オニ視点 獲物の反撃
「それではオニは行動を開始してネー!」
完全消灯の後、ウサギのアナウンスと共に襖を開けて、わずかな間接照明のある廊下を歩いた。大広間に着くと、まずは風呂場に向かいオニ専用の服に着替えた。レインコートのシャカシャカがうざったい。
掃除好きの運営のくせにわざわざレインコートを着せる理由ってなんだよ? 配信もしないのにカッコつける必要もないし。まさか、人間の中に病気持ちでもいるのか? どうでもいいけど。
あぁ、今日の武器は何にしようか? 思いつく武器はたくさんあるがやっぱりシンプルイズベスト。だよな。
「拳銃とナイフ」
昨日と同じ注文。給仕口の「ガコン」という音を鳴らして武器の到着を告げた。中には昨日と全く同じ銃と新品のサバイバルナイフ。殺せればなんでもいいし、正直今日の獲物はもう決まってた。
ナイフを注文したのにはちょっとしたラッキーが関わっている。
「ナイフで殺すなんて男子にしかできないと思う」
誰が発言したのか忘れたがこういう謎の考察はオニの正体をあやふやにした。おかげで福山レオンが死にゲームは続行となった。
銃の動作確認のために福山レオンの死体に向けて発砲する。チュンチュンとサイレンサーの小さな音、バスタオルの奥で弾ける死体。運営は優秀だな。
「あはははは」
なんて楽しいんだろう。
今日は全く想定外のことが起こったのだ。みんなの相違で「昼のターンで投票数を合わせて処刑者を出さない」と決定したのだ。
これはオニである自分にとって好機以外の何者でもない。だって、長くこのゲームを楽しめるだけじゃなく、こいつらを自分の手で殺すことができるんだから。最後の2人になったら明るい場所で派手にぶっ殺してやろう。正体を明かして、怖がって絶望したアイツに全部全部教えてやろう。
昼のターンで処刑者が出なければ、どんな順番で、どんな風に殺そうがそれはオニの自由だ。アイツが一番恐るストーリーを創り出そう。
考えるだけで興奮して笑みが溢れた。性的興奮に近いくらいに脳が快楽を感じる。福山レオンも薬物なんかじゃなくてコッチにすればよかったのにな。
「足を打つ〜、足を打つ〜♪」
銃を手に変な歌を口ずさみながら廊下を歩く。今日はもう殺す人間を決めているからスムーズだ。暗視ゴーグルをかけて、襖に手をかけ一気に開いた。
「ヒッ」
対象が喉の奥が閉まるような悲鳴をあげた。現実には声を上げていないが口をぱくぱくさせ恐怖に震えている。教室での対象とは大違いだ。人間って恐怖の最上級に触れるとそんな顔になるんだ?
昨日の片岡ミユって実はすごーく美人だったのかも。いや、オニを色仕掛けでなんとかしようとした女狐の最後っ屁だったのかな。
暗視カメラで見ると滑稽だ。オニはそっちにいないよ。対象は手を振り回して必死で逃げもがこうとしている。あ〜、おもしろ。
けどだめだ、動きすぎて急所以外に銃を当てるのが難しい。やっぱ動きを止めないとだめだな。
あー、めんどくせぇ。
足のできるだけ先端の方を狙って5発ほど打ってみた。すると1発右足のふくらはぎにかすって対象は「ぎゃあ!」とやっと声に出る悲鳴をあげた。
動きが止まったので対象を一気に押し倒して腰にくっつけていたサバイバルナイフで対象の左手の平をざっくりと刺してベッドに磔にしてやる。
「痛いーっ! ぎゃー!」
偏差値なんてありそうにもない馬鹿な悲鳴をあげた対象はナイフを抜こうと右手をブンブンと振り回した。
「くっ」
その手が、尖った爪がかすってジリリと痛みを感じる。
「早く、殺しなさいよ。でも、中川くんが絶対に気づいてくれる。死ね!」
対象はそう叫ぶと、怖がる演技をやめて痛みにうめくだけになった。こいつは怖がる演技をしてオニに傷をつけることが目的だった……? 暴れる手足が当たっただけならルール違反にはならないと踏んで……こいつ!
