愛の鞭

 ミサキさんの家に行くと、第一声がこれだった。


「何か、……あなた臭うわね」


 しかめっ面で、ミサキさんが顔を近づけてきた。

 頭のにおいを嗅がれた際、ミサキさんの開いた胸元から、ふんわりとボディソープの匂いが漂ってきた。


 バラの匂い。


 キャミソールからは、白い谷間が見えている。

 ボクは初めて女性の柔らかさを視覚で味わった。


「シャワーを浴びてきなさい」

「え?」

「聞こえなかったの? シャワーを浴びてきなさい」


 *


 まさか、ミサキさんの家でシャワーを浴びる事になるとは予想外だ。

 ボクの家とは違い、二人が横に並んで入れるくらいには、浴槽が広い。

 体を洗うスペースは、足を伸ばして寝られる広さ。


 さすが金持ちだった。


「着替え。ここに置いておくから」

「あ、はい」


 シャワーで頭を洗い、つい体の臭いを自分で嗅いでしまう。

 そんなに臭かっただろうか。


 ガラっ。


「へ?」


 扉の開く音がして、振り返る。

 ミサキさんが腕を組んで、ジッとボクの体を眺めていた。


「ちょ、ちょっと!」


 何やら、難しい表情でボクの体中を見つめ、首を傾げている。

 ボクは裸を見られる恥ずかしさのせいで、どうにかなりそうだった。

 手で前を隠し、隠れる場所を探すが、あるわけがない。


 仕方なく、シャワーを出しっぱなしで、浴槽に浸かる事にした。


「立ちなさい」

「で、でも、……見えちゃうので」

「聞こえなかったの? 立ちなさいって」


 強い口調で命令され、ボクはゆっくりと立ち上がった。


「後ろを向いて」


 言われた通りにすると、足音が近づいてくる。

 すぐ後ろにミサキさんの気配を感じ、反応に困ったボクは縮こまってしまう。


「あなた。蚊に刺されたの? 一体、どこへ行っていたのよ」

「蚊?」

「背中。赤くなってるわよ」


 ミサキさんが指で触れて、一つ一つ教えてくれる。


「こことここ。あと、ここ。……それから」


 尻を指で突かれ、体が震えた。


「ここにも。かなり刺されたのね」

「えぇ? お、おかしいな」

「上がったら、体を拭いてリビングにきて。薬くらい塗ってあげるわよ」


 なんだか、おかしなことになってきた。

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