オニ視点1夜目 最初の殺し
「それでは完全消灯! えいやっ!」
GMの声が響いた。多分、他の部屋では電気が完全に消えているんだろう。ポケットの中に入っている「オニ専用ルール」を見れば、人間たちがどんなふうに夜を過ごすのかはお見通しだ。
そんな中、自分だけ圧倒的優位に立っている興奮にずっと震えが止まらなかった。この夜、他の生徒たちは自分が殺されるかもしれないという恐怖に怯え部屋の片隅で身を震わせているのだろう。
<ルール1 オニへの武器支給1夜につき2種まで大広間の給仕口で行う>
<ルール2 オニは絶命確認後、大広間のシャワーを許可する>
<ルール3 オニの行動は配信されない>
<ルール4 オニは専用の制服に着替えること(着ていた服は脱衣所にて保管)>
オニ専用と書かれた黒くて動きやすそうなジャージ生地の服と黒いレインコートを着ると、元着ていた服を手に取って大広間へ向かう。
「武器は拳銃とナイフを」
ガシャン、ガシャン。大広間へ向かってから独り言のように呟けば、給仕口へ希望通りの武器が支給された。ご丁寧に銃の使い方説明書まで同封されている。
「安全装置をはずして、引き金を引く。24発オート、サイレンサー付き」
引き金を引いてみればチュンと音が鳴って、遠くの浅田の死体の腕が破裂するように飛び散った。すごい威力だ。見た目じゃ何口径かわからないけど多分、1発打ち込めば殺せるだろう。
「こっちはサバイバルナイフか。両刃。解体用のナイフって言えばよかったな」
銃と一緒に支給された両刃のサバイバルナイフは刃渡り20センチほど。映画などで軍人が持っているようなすごくゴツいものだ。小さいものであれば動物の解体なんかもできるはずだが、人間はどうだろうか?
切れ味の鋭い日本刀は数人斬っただけで人間の油で切れ味が悪くなると本で読んだことがある。それに反して、西洋で使われていた剣は重さで叩き潰していたとか。
まぁ、どうでもいいか。
武器と一緒に給仕口へ落とされてきた暗視ゴーグルをつけて、大広間をあとにする。廊下をゆっくり、ゆっくりあるいて木札を確認する。
横田セリナ、白井ユキ、黒瀬ヨナ。やはり最初の犠牲者は女がいいか? 時間はたっぷりあるんだ。ゆっくり、ゆっくり考えればいいさ。
くるくるとナイフを左手で回し、拳銃をきゅっと握る。あぁ、これから人を殺すんだ。人を殺すってどんなふうなんだろう?
「GM 質問があるんだけど」
「なんだぴょん?」
廊下のスピーカーが応答する。部屋は完全防音になっているらしいから、他の人間たちには聞こえていない。
「もしも、選んだ部屋の人間がルール違反で死んでいたら?」
「ルール違反で死んだ場合はそれが1夜目の殺しになるぴょん。まれに、別部屋にオニの殺しと同時にルール違反死亡が起こることがあるんだケド、その場合は2人死亡になるヨ〜」
なるほど、意外と柔軟に対応しているわけだ。
かちゃり、襖に手をかける。暗視ゴーグルってこんなふうに見えるんだな。緑色だけどはっきりと部屋の中が確認できた。ベッドの上に体操座りしている対象は「ぎゃー!」と叫び声を上げた。
叫び声は上げたのに、動けずにいるようだったので、すかさず襖を閉めて真っ暗闇にしてやった。
「いやっ、いやっ。お願い、なんでもなんでもするから! あなたの姿は見てない! だからお願い! 他に行って!」
キンキンと大声で騒ぐ対象、でも君が見ている先にオニはいないんだな〜。何もいない空間に向かって叫び、命乞いをする姿があまりにも滑稽で吹き出してしまった。
「くくっ」
「ひぃっ」
対象のすぐ横に迫っていたからこめかみに銃口を当ててやった。
「おね、がい」
「いーや」
「ううっ!」
対象はルール違反になってもいいと思ったのかめちゃくちゃに腕を振り回す。窮鼠猫を噛むとはこのことか。慌てて足に向かって一発。
「ぐぎゃっ」
暗視ゴーグル越しだからよく見えなかったが、対象の左太腿に命中。外腿から入って内腿で弾けた銃弾のせいで対象の内腿はぐしゃぐしゃになっていた。腿には動脈があるっていうし、放っておいても死ぬだろうけど、まだ意識はあるようだった。
