父親である。
母親よりも十歳以上年上でお世辞にも見た目が良いとは言えないが、お金だけはそこそこ持っていた。
お陰で立派な一軒家に引っ越せたし、洋服だって新品を買って貰える。
お小遣いだって!
母親も朝から晩まで働かなくてよくなって、老けこんでいた顔は別人みたいに若返った。
ママ友と旅行に行ったりカルチャースクールに通ったりと、これまでの苦労を取り返すみたいに毎日幸せそうにしている。
それで千春は男選びの大切さを学んだのだ。
別に直樹だって悪い男ではなかったが、このまま結婚してもいいかと言われると疑問が残る。
確かに直樹は優しい男だ。
家が隣というだけで、小さい頃からずっと優しくしてくれてイジメからも守ってくれた。
他の男と寝た今になって分かった事だが、セックスだって丁寧で上手い。
些細な変化に気が付いて、いつも可愛いとか綺麗になったとか褒めてくれる。
千春だってその事には感謝してるし嬉しかったし愛があった事は間違いない。
でもそれだけだ。
離婚したクズ男だって母親の事は愛していたしセックスだって上手かったはずだ。
何故分かるかと言えば、あの男が母親を泣かせた後はいつも寝室からギシギシアンアンエッチな声が響いていた。
直樹がそうなるとは言わないが、愛だけでは人は幸せになれないのだ。
それに、直樹にはちょっと金遣いの荒い所がある。
せっかくのバイト代をわけのわからないオタクグッズにつぎ込んでしまうのだ。
一応誕生日などのイベント事にはプレゼンを買ってくれるしデート代を奢ってくれる事も多いのだが、周りのイイ男を捕まえた女子の話と比べるとかなりしょぼい。
あとなんかズレてるし。
わけのわからないアニメキャラのコラボアクセとかいらないし、コラボカフェにも行きたくない。無駄に高いし。
そんなお金があるのならみんなの羨むブランド品とかインスタ映えするデートスポットに連れて行ってくれた方が周りに自慢できる。
結局の所直樹はお子様で、いい人だけどイイ男ではないのである。
このままこいつと結婚して、果たして自分は幸せになれるのだろうか?
折角こんなに可愛く生まれて、狙ってくる男も多いのに。
たった一度の人生の貴重な青春を一人の男で完結させてしまっていいのだろうか?
あたしにはもっとより良い相手、より良い可能性があるんじゃないだろうか?
そんな風に思っていた時に現れたのが隆である。
隆は今の父親がつけてくれた家庭教師で、人生経験の為にアルバイトをしているという某有名大学に通うお金持ちのお坊ちゃまだ。
イケメンだし背だって高い。こんな男を彼氏に出来たらみんなすごいと羨むだろう。
それで試しに誘惑してみたら簡単に乗ってきた。
正直すっごいいい気分。
やっぱり私、自分の価値を過小評価していたのでは? と思った。
隆とのデートは最高だった。
直樹とは行った事のないようなお洒落で高級なレストランに連れて行って貰って(味は全然分からなかったが)、直樹がどれだけバイトしても買えないような(そもそも存在すら知らないだろう)ブランド物のアクセを買ってくれた。
話は欠伸を我慢するのが大変なくらいつまらなかったが、これだけ贅沢な思いが出来れば文句はない。
下心丸出しで家に誘ってきた時はしめたと思った。
向こうもそのつもりで色々貢いでいたのだろう。
他の男とのセックスにも興味があったし、隆との関係をキープしておく意味でも寝てやる事にした。
隣町だし、絶対にバレないと思っていたのだが。
まさかあんなところに直樹がいるとは。
言い訳なんか絶対に不可能な状況だった。
直樹は本当の千春が清楚系とは程遠い人格の持ち主である事を知っている。
だから千春は冷静に計算して直樹を切る事にした。
悪いとは思うし、申し訳ないとも思う。
心だって痛んだ。
だって直樹は幼馴染で、三年ちょっとも付き合って、始めてエッチした男でもあるのだ。
思い出だって沢山ある。
きっと普通の平凡な家庭に生まれていたら、千春だってこんな事はしなかっただろう。
だが、そうではないのだ。
千春にとっての幸せはイイ男を捕まえる事である。
なんにしても、ここで下手に慌てて隆まで失ったらただのマヌケだ。
そういうわけで何でもない振りをして隆と寝た。
最低最悪のゴミクズセックスだったが。
それでも高級マンションの窓から見える夜景は綺麗だった。
そして千春は考えたのだ。
明日からどうするべきか。
直樹はこの事を周りに言い触らすだろうか?
直樹はバカみたいに優しい男なので言わない可能性はあった。
でも100%ではない。
1%でも言い触らす可能性があるのなら、それを想定して動かなければいけない。
さもないと折角築き上げた清楚な美少女キャラというステータスを手放す事になる。
男はみんな処女臭い清楚な女が大好きで、ヤリマンビッチなんか好きじゃないのだ。
遊びの関係ならともかく、付き合ったり結婚しようとは思わないだろう。
千春の目的はイイ男を捕まえる事である。
直樹と別れるのは本当に悲しいが、逆に考えれば、これからは直樹を気にせず男漁りが出来るという事でもある。
その為にも、清楚キャラは手放したくない。
だから千春は心を鬼にして先手を打った。
直樹には悪いと思うが、誰だって自分の身の方が可愛いのだ。
(……誰とでも寝る男とか言っちゃったのはちょっとやりすぎだったけど)
千春だってそこまで言うつもりはなかった。
でも周りの女子が大袈裟に同情してあれこれ事情を聞いてくるから、つい話を盛ってしまった。
ごめん直樹! マジごめん!
その代わり、あたしは絶対幸せになってみせるから!
そうでなければ犠牲になった直樹が浮かばれない。
そういうわけで千春は引き続き隆と関係を持ち身体を重ねているのだった。
「ね~千春ちゃん。一つだけお願いしていい?」
「なんですかぁ?」
「お口で綺麗にして欲しいな~、なんて」
「………………も~。金城さんは甘えん坊さんなんですからぁ」
(いいわけねぇだろ寝言は寝て言え! てめぇがあたしのおマ〇コ舐めるんだよ!)
喉元まで出た言葉と一緒に、千春はリトルなボーイを飲み込んだ。
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