第5話 ビッチ?

「そ、そんな事言われなくてもわぁかってるし!」


 そう言って制服の裾に手をかけるが、姫麗はなかなか服を脱がない。

 注射嫌いの子供みたいにプルプル震えながら息を荒げるだけである。


「お前、本当にヤリマンなのか?」

「あ、当たり前っしょ! あーしは既に99人の男とヤッてきたし!」

「その割にはめちゃくちゃ恥ずかしそうなんだが」


 息だけじゃない。ぱっちりとした大きな目は涙で潤み、真っ白い肌は笑えるくらいに赤くなっている。


(……初エッチの時の千春だってここまでじゃなかったぞ)


 まぁ、向こうはそれまでの付き合いが長かったのだが。


「ふぎゅっ」


 直樹の指摘に姫麗は踏んづけられたマスコットみたいな声を出した。

 上目遣いの涙目をこちらに向けると悔しそうに奥歯を噛む。


「ヤリマンだってエッチの時は緊張するし!」

「そ、そうか」


 そう言われると返す言葉はない。


「まぁ、なんでもいいけど早くしてくれ。終わったらシャワーくらい浴びたいだろ」


 本当はヤル前にも浴びた方がいいのだろうが、そこまでの時間の余裕はなさそうだ。

 ヤリマンビッチにも礼儀あり。

 一応優しさを見せておくと、姫麗はキョトンとした。


「ふぇ?」

「いや、ふぇ? じゃなくて。まさかお前、そのまま帰るつもりだったのか?」


 三秒程不思議そうな顔をすると、姫麗はしまったとでも言いたげにハッとした。

 そして慌てた様子で視線を彷徨わせる。


「そ、そうだし! 文句ある!?」

「……いや、文句はないけど」


 不審ではある。

 本当にこれが学校一のヤリマンビッチなのだろうか。

 そんな疑念が顔に出たのだろう。


「あ、あ~しくらいのビッチになったらそれくらい余裕って事! あ~しの方が経験豊富なんだから芦村は黙ってて!」

「なんでもいいから早く脱げよ……」


 本当に何でもいい。

 面倒だから早く終わらせたいというのが本音である。


「わ、分かってるし! 今脱ぐから!」


 声を裏返らせると、姫麗はフーッ! フーッ! と息を荒げ、覚悟を決めたように目を閉じる。


 そしておもむろにスポ~ン! と制服の上着を脱ぎ――


「ぁ、あれ? ちょ、なんで、脱げないし!?」


 へそ出しの半脱ぎ状態でわたわたともがいている。


「なにやってんだよ……」

「胸が引っかかっちゃったの! ちょっと引っ張ってよ!」

「なんで俺が……」

「あ~しとしたいんでしょ!?」

「お前が俺としたいんだろ……」


 やれやれと呟くと、仕方なく上を脱ぐのを手伝ってやる。


「ぷはぁ!? 死ぬかと思った!」

「そんなんで死ぬ奴がいるか」

「わかんないじゃん! 世界史だと憤死する人とかいるし!」

「わかったから早く脱げって」

「わかってるし!?」


 全然分かっていなかった。

 その後も色々あって、服を脱ぐだけで十分以上かかった。

 全部描写していたら、それだけで三話分くらいになるだろう。

 そんな事をしていたら展開が遅いとレビューに書かれるのでここでは割愛する。


「ほら!? 脱いだし!? これで満足!?」


 もう、全身茹蛸みたいに真っ赤にして、名画『ヴィーナスの誕生』みたいなポーズで姫麗は言う。


「……まぁ、流石に男を食い散らかしてるだけの事はあるな」


 ヤリたい女ランキング一位は伊達じゃない。

 姫麗の裸はエロかった。

 童貞だったらこの時点で射精していたかもしれない。


 今は両手で隠しているが、大事な所だってバッチリ見えた。

 下は無毛で上は綺麗な桜色。

 千春もエロい身体をしていたが、姫麗には負けるだろう。

 ちなみに千春はああ見えて結構剛毛だった。

 本人は気にして剃っていたが、当時の直樹はそんな所だって愛しく思えていた。


(……こんな時まで思い出す事ないだろ)


 げんなりとしてこめかみを叩く。

 思い出とは厄介な物で、思い出したくなくても勝手に頭に浮かんでしまうのだ。


「……それってどういう意味」


 ジト目で姫麗が聞いてくる。


「……あぁ、悪い。普通に綺麗だって意味だ」


 本人が開き直っているから忘れていたが、普通はヤリマンとかビッチとか男を食い散らかしているなんて表現は侮辱でしかない。

 開き直った気になっても、直樹だってそんな風に言われるのは心外なのだ。

 姫麗もそれは同じなのかもしれない。


「なら良いし」


 嬉しそうに笑うので、そんな事もないのかもしれないが。


「それより芦村こそ早く脱げし!」


 ご指摘通り、直樹は上を脱いだだけで、下はズボンのままだった。


「誰かさんがとろとろしてるから待ってたんだよ」


 そう言って直樹はボロンと下を脱いだ。


「ふぁああああ!?」


 姫麗はゴキブリでも出たみたいに驚いて飛び跳ねる。


「なんだよその反応は……」

「だ、だってこんなの初めて見たし……」

「はぁ? チンコ見た事ないヤリマンなんかいないだろ」


 やっぱりこいつ、ヤリマンじゃないのでは?

 下手したら処女の可能性すらあるのではないだろうか。

 疑う直樹に姫麗はハッとして。


「そ、そーいう意味じゃなくて! こんなでっかいおちんちんの男子は初めてって事!」

「……そうか? だいたいこんなもんだろ?」


 大きな声では言えないが、エッチな動画に出て来る男優さんはこれくらいだ。

 だから直樹は、自分のそれが平均的だと思っている。


「そ、そうなの?」


 姫麗はびっくりした顔で、嘘マジこんなデカいのみんな入れてるの!? という感じで直樹の直樹を指の間からチラチラ見ている。


「いや、他の男子の勃起したチンコなんか見た事ないけど」

「あ、あ~しは見た事あるし! だからあ~しの言う事の方が正しいし!」

「はいはいわかったわかった」


 言い合ったってどうせ水掛け論だ。

 それよりも直樹は内心で勃起出来た事にホッとしていた。


 恥ずかしい話だが、千春に浮気されてから直樹の直樹はピクリとも反応しなくなっていた。

 そもそも全然そんな気になれないのだ。

 なりたいとも思わなかったが。


 ともかく、浮気が原因でインポになったのではと疑っていた。

 そんな直樹を勃たせてしまうのだから、その辺は流石のヤリマンビッチという事なのかもしれない。


 直樹としては、むしろ姫麗の初々しく見える態度にエロスを感じていたのだが。


「じゃあヤルか」


 布団をめくると、直樹は視線でベッドに入るよう促した。


 こんなムードのないセックスは初めてだと内心で笑いそうになる。


 誰とでも寝る男と学校一のヤリマンビッチには、そんなものは不必要なのかもしれないが。

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