「おでがい……たずげ…て」
「GM、電気つけて」
バチッ、暗視ゴーグルを外すと同時に部屋の電気がついた。思ったより血飛沫がベッドに飛んでいて、大変なことになっている。ベッドの上でのたうち回っている対象は痛みで苦しみながらもこちらを睨んだ。
銃だとすぐに死んでしまいそうだな。女相手なら急所に打つべきじゃないな。そんなことを考えていると彼女と目があった。
「お前……かよ」
チュン。
次は顔めがけて打った。鼻の左あたりに小さな穴が空いて、彼女の後頭部が弾け飛ぶと、すぐに動かなくなった。ベッドにじんわり、じんわりと血が広がっていく。鉄分の香りと垂れ流される排泄物の香りに包まれながら、ゆっくり銃を床に置くと、サバイバルナイフを取り出して、解剖でもするように肉を切り刻んでいく。
以外にも数十ヶ所切り取ったところでナイフは脂肪で切れ味が悪くなって使い物にならなくなってしまった。流石にルールに武器は2種類と書いてあったし、おかわりをもらうのは違反かもしれない。使い物にならなくなったナイフを大嫌いだった彼女の右目に突き刺して声を上げる。
「完了、死亡確認を」
「了解だぴょん〜」
しばらくすると「死亡確認完了、大広間のシャワールームの使用が可能になりました」と電子音の知らせが届いた。
大広間まで返り血を滴らせながら戻ると、浅田の死体はすっかり消えていて、大広間に立ち込めていた死臭も心地の良い井草の香りに変わっていた。さすがの仕事だ。畳を全部張り替えたのかな。こっちの返り血でまた汚れるけど。
大広間の監視カメラの赤いランプが消えている。つまり、配信はされていないらしい。「風呂」とかかれた襖をあけると、簡易的な脱衣所があり奥には檜の香りのする小さな湯船、脇には温泉によくあるようなシャワー台が一つ。
脱衣所には先ほどまで来ていた服がある。汚さないようにレインコートとオニ専用のの服を脱いで汚物と書かれたバケツに入れ、一目散にシャワーに向かった。
シャワーで返り血や汚れを落とし、気のゆくまで体を洗ってそれから湯船に足を入れる。温泉ではなさそうだがいい湯だ。肩まで浸かって体を芯からあたためながら、さっきまでのあの光景を反芻していく。
対象の怯えた目、必死に命乞いをする姿……。
「くくくっ」
とても滑稽で面白くて思わず笑みが溢れた。人間という生き物の恐ろしほどの醜さに反吐が出る。自分さえ助かればそれでいい? もっともっと痛めつけてやればよかった。
何度も何度も先ほどの記憶を楽しんだ後、すっかりのぼせた体を起こして湯船を出た。脱衣所に人の気配があったから主催者側がオニ専用の服を回収したんだろう。さーて、そろそろ部屋に戻って寝ようか。
予想通り脱衣所に置いておいたオニ専用の服は回収されていた。用意されていたタオルで丁寧に体を拭き、保管してあったもとの服に着替える。風呂場を出ると、自分が滴らせた対象の血も綺麗に掃除されていた。主催者側の努力の凄まじさに感謝しながらもゆっくり、オニであった自分を人間に戻しながら個室のある廊下へと進んだ。廊下は先ほどまで真っ暗だったが、足元の間接照明がうっすらついているおかげで自分の部屋までスムーズにたどり着くことができた。
対象の部屋の前を通る時、笑いが込み上げそうだったがじっと我慢をして、デスゲームに怯える高校生を自分の中にそっと宿す。
「さぁ、明日の朝のみんなの顔が楽しみだ」
自分の部屋にはいるとスピーカーから電子音が流れる。
「オニの行動を終了するぴょん。起床時間までは部屋から出られないぴょん」
「はいはい、了解」
そう返事をしながらベッドに腰掛けた。
バチッとブレーカーでも落ちるように部屋が真っ暗になる。
今、この建物の中で安心して眠りにつけるのは自分だけだ、という優越感の中、ゆっくりと眠りに落ちていった。
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