第23話
銀二の母は引っ越さずに本家の手伝いをしながら家でお花の教室を始め、銀二の父になる人と結婚して家へ住まわせ、アタシと同じようにこの地域に住み続けている。銀二が中学生になる前に離婚して父は出て行って、兄弟のいない銀二と母は2人きりで暮らしてきた。
アタシの父もずっとこの地域に住んでいる。もともと祖父母が住んでいて母と結婚当初は別に部屋を借りて住んでいたが、祖父が他界したのを機に夫婦で実家へ戻り祖母と同居しアタシ達姉妹を育てた。父と銀二の母は年齢は違うが、アタシと銀二みたいなもので幼馴染だった。
アタシは銀二の母から週末にはお花を習い、平日の数日は仕事から帰ったら料理を習った。銀二の妄想する“結婚前の女の子”になってあげようと思ったからだ。知らない人に習うより産まれたときから知ってる人に習った方がいいし、なにより銀二の母親だ。それとアタシはおばさんが好きだった。2人で台所に立っていた時
「まさか桜ちゃんが嫁に来るとはねぇ。本当にあんな馬鹿でいいの?」
と、聞くので
「アタシもそう思います」
とふざけた返事をすると、おばさんも銀二のように豪快に笑う。さすが親子だなと思う。
「よっぽど相性がいいの?いろんな意味で」
と、笑いながらこちらが返事に困るようなことを言ったりするおばさん。
陽気なところも銀二とそっくりで、彼は間違いなく母に似たんだと確信する。だからアタシはおばさんが好きなのかと納得する。
アタシと銀二は結婚してから、銀二の家に住むことを決めた。2階をアタシ達のスペースにするために、おばさんは1階の使ってない部屋を自分の寝室用にリフォームすると張り切っている。そのため平日の昼間は職人が出入りして作業の音を近所中に響かせていた。
入籍した時点でおばさんをお母さんと呼ぶべきだろうか。一緒に住みだしてからだろうか。今もうすでにだろうか。
うちに銀二とおばさんを招いて食事をしていた。広いダイニングテーブルの上座に父が座り左手に母と姉とアタシ、向かいに銀二とおばさんが座った。正直なところ、料理の腕もレパートリーの数もおばさんより専業主婦の母のが上で、いつにも増して色とりどりでバランスの取れたご馳走が所狭しと並んでいた。これが目当てだったのか姉が食事をしながら聞く。
「結婚式するの?」
「いや、アタシ人多いの苦手だし、注目されるのもイヤだし、ドレスとか別にテンションあがんないし……」
「あんたらしいわ。かわいくないね」と、姉が笑いながら言ったが銀二の母が
「うちに気をつかわないで。2回目だからって……」
と、申し訳なさそうに言った。本当にアタシは式にはまったく興味がなく、銀二ともそれは話していて写真だけ撮ろうと決めていた。両親も金銭面は任せろといった風だったが、だったらそれを新婚旅行代にしたいくらいだ。
すると父が
「結婚式しないなら退職考えようかな……」
とポツリと、でも大胆な事を言い出した。
娘2人の結婚式で立派な父親としての立派な肩書が必要だったが、もうそれが必要ないだろうと思ったそうだ。
それも
「毎日家にいられてもママがいやだってー」
と、姉が笑い飛ばした。
そして今度はアタシたちの子供の話になった。姉はパートナーと家庭を築いて子育てをしたくて養子縁組を考えていて、相手の女性は子供を迎えたら仕事を辞めて子育てに専念したいと言っているらしい。今の姉は家族を養っていく器量・経済力は存分に備わっていると思う。
しかしながら書類上は独身女性の姉が養子を迎えるのは至難の業だという。一同真剣にその話に聞き入った。
そして母が「じゃぁ
「ママには悪いけど、アタシ子供好きじゃないし、チェリーがいるからいいの」
と、この話を終わらそうとぶっきらぼうに言い切った。
「チェリーは猫でしょ。桜子はなんでも嫌いなのね。かわいくない子なの、ごめんね銀ちゃん」
と、しつこい母はくらいついてきた。アタシが少し不機嫌そうに言ったからか食卓が静かになった。
「違います。オレ不妊で……。桜子は知ってるけど。オレのせいっす」
やっぱり銀二はだまってられなかった。言わなくていいのに。アタシは昔からかわいくないから、かわいくないって言われても痛くも痒くもないのに。おばさんも知らなかったようで「本当?」と小声で銀二に尋ねた後、
「ごめんなさい。うちの出来損ないが……」
と、両親に向かって誤った。
それを見ていたアタシは黙っていられずに
「お母さん! アタシ、いくらなんでもその言い方、許せないよ!」
と、思わず銀二の母に向かって言い放つと彼女はびっくりした顔をしていたので
「ごめんなさい。でもアタシにとって銀二は大事なの。守るって決めたの」
と、言って我に返った。
横にいた姉がアタシの腕をさすりながら
「かわいくないけど、かっこいいじゃん、あんた」
と笑顔で言って落ち着かせてくれた。
おばさん改めお母さんは「ありがとう」と言って泣いていた。
銀二はいつもの笑顔でお母さんの肩を抱きながらこちらを見ていた。母はアタシの勢いに茫然とし、父はもらい泣きしていた。
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