見せつけ

 バスタオルを敷いて、リビングの床でうつ伏せになった。

 ミサキさんは虫刺され用の薬を指で掬い、背中から順に塗り込んでくる。


「水野くんって、幽霊にでも憑りつかれてるんじゃない」

「幽霊、ですか?」


 本気で信じてるわけではないだろう。

 ミサキさんの声の調子が、ちょっと小馬鹿にする風だった。


「最近、水野くんが来るたびに、人影が見えるのよね」

「……こ、怖い事言わないでくださいよ」


 ボクはその手の話を信じるので、普通に怖かった。

 怯えてる時に、背中に冷たい感触が伝わる。

 すぐに人肌温度に変わったぬめりは、柔らかい指先で背中を押され、マッサージを受けている気分だった。


「どっちでもいいけど。あたしの家、外からじゃ覗けないのよね」


 振り向くと、ミサキさんはどこかを見ていた。

 すぐに視線がボクの顔に注がれ、ニヤっとした笑みに変わる。


 続いてお尻に軟膏を塗られる。


「んー。明かり、……もっと付けたら透けるかしら」


 リモコンでリビングの明るさを調整。

 眩しいくらいに白い明かりで室内が照らされると、「きて」とミサキさんに言われ、窓際に移動。


「ここで仰向けになって」

「え、何で?」

「いいから」


 意味が分からないけど、言われるがままにボクは窓際で仰向けになった。

 念のため見えないよう、手で股間を隠し、眩しい明かりに目を細める。

 ふと、光が何かで遮られた。


「ん、しょ」


 顔にずっしりとした重みが圧し掛かる。

 温かくて、蒸れた空気が鼻孔に届く。


「むぐ、ぐう!」

「何もしなくていいわよ。そのままでいなさい」


 柔らかい感触が顔を前後し、鼻と唇を潰してくる。

 思わず、股間から手を離し、顔に乗っている物を退かそうとした。

 けれど、重くて動かない。


「さ、て。どなたかしら」


 ボクの視界は真っ暗だった。

 でも、手の平に伝わるスベスベとした感触と質感は、触っただけで人の肌だと気づいた。


 手探りで顔の前を撫でまわしていくと、頭には思い当たる部位が浮かぶ。

 ボクの顔には、ミサキさんのお尻が乗っていた。


「む! むぐう!」

「んっ。……声を出さないで」


 ぎゅぅ。

 さらに重みが増す。

 ミサキさんが体重を掛けてきたのだろう。


 息苦しくて、気を失いそうだった。


「あたしのオモチャに手を出すなんて。どういう了見かしら。まあ、いいわ。見たいなら、お好きなだけどうぞ」


 ――ミサキさんは、誰と話してるんだ。


 不思議に思いながら、ボクは顔に当たる柔らかい感触に意識を支配されていく。口を動かすたびに、段々と湿り気を帯びてきた柔肉は、恐らくショーツであろう生地を少しずつ濡らす。


「ん、ぐううう!」


 ボクは、息苦しくて何も考えられなかった。

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