猟奇的な思考

 本当にマズい、と感じて焦ってしまう。

 気が付けば、ボクはまたボーっとしていたようだ。


「人間を飼うのって難しいね」


 ボクは六条家にお邪魔し、ソファに座っていた。


「ボーっとしてて、犬に噛まれたのにも気づかないなんてね」


 手の傷に気づいたミサキさんは、救急箱を出して手当をしてくれている。消毒液が染み込む痛みが、不思議と心地よかった。


 相変わらず、仏頂面で何を考えてるか分からない。

 だけど、ミサキさんは駅で待ち合わせして、すぐ手の傷に気づいた。


「最近、ボーっとしてるじゃない」

「すいません」

「別に。でも、そうね。死にたくなったら、言って」


 救急箱を閉じると、ミサキさんは隣に座った。


「人が死ぬところ、見てみたいの」

「や、それは……」

「あたしは何もしないわよ。あなたが自殺する時に、傍で見ていたいだけ」


 血も涙もない凍てついた考えだった。

 普通の人間から出てくる言葉じゃない。


「捕まっちゃいますよ」

「いいわよ」

「なにを言って……」

「水野くんさ」


 初めて、苗字で呼ばれた。


「将来のことって、考えてる?」


 会話の流れをぶった切って、いきなり変な話題を振られた。

 質問の意図が分からなかったが、ボクは「考えてないです」と素直に答える。


「あたしの家、外資系企業だから。海外との取引とか、親から話を聞くんだ。自分でも勉強してるし」

「……すごいですね」

「別に。ただ、今のままだと、数年しない内に、こっちの会社って食われるんだって」


 興味のない話だった。

 すでに社会から食い物にされ、借金漬けになってる身としては、どのみち同じ事だろうと思っている。


「今は水野くんで遊べてるけど。いつまで、このオモチャで遊べるか分からない。だからね。あたしは、今の内にたくさん遊んでおきたいだけなの。そのためなら、捕まってもいいわよ」


 言ってる意味はよく分からなかったが、やはりボクにとっては同じ事だ。逮捕を覚悟して、人間で遊べるなんて正気の沙汰ではない。


 ミサキさんはボクの小指を小指で握り、微笑んだ。


「死ぬところ、……絶対に見せてね」


 ボクは答えなかった。

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