第15話
「
と、
またこれは、だいぶ色気のない誘いだなと思い「なんで落語?」と、聞き返すと、何を考えていたのか“呪文”をひたすらに、メモ帳に書き散らしているアタシを目撃したからだった。
お笑いサークル出身とあって金比良にはその“呪文”の意味がわかったが、なんでアタシがそんなことをしてるかまでは理解が及ばず、思わず誘ってしまったらしい。アタシにも理解できないんだから無理はない。
「気晴らししたほうがいいっスよ」と、心配している様子だった。
その日の夜、金比良が行きたいという寄席に2人で出かけた。
さすがに“
「悩みっスか? オレでよかったら聞きますよ」
と、タクシーの中で金比良はやさしい言葉をかけてくれたが、さすがにタクシーでできる話でもないので大丈夫だと言って話を反らした。
彼の住んでいるところは家の少し先で、ちょうど別れる交差点でタクシーを下ろしてもらった。
気持ちのいい夜の風を浴びながら、家から少し離れた公園の前を歩いていた。
ここには子供の頃は遊具がいくつも並んでいてよく銀二や藍たちと遊んだが、今はベンチしかない殺風景な公園となってしまった。
子供の頃はあんなに単純だったのに、今はなんでこんなに複雑な関係になってしまったのだろうと泣きそうになったが、そうしてしまったのは自分のせいだとグっとこらえた。
後ろから「おい」と、聞きなれた声で呼びかけられた。振り向くと
少し話そうかと2人で
「なんで連絡くれないの?」
と、少し強い口調で問いただした。
「そっちだって、連絡してこねぇじゃん」と、ごもっともな返答で会話は止まってしまった。気まずい空気のまま沈黙が続いた。
切り出したのは銀二だった。
「おまえ、オレに同情しただけだろ」
子供ができない件にだという。アタシがそれに同情してそういう関係に至ったと誤解している。
「そんなわけないじゃん!」
と、かなり強く否定した。そしてまた沈黙が流れた。
このままだとケンカになって、一生友達には戻れないで終わってしまうかもしれないと思ったが、繕う言葉も見つからずただ下を向いて黙っていた。
「おまえ、まじ最悪……」と、銀二も下を向いたままつぶやいた。そして、
「なんでオレとヤった後、他の男とヤんの?! おまえ、まじ最悪だよ!」
と、怒って足早に公園から出ていった。
アタシは銀二に翠生の件を気付かれていたことも、強く言われたこともショックで顔を上げられなかった。
ボトボトと大粒の涙が頬を伝う間もなく下へと落ちていく。
ベンチに座ってただ泣いた。「
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