第5話 ダイブ
翌日の深夜、ついに地球軍と火星軍はお互いの姿をレーダーでとらえられる距離に近づいた。
「T-5ミサイル用意しろ。目標は005と008。各3本だ。」
「「「了解!」」」
艦長の指示がブリッジに響き渡る。
「こっちもいくわよ。あなたたちの標的は005。GO!」
返事はない。既に意識の集中に入っているからだ。
「ケンジさん、008に照準をお願いします。」
「了解!」
こちらは広域レーダーではなく、照準型のレーダーだ。時を置かず捕捉完了の応えが返ってくる。私は照準ディスプレイに表示された008のフォルムに意識を集中しレーダーとの同調に入っていく。
すぐに精神体となった私の視界に敵艦のワイヤーフレームが浮かび上がってくる。敵艦のブリッジにあたる部分に意識を集中して質感を与え、その中に侵入する。質感を与えずに突入した場合に視界の変化はない。
ジャングルジムをくぐったようなものだ。質感を持った敵艦の外壁を突破するとそこは敵艦のブリッジになる。そこもワイヤーフレームの世界であり意識外にある生命体は視界に入ってこない。
このブリッジの配置は記憶にある。新造艦ではなさそうだ。記憶を辿ってシステム制御室のドアに質感を与え表示された文字を確認するが何の表示もなかった。
『サーバーの場所を変えた?でも考えにくいわね。』
私はそのドアにもぐりこんだ。サーバーと思しき場所のフレームが半透明の靄に包まれている。
『……これが、耐魔法の効果?』
そこに質感を与えようとしても意識がすり抜けてしまう。
『ちょっと手こずりそうね……。外部と接触してるのは……、データ転送は無線で飛ばしてるみたいだし……、電源はどうかな?』
床に質感を与えてもぐりこむ。
『これが、電源ケーブルね。こいつも実体化して……』
本当に実体化するわけではないが、表現として実体化という言葉を選択しているのだ。電源ケーブルを伝っての侵入は成功した。サーバー内部の記憶領域にアクセスしてまずは予備電源の制御を無効化する。次にBIOS(起動システム)のデータを改ざんし、再起動時に無限ループするようにした。これで復旧に手間取るはずだ。もし搭乗しているSEのレベルが低ければ復旧できない可能性もある。
『準備完了っと。全システム消去っと。』
おそらく現実世界ではバッテリーと連動していない機器はすべてシャットダウンし混乱に陥っているだろう。私は侵入してきたルートを逆にたどり、ブリッジに戻った。
『次は空調ね。』
宇宙船では文字通り生存のカギとなる酸素発生器の付属の空調設備は二重三重の対策がとられている。空調の吹き出し口を実体化して空調本体を特定し、そのシステムに潜り込んでシステムデータを消去した。これで現実世界に回帰する。
「ノラ戻りました!008無力化できたと思いますがどうですか?」
「008完全に沈黙しています。」
「よし、008に集中攻撃だ!」
艦長の指示が飛んだ。
「次、005のフォローに入ります。」
私はサーチャーであるケイトの首に触れて同調していった。すでにメンバーはブリッジにいた。
『どう?』
『あっ、副隊長!来てくれたんですね。』
『もちろんよ。で、状況は?』
『サーバーらしきものは見つけたんですが、なんだか靄がかかっているみたいなんです。』
『多分、それが耐魔法のコーティングよ。床下から電源ケーブルが入っているからアクセスしてみてよ。』
『はい、やってみます。』
『私は空調設備をやっつけるわ。』
005は008と同系の艦だった。さっきと同じ場所に移動してシステムのデータを削除する。現在はメインシステムから制御されているはずなので、こっちを消しても影響はないだろう。続いて電源ユニットにもぐりこみ電源を強制切断させる。瞬時に予備電源に切り替わるため予備電源もシステムダウンさせる。次にエンジンのシステムにもぐりこんで自動運転を手動に切り替え、進行方向を太陽にセットしてやる。現実世界がどうなっているか分からないのが残念だ。私はケイトのところに戻った。ケイトはハッカーのカイリと共にサーバーの内部にいた。
『どうカイリ?』
『今、データにアクセスできました。デリートします……完了しました。』
念のため私も中に潜ってシステムの消去を確認した。
『じゃあ、ブリッジに戻ってナオミとアリサを回収して戻りましょう。』
『『はい!』』
現実世界に戻った私たちは005の無力化を報告する。ケイトたちは肩で息をしていた。
「耐魔法障壁が実装されています。メンバーの消耗が激しいので休憩させてよろしいでしょうか!」
「ご苦労さん。あとはこっちに任せて休んでくれ。」
クルーたちもサムズアップしてあとは俺たちの仕事だと応えてくれる。
「聞いた通りよ。ゆっくり休んでちょうだい。」
「ふ、副隊長は?」
「私はまだまだ元気よ。ほかの隊のサポートにいくわ。」
そう、私はまだまだ元気だったので艦長のところにいく。
「次は何番をやったらいいですか?」
艦長は驚いた顔をしている。
「ノラ……休まなくて平気なのか?」
「御覧のとおりピンピンしていますわ。」
「うーむ、無理はしていないようだな。010がまだ手つかずだ。やっぱり耐魔法障壁で手こずっているのだろう。そっちに回ってくれるか。」
艦長はそういいながらもコンソールに打ち込んでいる。010に対応する入力だろう。私はケンジさんのところに戻り010をリクエストした。
開戦から5時間が経過した。地球側は4隻が大破しており、火星側は2隻が被弾している。メンバーは2回のダイブを行い、私は5回だった。005は大破して太陽の方向に離脱しており、008も中破して沈黙している。今は交代で休憩しているところだ。私もケンジさんの煎れてくれたくれた紅茶をいただいている。
「ようし、聞いてくれ。今全体会議が終わって、うちと被弾した2隻が帰還することになった。」
艦長の発表に、「どうして」という声があがった。
「ミサイルがねえんだよ。誰かさんが頑張ってくれたおかげでな。」
艦長がチラッと私を見た。
「えっ、私のせいなんですか!」
艦内が爆笑の渦に包まれる。
「心配するな。補給したらすぐに戻ってこれるからな。だが、帰る前にノラ、もうひと仕事だ008を完全に沈黙させてくれ。このまま放っておくと特攻コースだ。」
「ラジャー!」
私は008にもう一度ダイブし、メインシステムにアクセスする。ブリッジからのアクセスをすべて遮断したうえで、残っていたミサイルすべてを地球軍の船に向けて発射。進路を太陽にセットしてフルブースト。残弾を手近な船に向けてフルオートで発射させた。
「008対応完了しました!」
「お前……エグいな……」
艦長のつぶやきが微かに聞こえた気がした。
【あとがき】
開戦初日で全ミサイル射出……。まあ、6回分の戦闘があったわけですから当然ですよね。
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