第6話 セックスゴリラ
姫麗は直樹の顏と直樹の直樹と直樹のベッドをチラチラ見ると、人をバカにしたような大きな胸いっぱいに深呼吸をした。
「……おじゃまします」
その割に出てきた言葉は弱々しかったが。
泥棒みたいな足取りでこそこそと直樹のベッドに横たわる。
その間直樹はティッシュとゴムの用意をして枕元に置いた。
その動きに姫麗がギクリと身体を固める。
(……いや、やっぱこいつ違うだろ)
直樹だってバカではない。
先程からの姫麗の態度はどう考えても処女のそれだ。
そこまででないとしても、ヤリマンビッチには到底思えない。
だが、姫麗はそれを自称して直樹と寝たがっている。
(……どうすりゃいんだよ)
据え膳食わぬは男の恥という言葉もあるそうだが、果たしてそれでいいのだろうか?
既に直樹は何となく悪い事しているような気になっている。
直前にVの話題で盛り上がってしまったから、親近感を持ってしまったのだろう。
一方で、直樹の直樹は痛いくらいに熱を持って姫麗の身体を求めてもいた。
シコリ盛りの十代が一週間も抜いていないのだから当然だ。
それに直樹はセックスの味だって知っている。
姫麗とのエッチに興味がないと言えば嘘になるだろう。
千春以上にエロい美少女を抱けば、なんとなく千春に勝った気がして、心の傷も少しは癒えるかもしれない。
姫麗だって同意の上だし、そもそも向こうから誘ってきたのだ。
姫麗を抱いて何が悪い?
(……そうさ。千春だって別の男とヤッたんだ。なら俺だって――)
結論を出した途端、直樹はスッと雄の顏になった。
欲望に身を委ねた獣の顏でベッドに近づき、姫麗の隣に――
「………………出来るわけねぇだろ」
人間の顔に戻ると、直樹は溜息と共にパンツを履いた。
布団の中で直樹を待つ姫麗はぎゅっと目を瞑っていた。
切れ長の目じりからはキラキラとダイヤモンドの欠片みたいな涙が零れていた。
まるで攫われたお姫様だ。
「な、なんでし!?」
本人は自覚がなかったのだろう。
姫麗は布団で胸元を隠しながら起き上がる。
「なんでもなにも、お前処女だろ」
「しょ、処女じゃないし!?」
大袈裟な反応は、自分は処女ですと自白しているようなものだった。
「嘘つけ。どこの世界にお前みたいなヤリマンビッチがいるかよ。元カノよりよっぽど清楚だっての」
むしろ千春の場合は清楚の皮を被った獣なのだが。
エッチ大好きだし、好きな体位は騎乗位だし、おほおほ叫びながら腰を振るセックスゴリラだ。
「こ、ここにいるし!?」
「なら問題だ。こいつはなにに使う?」
三箱いくらのお徳用コンドームを一つ姫麗に投げる。
「ば、バカにすんなし! コンドームでしょ! 避妊に使う奴!」
「まぁ、流石にそれくらいは知ってるか。じゃあこれはどうだ」
もう一つゴムを取り出すと、今度は封を切って中身を投げる。
「そのゴム、どっちからつけるか当てて見ろよ」
「ら、楽勝だし!」
言葉とは裏腹に、姫麗の表情は期末テストでどう頑張っても分からない問題に向き合っている生徒そのものだ。
木の棒を与えられたチンパンジーみたいにおっかなびっくりゴムに触れ、指先でちょんつまんで恐る恐る弄り回す。
この時点で実物のゴムに触れるのが初めてなのはバレバレだ。
「ぅう、こんなのわかんなぃよぉ……」
半泣きの声で呟くと、姫麗はやけっぱちの声で叫んだ。
「多分こっち!」
「多分とか言ってる時点で不正解だろ」
「じゃあこっち! 絶対こっちぃ!」
「残念。ハズレだ」
「……ちょっと勘違いしただけ! 本当は逆が正解だって知ってたし!」
「ってのは嘘で、本当はどっちからでも付けれるんだよ」
「………………騙したし!? そんなのわかるわけないじゃん!?」
「両方使えるってのも嘘だ。こんな嘘に引っかかるのは経験のない処女だけだろ」
「ズルいズルいズルいズルい~!」
駄々っ子みたいに姫麗が暴れる。
「ズルいのはお前だろ。ヤリマンビッチとか意味不明な嘘つきやがって」
「ヤリマンビッチはあ~しが言い出したわけじゃないし! 周りが勝手に言い出したんだし!」
「そんなもん否定すればいいだろうが……」
呆れ果てて頭を掻く。
「出来たらとっくにやってるし! 色々事情があるの! それで仕方なくヤリマンビッチキャラやってるんじゃん!」
半泣きになって姫麗は言う。
冷静に考えると自分も同じ立場だったと直樹は気づいた。
「……まぁ、そういう事もあるかもな」
自分だって元カノの嘘に開き直ってヤリチンになろうとしたのだ。
姫麗をとやかく言う資格なんかないだろう。
似たような境遇に興味すら沸いてきた。
「ちなみにどんな事情なんだ?」
尋ねると、姫麗はむくれた顔で上目遣いを向けてきた。
「……誰にも言わない?」
「約束するのは簡単だが、信じるかどうかはお前次第だろ」
「……言ったらちょ~怒るから」
「怒られるのは嫌だな」
ジト目で睨まれ、直樹の口元が皮肉っぽく笑った。
それで信じるのもどうかと思うが。
ともかく姫麗は理由とやらを語り始めた。
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