第6話 戦闘再開
2206番艦は約2日かけてフォボスに戻った。一日かけて補給と機体の点検を行い翌日には再出発する。
「どう、調子の悪いところはないかな?」
「「「大丈夫です!」」」
「具合が悪かったら遠慮なく言ってね。バックアップは待機しているから。」
「「「はい!」」」
フォボスにはうちの分隊から2名の待機者がいるのだ。
「副隊長質問があります。」
「どうしたの?アリサ。」
「どう訓練したら副隊長やリノアさんみたいになれるんですか?」
「どうって……やっぱり毎日の反復訓練が重要かな。それと、親しい友達を作って同調してもらうのもいいと思うよ。」
「同調……ですか……」
「うん。他人がどんなやり方をして、どんな見え方をしてるのかを確かめるの。もし自分のやりかたと違っている部分があったら自分の中で取り入れてみたらいいわ。」
「えっ?やり方や見え方って人によって違うんですか?」
「そうよ。アリサはピプノスだから実感がないかもしれないけど、私がレーダーと同期できるようになったのはサーチャーのリノアと何度も同調させてもらったおかげよ。」
「でも、同調って怖くないですか……。なんか、全部見透かされるみたいで……」
「意外と相手の潜在意識なんて覗かないけどね。でも、それくらい心を許せる友達って大切よ。」
「そう、ですか……」
「副隊長、バリアってできないんですか?」
「バリア?」
「ほら、小説とかアニメで敵の攻撃を防ぐ膜みたいなのが出てくるじゃないですか。」
「ああ、防御シールドのことね。そういえばナオミあなたオタクだったわよね……」
「エヘッ。」
「そうね、専門じゃないから何とも言えないけど、物理攻撃と光学兵器の対策では性質が違ってくると思うの。」
「はい。」
「マイクロ波を含めた光学兵器の対策は簡単よ。艦の周りに障害物を発生させればいいだけだからこれは実装されていてはずよ。それに、艦のコーティングに反射効果を持たせてあるから、光学兵器は無効化されているって聞いたことがあるわ。」
「あっ、だからレーザービームとか見ないんですね。」
「そう。レーザーは発射するのに高い電圧が必要なんだけど、それならレールガンで鉄球を打ち出した方が効果的って考えているみたいね。」
「なるほど。」
「物理攻撃の方は、電磁波で船体を覆う電磁装甲とかいうのが実装されているみたいよ。」
「あっ、それ聞いた事あります。」
「だから、ミサイル着弾の瞬間なら見られるんじゃないかな……目に見えるかどうか知らないけどね。」
私たちは完全にリラックスして紅茶をいただいていた。艦内のリフレッシュエリアである。
「あーあっ、火星に大気があれば紅茶も作れるだろうにね。」
アリサがそんなことを言い出した。
「火星に入植した当時は、それも考えていたみたいよ。」
「えっ、なんで実現されていないんですか?」
「水と二酸化炭素は十分にあるんだけど、窒素がないみたいね。」
「窒素くらい作れないんですか?」
私とアリサの会話にケイトが入ってくる。
「窒素を大量に含んだ小惑星を引っ張ってくるって構想もあったみたいですね。」
「でも、その前に地磁気を発生させないといけないみたいなの。」
「地磁気?」
「そう。地磁気がないと、大気があっても宇宙空間に抜けて行っちゃうみたいよ。」
「それ、私も聞いたことがあります。地磁気を発生させるには、火星のコアを活性化させなくっちゃいけないって。」
「ええ。ケイトのいうとおりね。地磁気を発生させたうえで大気を作って植物を植えていく。技術的なところがクリアできても、数百年かかるらしいわ。」
「テラフォーメーションでしたっけ。極地の氷を溶かすのにとんでもない量の水爆だかを使うとか、本気で議論していたみたいですね。」
「マジですか、火星を壊すつもりなんでしょうか……」
翌日昼過ぎ、2206番艦は補給を終えて再出発した。
「艦長、戦況はどうなっているのですか?」
「地球側は6隻が大破、火星側は2隻が被弾しているようだな。」
「指揮艦を除けばあと3隻ですね。」
「いや、援軍5隻が合流するようだからあと8隻だな。」
「その他の援軍は?」
「これで最後だ。」
「8隻潰せば今期は終了ですね。」
「そういうことだな。」
「よし、目標は5隻!」
「おいおい、そんなにミサイルは積んでないぞ。」
「他の船にはあるんですよね。」
「そりゃあな。」
「じゃ、問題ないです。」
「……まあ、お手柔らかにな。おい、射撃手今のうちに休んでおけよ。うちのお姫様がやる気出してるからな。」
「「「了解!」」」
「じゃあ、私たちも休んでおきましょ。」
「私たちも2隻やるんですね。副隊長は3隻。」
「えっ、私5隻やるつもりだけど。」
「えっ!」
「えっ?」
耐魔法障壁の方向性がわかった以上、難しいことではない。増援で合流するという5隻は早いうちに潰しておきたい。やがて2206は戦闘空域に突入した。敵軍の増援も同じタイミングで参戦したようだ。
「あなたたちは011をやって、私は012から始めるから。」
「はい!」
「ケンジさん、012をお願いします。」
「ロックオン済です。」
「オッケー、いくわよ。」
私は1時間で4隻というハイペースで敵を無力化した。メンバーも011の無力化に成功し、休憩している。
「艦長、次は?」
「少し休憩してくれ。他の船に状況を確認するからな。」
その時だった。クルーの声が艦内に響く。
「2203被弾!動力部損傷、爆発の恐れあり!」
「全員ヘルメット着用!急げ!」
「あなたたちもスーツを着てちょうだい!」
「副隊長も!」
「全員が持ち場を離れる訳にはいかないわ。あなたたちの後で着るから急いでね。」
クルーは戦闘態勢に入る前にスーツ(宇宙服)を着用するが、私たちは同調する必要があるため普段は着用していない。余分なものを身にまとうと感度が鈍くなるからだ。そして、僚艦が爆発した場合、破片によって艦が傷つくことが多い。そのための指示である。
「ノラ!お前も早くスーツを着るんだ!」
「でも艦長……」
「命令だ!」
私は指示に従い、手すりを伝って控室に向かった。ここは無重力なのだ。自分のロッカーを開けてスーツを取り出して足から中に入る。ヘルメットを装着した直後に鈍い音が響き渡った。ゴンッ!次の瞬間私の体は5メートルほど滑空し宇宙空間に放り出された。
【あとがき】
さて、ここまではみんな構想(シナリオ)通りに動いてくれています。余計なことはしないでくださいね……。
シャ・ノワール -ネコと呼ばれた少女たち- モモん @momongakorokoro3
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。シャ・ノワール -ネコと呼ばれた少女たち-の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます