第7話 愛の方程式

 聞けば長い話だった。

 それだけで回想に3話は使うだろう。

 そんな事より話を進めて欲しい読者が多いと思うので要約する。


 1・花房姫麗はエロ可愛系美少女である。

 2・男子からはモテまくり、女子からは妬まれまくった。

 3・それで姫麗は孤立してオタクになり。

 4・振った男子や性悪女子にヤリマンビッチと噂され。

 6・否定してもどうにもならないので開き直ってヤリマンビッチのギャル路線で行くことに。

 7・そしたらなぜか周りがビビって一目置かれるようになったので。

 8・同じように孤立している女子を集めてトップカーストのギャル軍団を結成!

 9・ヤリマンビッチとして恋愛相談なんかも受けていたが、最近周りに非処女が増えてボロが出そうになってきた。

 10・学校一のヤリマンビッチが処女だとバレたら大変だ。

 11・そこに現れた誰とでも寝る男。こいつに抱かれてサクッと処女を卒業だ!

 12・あ~しって天才じゃない?


「超ド級のクソバカだろ」

「なんでだし!?」


 火の玉ストレートの感想に姫麗が叫ぶ。

 ちなみに服はもう着たのであしからず。


「なんでもクソもないだろ。セックスってのは好きな相手とするもんだ。好きでもない、それどころかよくわからん初対面の相手とするとか完全にどうかしてるだろ」

「そんな事ないし! セックスなんかただの性欲の解消法で、好きとか愛とか関係ないじゃん! 真実のラブは性欲とは関係ない、もっと純粋でピュアピュアなものだとあ~しは思うわけ!」

「はぁ? なんだよそれ……」


 予想外の反論に直樹はたじろいだ。


「だってそうでしょ? 人間は男でも女でも、よく知らない相手を見た目とか性癖でいいな~、エッチな事したいな~って思う生き物じゃん。それでセックスしたら好きって事になる? ならないでしょ! つま~り、セックスと愛は関係ないのだ!」


 こんな風にして周りの女子の恋愛相談に乗ってきたのだろう。

 反論は幾らでも浮かぶが、理解出来る部分がまったくないわけでもない。

 直樹自身、セックス=愛という式が成立するのはなんとなく寂しい気がする。

 あるいはそう考える事で、千春の浮気のダメージを軽減しようとしているのかもしれない。


「……いや。やっぱ納得出来ねぇよ。セックスは好きな人とするもんだ」

「じゃあ芦村はセックス=LOVEって思ってるって事?」

「……そうじゃないけど。好きな人には自分以外とセックスして欲しくないだろ……」

「いーじゃん別に。性欲なんか人それぞれだし。それより心の繋がりの方がずっと大事じゃない?」

「彼氏もいない口だけの処女ビッチに言われたって説得力ねぇよ」

「ふごごっ!?」


 並んでベッドに腰かけていた姫麗は白目を剥いてひっくり返った。


「そこまで言う!? あ~しだって気にしてるのに! 芦村の鬼! 悪魔! 人でなしぃ!」

「だって事実だろ。それにお前、俺とヤル直前になってビビって泣いてたじゃねぇかよ」

「……それは、だってぇ……」

「だってなんだよ」


 姫麗が腹筋の力だけで起き上がる。


「実際その場になってみたら急に怖くなっちゃったんだもん!」

「ほら見ろ! そういう事なんだよ! お前だって本当は見ず知らずの相手とヤルのはおかしいって思ってるって事だ!」

「別にあ~しだって誰とでもいいって思ってるわけじゃないし! ていうか芦村のおちんちんがおっきすぎるのが悪いんだし!」

「知るかよ! とにかく、そんなバカみたいな理由なら俺はしないからな! てかお前だってもうする気ないだろ?」

「……そうだけど。このままじゃあ~しが処女だってバレちゃうじゃん!」

「だから知らねぇって……」

「そうだ芦村! ヤリチンなんでしょ? 経験談聞かせてよ! そしたらあ~しもヤリマンロールプレイに活かせるから!」

「なんなんだよヤリマンロールプレイって……」


 バカすぎて直樹は頭痛がしてきた。

 真面目な顔で答えようとする姫麗を手のひらで制する。


「言わんでいい。それにだ、お前と同じで俺もヤリチンじゃないんだよ」

「芦村も偽装ヤリチンの童貞君ってコトォ!?」

「ちげーよ! お前と一緒にすんな! 俺はれっきとした非童貞だ!」

「セックスしたんだ……。あ~し以外の女と……」

「誰なんだよお前は!」

「一度言ってみたかったんだよね~」


 ケラケラと屈託なく姫麗が笑う。

 愛嬌しかない顔面に、悔しいが怒る気も失せる。


「で、芦村はなんでヤリチンのふりしてたの?」


 答えるべきか迷っていると、姫麗はニヤニヤしながら言ってくる。


「い~じゃんか。あ~しは言ったんだから。次は芦村の番! でしょ?」


 メスガキチックな顔に直樹の肩から力が抜ける。

 そもそも別に隠しているわけでもない。

 ただ、誰かに言ったって無駄だと諦めていただけなのだ。


「……お前と同じだ。俺だって別に好きでヤリチンぶってるわけじゃない」


 そして直樹はこっちの事情を話して聞かせた。


「はぁあああああああああああああああああああああ!? な・に・そ・れ!? ありえないんだけどぉおおおおおお!?」


 怒れる処女ビッチが叫んだ。

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