第17話
頭の上で花見が行われているのじゃないかと思うほど騒がしい。あれやこれやと考えてしまって脳みそがフル稼働してて騒がしいのだ。おかげで眠れない。
意を決して仕事が終わった後、再度
<同情したんじゃありません!
今日話したいから時間あるとき連絡ください。>
あいかわらず可愛げのないメッセージだが、思い切って送った。
しかしメッセージは“既読”になったものの、いっこうに連絡はなかった。
仕事を終え家に帰ってもまだ銀二からの連絡はない。今日会わないと自分の勇気が尽きてしまう気がして思い切って家まで行った。
チャイムを鳴らすと、インターフォンごしに銀二が出た。
「話したいんだけどっ」
と、怒った風に言うと
「わかった。誰もいないから入れよ。」
と、低い声で返事した後カギを開けた。
玄関で顔を合わせたアタシ達の間にはあいかわらず気まずい空気が漂っていた。勢いよく来たものの何から言えばいいかわからず、眉間にしわを寄せた顔で銀二の足元をにらんでいた。
「なんでお前が怒ってんだよ」
と、いつもとは違う声の銀二だった。
「だって銀二がなにもわかってないから。」
と、言うと涙が込み上げてきたが、泣けば優しい銀二は絆されてなんとなく友達に戻ると思う。だけどそれじゃなんの解決にもならないので堪えた。
銀二は無言のままアタシの手を引っ張った。靴を履いたままだったので「え?!」と、銀二を見あげてあわてて靴を脱いだ。強く引っ張られるまま、彼の部屋に行った。
「おまえ、もうオレ以外の男とヤんない?」
想像もしなかったことを銀二は聞いてきた。アタシは彼を見て申し訳ないといった表情で4、5回小刻みに首を縦に振った。
すると大きな体が力強くアタシを覆った。
それが苦しかったけど、ここ数週間の苦しみに比べたらぜんぜんだ。嬉しくてまた涙が込み上げた。でも泣くと銀二が絆されるからまた堪えた。
銀二はアタシを抱きしめていた腕を緩めてアタシを見ると「オレはヤるかも。」と、ニヤリとしながら言った。「は?!」と、また眉間にしわを寄せると「うそうそ」と言いながら銀二は笑顔を見せた。
アタシはこの笑顔が小さい頃から好きだった。大きな口の口角を思いっきり上げながら横に広げそれに押されて頬が持ち上り、頬と口の端の間にはそれで生じた皺ができる笑顔。
公園で転んだ時も、両親に叱られたときも、友達とケンカしたときも、失恋した時も、アタシはこの笑顔に救われてきた。
そしてまた2人でベッドに腰かけた。
でもこの前とは違う。今回はお互いの意思を確認したし、これからおよぶ行為の意味についてちゃんと理解していた。同情でも寂しさからでもない。
綺麗に平衡な二重の大きくて鋭い目で銀二はアタシを真剣に見つめている。それを見つめ返す自分が彼の瞳に映る。それが今までの自分たちと違いすぎて、クスっと笑って目を伏せた。
彼がなに?という表情をしたので
「銀二がまじめな顔してるから」
と、笑いながら言うと
「おまえ、このタイミングで最悪だな」
と、銀二も笑う。
そしてアタシの背中はまた彼のベットのシーツの感覚を取り戻した。
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