第3話 一等車両
「待てと……。
おお!」
先に行くフィアーナを追い掛けて、入ったグランドモービルの貴族向け車両内は、シックなライトに照らされた木目調の内装の廊下となっていた。
それに驚き、思わず感嘆の声を上げた。
「良い感じだな!」
「……高級ホテルみたい」
先に中へ足を踏み入れていたフィアーナも、内部の様子に満足げである。
「大姉様もフィアーナもそんなに急がないでください。
そもそも私達が使うのが、何処の部屋か分かるのですか?」
逆に追い付いてきたリッテは、平常運転。
そこまで、内装を注視している感もなかった。
「それはすまん。
しかし、凄い内装だぞ?」
「……そうですか?
普通だと思いますけど?」
軽く謝って、内部の感想を述べる俺に、気にも止めていない感じのリッテの返答。
「これが生まれの差と言うことか……」
「これだから、お金持ちは……」
日本的感性持ちの俺と、俺に付き合ってダンジョン生活が長かったフィアーナがそれぞれに文句を言う。
「何がお金持ちですか……。
行きますよ?
私達3人が使うのはこの第1車両の1号室です」
「「はーい」」
お疲れ気味の声を出すリッテに従い、中へ進む。
1号車の中は北側に前後の車両へ通じる廊下があり、その廊下には2つの扉が設置されていた。
車両の中央付近にある1号室の扉に対して、2号室はえらく隅の方で……。
「歪な扉の設置間隔だな……」
「ああ。
あちらは侍従用の待機室ですよ。
1号車と2号車には、1つずつしか客室はありませんので……」
「そういえば高位貴族も利用するんだったな……」
まさかの1車両貸切り状態であった。
まあ、高位貴族が利用する点を考えればそこまで不思議ではないのかもしれないが……。
そんなことを考えながら、室内へ入ると更に廊下があり、正面に3部屋、両脇に2部屋の合計5部屋に分岐している。
「この3つが個室ですので好きな部屋を使ってください。
端の2部屋は、それぞれ浴室と先ほどの侍従待機室へ通じていますので、注意してください」
「まあ高位貴族ともなると、個々に部屋が必要だしな……」
家族と言えど、自分の展開している事業を知られるのは困る。
変に周囲から疑われると面倒と言う意味で。
そのせいで、家庭内がギスギスするのもどうかと思うが……。
「そういう例もあるかと思われますが、基本的には数家でお金を出し合って乗るのが基本ですから……」
「うん?」
「このモービルの1号車や2号車は、車両貸切りですので、数人で分担するのが普通なんです」
「……ああ。
何人乗っても金額が変わらないと言うことか……」
確かにコンドミニアムのような制度であれば、大人数で分担した方が楽だな。
しかし、
「そうなると食事とかはどうなるんだ?」
「その都度払いですから問題はないかと思われますが?」
「その都度?
それはそれで双方に手間じゃないか?」
運営側としては、食材の管理コストの増大と受け取った代金の管理。
利用者側は、端的に金を持ち歩かないとならない不便さ。
どちらも手間が掛かる。
「仰る通りですけど、やむを得ずと言うやつです。
最初はつけ払いにして、降りた段階での精算を考えたのですけど、ごねる人間が大量発生したと聞いてます」
「ごねる?」
「しっかりと三食完食したくせに、精算の段階で食材がどうとか、味がどうだったとか言い出して、値切ろうとした貴族が大量発生したと聞いてます」
「……」
見栄はどうした見栄は。
貴族の癖に、後から難癖付けるとか恥ずかしくないのか?
「中には、侮辱されたと騒ぐ輩もいたとのことです」
「侮辱?」
「相応しくない食事を出されたと言って、賠償を請求する貴族ですね。
なにぶん、貸切り車両ですので第三者がいないと言う問題があります。
酷い話では残飯を出されたと騒いで、ただで利用しようとした輩がいたとか……」
凄いな。
完全にハラスメント案件じゃないか。
「まあトレイン家から、グランドモービルの運営権を奪いたい貴族の差し金だったようですが……」
「ああ。
そういう連中もいるのか。
だが、トレイン家の後ろ楯を考えたら無謀でしかないだろうに……」
結局、トレイン家はただの現場責任者であり、グランドモービルの最終的な権利者は皇帝にある。
「そのようです。
そういう連中は、一族郎党まとめて乗車権利を剥奪されたと聞いていますが、念のため、つけ払い制度の復活は見送られたとのこと」
「なるほど。
都度払いの必要性は分かった。
だが、最初から食事を利用プランに組み込まないのは?」
どう考えても、事前に食事をプランに組み込んだ方が、材料の保管スペースの省力化に繋がる。
「……あれを見れば分かるのでは?」
「……ああ」
リッテに促された方には、自身のマジックバッグから取り出した串焼きを頬張る娘の姿があった。
フィアーナのような大食いがいると決められた食材量では対応しきれないかもしれないからな……。
と言うか、
「フィアーナ。
少し食べ過ぎじゃないか?」
「うん?
食事はただの道楽。
ならば楽しむが道理」
「お前は長生きするよ……」
確かに、俺達真竜は食事を食べる必要はないから、食事は嗜好品に近いが、それゆえに、逆にそこまで執着出来るのも凄いと呆れるしかない。
「当然。
私はこれから食堂に行く。
母はどうする?」
「……まあ着いていくけど」
グランドモービルで提供される食事に興味があるのは事実だが、フィアーナに誘われるのが釈然としない!
「フフ。
それでは全員で向かいましょう」
「……」
そんな俺の内面を見透かすリッテが苦笑しつつ、案内を始める。
しかし、下手に突っ込んでも、返って墓穴を掘るだけなので、俺は黙って付いていくことにした。
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