第4話 食事を楽しむ
「未だに出発前なのに、良いのか?」
つい、フィアーナに乗せられてやって来た食堂車だが、此処に来ておかしいことに気付いた。
まだ動き出していないのに食事を提供できるとも思えないだろ?
今は準備中とみるべきだと思う。
しかし、
「ようこそ!
ミフィア様ご一行様。
どうぞ、展望室の方へ。
ご注文が決まりましたら、お知らせください」
と、声を掛けてきたウェイトレスの言葉により、問題がないことを悟る。
「大姉様。
ドラグネアから次の駅に当たる、ラーセンやアタンタルまでは、半日の旅程なのです。
しかし、取られる費用は通常の1日分ですので、出発前の食事は普通なのですよ?」
「……セコいな」
展望室への階段を登る俺に、横からリッテが説明を入れてくれる。
だが、その内容は車両を貸し切るような金持ちの態度とは思えない。
だが、
「いえ、1区間800万エーンの贅沢ですよ?
少しでも元を取りたいのは当然では?」
「800万エーン?
今の物価だとどれくらいになるんだ?」
一応、随分前からエーンと言う通貨単位が作られたと言う情報はあるが、こちとら、現在の通貨すらまともに触ったことのない引きこもりである。
……引きこもりって、嫌な表現だな。
箱入り息子……。
男性体で50年弱に対して、女性体で100年強……。
箱入り娘と自己表現しよう。
「地方都市なら家が建ちます。
帝都ドラグネアでも3区間分で一国一城の主ですね」
「結構な額だが、逆に車両貸し切りにしては安いような気もするな……」
「利益は大したことがないと言う話です。
ですが、自然と長距離移動となるので、連続で利用をしてもらうことで利益を重ねるビジネスモデルですね」
……確かに空荷で運行するのが一番の問題ではあるし、1度取り込んだ客は目的地まで逃がしたくないのも道理。
ならば、地方で家が建つレベルと言うのも妥当なのだろう。
「失礼いたします。
お嬢様方。
ウェルカムドリンクのハーブティーをお持ちいたしました。
ご注文が決まりましたら、呼び鈴にてお知らせくださいませ」
見晴らしの良い展望室では執事のような男が、俺達の着席を手助けし、テーブルに並べられたお茶のようなモノを示すと、さっと退散する。
「……優雅なものだな」
展望室からは車両の両脇の景色が見える。
用意されていた冷たいハーブティーに口を付けると、ミント系の爽やかな味わいが鼻を抜ける。
とても、つい先日までダンジョンの奥に籠っていた人間の生活には思えない。
「いえ、大姉様が天帝宮に戻られるなら、これが平常になるんですが?」
「嫌だよ。
たまの贅沢ならともかく、毎日これじゃ直ぐに飽きる」
「……でしょうね。
今では私達もそう思っています」
リッテ達も変わったものだ。
ロッティならともかく、他の姉妹達が人間社会へ入り込むと言うのは想定外。
だが、俺を通じて、ユーリカやマナ、その子供達との付き合いが生まれ、そこら人の世に紛れると言う状況へと変質していったと言う事実はある意味感慨深い。
……肝心の俺がダンジョンで仲間はずれだった点は納得いかんが。
チリィン。
そんな感想に耽っていた俺の耳に、澄んだ鈴の音が響く……。
ん?
「此処から此処まで1人前ずつ持ってきて」
「畏まりました」
澄んだ音だと浸っていて、鈴の音に心当たりがなかった俺が見渡すと、何処かのアニメにあるような注文方法で食事を頼む娘の姿が。
「いや、どういう注文方法だよ?」
「何か問題が?」
旅情を楽しむには、あまりに不似合いな行動を嗜めようとしたのだが、フィアーナからは逆に不思議そうにみられる羽目に。
「大衆食堂みたいな注文をするな」
「私は普段からこんな感じで利用している」
「はい。
いつものことですので……」
「……はい?」
俺の文句に対して、返されたフィアーナの反論。
そこに上乗せされるのは、グランドモービルの執事の言葉だった。
「母と違って、私はこれの常連だ。
いつもこんな感じで利用している」
「フィアーナさんが、真竜であることが周囲に広がるのは都合が悪かったと言うことですよ」
想定外の事態に固まる俺に種明かしをするのは、頼れる常識人な妹だが、その内容はある意味真っ当なものであった。
……箱入り娘仲間だと思っていたのに。
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