契約成立

 お風呂から上がった牛河さんは、ジロっとした目でミサキさんを睨みつけた。


 バスタオルを体に巻き、ほとんど裸に近い恰好をしている。

 しっとりと濡れた肌は赤らみ、髪の毛は肩に張り付いている。

 暴力的で怖い牛河さんだが、やはりこうしてみると綺麗な人であることに違いない。


「もう一度言ってもらえます?」

「友達になりましょう」

「嫌です」


 カチ、とスイッチが入れられる。


「い、ててて!」


 腕が痺れて、いきなりの衝撃に心臓が飛び跳ねた。

 ボクの反応を見て、牛河さんはジッと見てくる。

 牛河さんの反応は薄いが、一瞬だけ瞼が持ち上がり、驚いた様子を見せた。


「断ると、イジメちゃう」

「卑怯者」

「何だっていいわよ。とりあえず、座ったら?」


 ソファを顎で差すと、ミサキさんはバスタオルの姿でボクの隣に座った。


「こんなことして、許されると思っているんですか?」

「えーと、名前、……なんだっけ?」


 ミサキさんの目がボクに向き、「牛河さんです」と教えてあげる。


「牛河さん。一つ、紛れもない事実というか。人間の行動というか。おバカな人間にありがちな事を教えてあげる。人間ってね。生き物なのよ。わかる?」


 小ばかにして、ミサキさんはニヤニヤ、クスクスと笑う。

 目に見えて牛河さんは拳を硬く握り、小刻みに震えていた。


「……殺してやる」

「そして、、力ずくな行動に出る。脅しも同様。ふふふ」


 ミサキさんって、本当に意地悪をするのが好きな人なんだろうな。

 すっごい楽しそうに笑っていた。


「じゃあ、友達はなしね」

「……当たり前でしょう」

「だとしたら、水野くんと同じ奴隷なんてどう?」

「は?」

「水野くんの場合、借金が払えなくて奴隷になったのよ。あぁ、もちろん、牛河さんが全額払ってくれるというのなら、解放するわ。約束する」


 牛河さんがボクとミサキさんを交互に見る。


「ちなみに、……いくら?」

「500万」


 嘘だ。

 ボクが返済する額より大幅に増えている。


「あたし、遊び相手がいなくて寂しいの。お願い。奴隷になって」

「……くっ」


 すぐに断ればいいのに、牛河さんは迷っていた。


「奴隷になってくれたら、水野くんを好きにしていい時間をあげる」

「う、……うぅ」

「ね? 水野くん」


 何か言いたげに、ボクを見てきた。

 頷け、という事だろう。

 ボクが逆らえるはずもなく、ボクは「まあ」と曖昧な返事をした。


「わか、……ったわよ」

「え?」


 牛河さんが折れた。

 折ってしまった。


「決まりね」


 ミサキさんが笑顔で近づいてくる。

 牛河さんの目の前に立つと、腕を組んで見下ろし、邪悪な笑みで言った。


「奴隷ちゃん」


 牛河さんは下から睨んでいた。

 ボクの手を掴んで。

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