第18話

 アタシと銀二ぎんじはその行為に耽っていた。

するとバタンと音がして驚いたアタシは一糸まとわぬ姿で銀二にまたがったまま、背中側にある扉に振り返って目をやった。

そこには銀二の母親が目を丸くしてドアノブを握りしめたまま立っていた。

目が合ったは母は「あ、あの、ごめ、あ……」と、言葉にならない言葉を発しながら勢いよくドアを閉めバタバタと階段を下りていった。

さっきまで留守だった母がいつの間に帰ってきて、見知らぬ靴に気づいて部屋まで上がってきたのだった。

「どうしよう……」と、銀二に目をやったが、参ったといった感じで手を顔にあて天を仰いでいる。そしてガバっと起き上がってアタシを抱きしめながら

「今頃おまえのママにも知れてるな。」

と、言ってため息をつくと同時にアタシも「あぁ……」と、途方に暮れた。

仲の良い母たちのことだから今頃電話でもしてざわついているに違いない。


 着替えて帰ろうとすると、挨拶に行くと言って銀二がついてくる。

まだ母に知られてない可能性もあると、銀二を止めようとしたが後を追ってくる。玄関でまで、アタシの家に一緒に行く、行かない、で、押し問答していると銀二の母が今まで見せたことのない満面の笑みでやってきた。その表情を見てもう我が家にまで伝わっただろうと確信した。

あんな姿見せてしまってすみませんとか言いたいことはあったが、銀二はさっさと玄関から出て行ってしまい何からどう説明すべきか立ちつくしていると、それを察したかのように「桜ちゃん、また来てね」と銀二の母から声をかけてくれた。

アタシは引きつった笑顔で「お邪魔しました」と返すのが精一杯だった。


 結局2人で家に行き、そっとリビングを覗くと両親がそろっていた。もう聞き及んでいるだろうが、なにも知りませんといったような演技で、父は本を読んでいるフリをしている。

「あら、銀ちゃん、今日もかっこいいわね」

などと、母は明らかにわざとらしい笑顔を浮かべた。「私、さっき階段から落ちちゃって」と、聞いてもいない話を始める始末だった。

それを遮るように思い切り息を吸った銀二が大きな声で言う。

「俺たち、まじめに付き合ってます! 桜子とは結婚も考えてます!」

両親とも突然のことで銀二をただ見つめた。アタシは思わず「は?」と、言って彼を見上げた。

 父はお気に入りの銀二と寂し気な次女が真剣な交際をしてると聞いて、ほっとしたのか嬉しかったのか「銀二くん飲もうか」と誘ったが、もう遅いのでまた今度と母に諭されて残念な表情をしていた。言いたいことを言った銀二はスッキリした表情で家を出た。


 玄関先までついて行き、

「銀、本気?」と、聞くと

「俺はいつも本気だよー」と、言いながらご機嫌に手を振って帰って行った。

結婚まで約束した覚えはないけど……。

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