頭にカッと血が昇る。ベッド脇に置いていた銃をとって対象の腹に数発打ち込んだ。それでも物足りなくて弾を全部使い切るまで打ち込んだ。
「はぁ……はぁ。死亡確認を」
「了解だよ!」
暗視ゴーグルをはずすと電気がついて一瞬目が眩んだ。視界が回復するころには昨晩よりひどい真っ赤な光景が広がっていた。
ナイフで脅して首を絞めて殺そうとしたのに、予想外の出来事でカッとなって殺してしまった。腹がぐしゃぐしゃになった対象の遺体をなんとか床に引きずり下ろすとベッドの下に隠してあったオマルも引き摺り出す。中にはもちろん排泄物が入っていた。
「あー人間って死ぬとほんとに重くなるんだな。まぁこいつの魂はスカスカだろうし」
対象の髪を掴んで頭を持ち上げる。流石にサバイバルナイフで首を切り落とすことはできないからこうしよう。
今回はナイフを回収して空になった銃を部屋に置き去りにする。弾が入ってなければ問題ないようだった。レインコートから滴る返り血と体液なんか気にせず大広間へ戻る。昨日と同じように福山の死体も彼の血も綺麗に掃除されていた。また汚すんだけどなぁ。
風呂場に入り、汚物入れにきていた服を入れるとシャワーを浴びる。返り血を流し、体を隅々まで綺麗にする。ちょど良い温度のお湯が肌に触れるたび、気分が爽快になっていく。なんて幸せなんだろう。
体を洗い、泡を流している時に小さな傷を発見した。小さいが長く細く生々しい傷。
「早く、殺しなさいよ。でも、中川くんが絶対に気づいてくれる。死ね!」
もう死ぬ間際だというのに、対象が勝ち誇ったように笑ったのを思い出した。ぎゅっと傷口を握る。もっと怖がって、もっと怯えて、命乞いをしろよ。 死んでもなお、自分の方が上だって……正しかったんだって証明するようなことすんなよ。
バコンと手桶を蹴飛ばしても気分は晴れやかにならなかった。昼間から感じてはいたが嫌な方向に団結しつつある。昼の処刑がなくなったことは幸運だったが、そのことで人間たちの心に余裕が生まれてしまった。余裕が生まれると人間というのはその状況に順応し、適応しようとする。そうなってしまえば人間とオニでは多勢に無勢。圧倒的に不利になる。
「もっと、もっと恐怖を味合わせなきゃな」
風呂を終えて大広間に戻ると、大広間も廊下も綺麗に掃除がされていた。不快な血の匂いもしない。
「GM」
「なんだぴょん?」
「対象に傷付けられたのだけど」
「それは事故? 故意?」
「わからない」
「映像を確認してみるネー? でも対象の死亡確認は完了してるから〜、朝のアナウンスが犠牲者になるか違反者になるかの違いダネ!」
じゃあ、どちらにしろ同じか。このことで人間を不利にできる要素はないならどちらでもよかった。
「うーん、この対象の発言では故意だとは断定できないネー」
「そう。わかった」
「質問はそれだけかナー」
「あぁ」
「それじゃ、オニは活動を終了してお部屋に戻ってネ」
まぁ、どうでもいいか。
最後まで気に食わない女だったな。
部屋に戻ってから、おまるにトイレを済ませるとベッドの下に滑り込ませて、オニの活動終了を宣言した。バチッと再び暗闇が訪れると、ベッドに身を沈め瞼を閉じる。今日の殺しは楽しくなかったな。思い通りの表情をしなかったな。
明日は5人。人間たちはどうやって投票を割るつもりなんだろうか? それを含めて今回の対象を決めたが、こんな胸糞悪い殺しになるとは思わなかった。だったら自分の殺したい人間を優先してしまえばよかったんじゃないか。
対象選びを間違えた後悔をしながらゆっくりと意識が薄れていくのを感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます