第12話
あれから 数日経ったが、まるで何もなかったかのように
それなのにこちらから電話してつい何か言ったり聞いたりしてしまうと、長年築き上げた友情を壊しかねないと思って連絡はしなかった。
いつか『こんなこともあったね』と、笑って話せる時がくるかもしれないからそれまでそっとしておこうと思っている。
それよりなにより、まだあの時のことが生々しくて気まずいので、バッタリ出くわす可能性のある
こんなタイミングで、
「あれから桜ちゃんのことばかり思い出しちゃって……」
と、ドラマのセリフの様な事を言っていた。
最近よく飲みに行く男性といえばお世辞の一つも言わない金比良くらいで、そんなことを言われて少しドキっとしたし、銀二のことばかり考えてしまう自分に嫌気が差してもいたので、翠生と6年ぶりに食事することにした。
会社の近くまで高級車で迎えに来た翠生は少し年を重ねた感じはするが、それはそれで渋さを増してあいかわらず格好よかった。仕事も順調で男としての魅力は一層上がってるように感じる。あの時の結婚はもうすでに破綻して、今は独身を満喫しているという。
「桜ちゃんはぜんぜん変わらないね」
と、言われ、それはねぇだろ、30超えたしと思いつつ、笑顔で「そうかなぁ」と謙遜するかわいい女を演じた。
高級ホテルに着き、吸い込まれるように最上階のバーへ行った。
まるで岸から大海原を眺めるみたいに広がっている光の海。それがほとんど
あいかわらず高級ないい店に連れてくるし、女が喜ぶようなことを恥じらいもなく言う。女の扱いが本当にうまい。
「桜ちゃんにふられて、オレ結構傷ついたんだよ」
と、軽い口調で翠生は言った。ふられたのは自分の方だと思っていたから「どういうこと?」と、聞き返した。
翠生の理屈では結婚するから別れたいとは言ってないという。アタシとなら結婚した後も続けていきたかったと。結婚はあくまで計算の上でしたまでで、気持ちはアタシにあったというのだ。
たまたま目の前にあった蝋燭が小さくなり、火が消えていくのを見つめながら、その話を少ししらけた気分で聞いていた。そんな風に言われた自分は喜ぶかと思ったが
(さすがプレイボーイだな)
と、むしろ感心したのだった。
「蝋燭もらう?」
と、自分たちの手元が少し暗くなったので聞くと
「いや、大丈夫でしょ」
と、翠生は答えた。
そんな話をしてる時、スマートフォンに着信があった。銀二からだ。でも、今は出られる状況ではない。バッグの奥に押し込んで無視した。
少し酔いが回った頃「部屋とるよ?」と、言われ、結局この雰囲気と翠生の魅力に勝てず、2人で部屋へと向かった。
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