第6話
数日後、頼れる後輩の
「それは絶対、今カノでしょ」
と大笑いした。
いちおう翌日に、食事をご馳走になったお礼のメッセージを送ったが
<わざわざありがとうございます。>
と、あっさりした返事のみでそれ以来なんの音沙汰もない。それがなによりの証拠かと納得していた。
「よっぽど先輩との食事つまらなかったっていう説もありますけどっ!」
と、チャカしたが、どちらでもよかった。
そもそも紺野にそれほど興味があったわけではなく、ただなんとなく一般の社会人達がやっているようなデートを久々に味わいたかっただけだった。多分、彼はそれには充分すぎる相手だっただろうけど、自分の感情に変化はなかった。
終業時間近くにスマートフォンにメッセージが届いた。
何時に終わる?
近くにいるからメシ行こ♥
と、
本気だったら照れ臭いし、何となくだったら誤解を招きそうで怖いからだ。
このハートマークの件も杏奈に話してみると
「いるっすよねー男でも女でも……」と、同意してくれたものの
「あ、でも自分も使いますよ。相手イヤな気にさせないし。思わせぶりも時には大事っすよ」と、
確かに思わせぶりなのだ。しかし銀二の場合、それが天然なのだ。
子供のころから、銀二の天然に惹かれては敗れ去っていく女の子を何十人と見てきた。
彼のモテる秘訣はそういうところなのだ。
仕事を終えて会社ビルから出ると、少し離れたところに銀二を見つけた。なにやらギターケースを担いでいたので、真っ先にどうしたのか聞いた。
彼が高校時代にバンドをやっていたのは知っているが、
「だからって、家にギターあるじゃん。仕事してないのに新しいの買わなくっても……」
「暇だったから楽器屋行ったら、欲しくなっちゃってさぁ」
気楽な銀二だった。
会社の前でこんな銀二と立ち話している姿を目撃でもされたら、浮いた噂のないアタシにはバンドマンのヒモがいるなんて噂されかねないので、近くの居酒屋に行った。
銀二がバンドをやっていたことを思い出したアタシは、そのせいで1人友達を失ったことも思い出した。
高校の文化祭で銀二のバンドが演奏するということで、自分の高校の友達数人を連れ立ってそれを観に行った。やっぱりだった。その中の1人が銀二に淡い恋心を抱いてしまったのだ。
「
と、脅迫にも近い、子供のころから何度となく聞いてきたこのセリフを言われたのだ。
彼女と銀二はメールのやり取りをしているようだったし、協力といってもなにをしたらいいのかもわからないし、温かく見守っているつもりだった。しかしこれも『やっぱりか』というように、女の子がふられてしまう。
そしてそれを逆恨みされて、高校の貴重な女友達が1人減ってしまった。
その頃の銀二には同じ高校に彼女がいて、それが友達をふった理由だから「オレは悪くない」という主張だが、それなら最初からメールなど交換すべきではないというのがアタシの意見だった。今更そんな話をしながら飲んだ。
酔いが回ってきて銀二が離婚と同時に会社を辞めた理由を話し出した。小さな会社の社内恋愛で結婚して離婚したので、直接顔を合わせるのもつらいが、周りが気を使うのも申し訳なくて自分が辞めたという。そういう時ってたいてい女の方が辞めていくと思っていたから意外だった。
「フェミニストなんだね」と、褒めると
「オレの方が次の仕事すぐ見つかると思ってさ。オレそういうの上手くできる方だから」と、相変わらず調子に乗ったことを言っていた。確かに、そういうの上手くできてる人生だし、昔からフェミニストだった。それもこの男のモテる要素だったと改めて思った。
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