オモチャ暮らし

ボクの学校生活

 ボクの通う学校は、駅が二つ離れた場所にある。

 同じ市内だけど、町村が別というか、北から南に下る感じだ。


 駅に着いてからは、歩きで10分掛かる。

 自転車を停めている人は、さっさと漕いで先に行ってしまう。

 片側が雑木林に覆われていて、閑静な住宅街を歩いて、道なりに緩い坂道を上がっていくのだ。


 歩道橋を通り、ガード下を潜り、今度は急な坂道を歩く。

 その先に、公立高校があった。


「高校が別なのは、助かったなぁ」


 ミサキさんは、私立の高校に通っているとのこと。

 ボクとは逆方向の電車に乗る。

 昨日はやたらとキツイ目に遭ったけど、生活が懸かっている以上、ボクだってクヨクヨしていられない。


 自分から、学校の話をして、聞いてみたのだ。

 意外とあっさり答えてくれるので、拍子抜けしたけど。


 そんな事を考えながら校門を潜り、生徒玄関に向かう。


 パシッ。


 すると、いきなり誰かに頭を叩かれた。

 振り向くと、ボクの頭を叩いたであろう男子が、笑いながら脇を通り過ぎていく。


「頭洗えよ。汚ぇな」


 まあ、学校は学校で、ボクにとって地獄だけど。

 ばあちゃんに負担掛けたくないし、きたくはないけど、頑張らないと。


 *


 教室に着くと、ボクは真っ直ぐ自分の席に向かった。


「あ」


 席に着こうとしたら、ボクの席の前にはクラスメートの牛河うしかわさんがいた。手には雑巾を持っていて、気まずそうに顔を逸らす。


「お、おはよ」

「……おはよ」


 バケツを持って、牛河さんが小走りで出ていく。

 ボクの机は濡れた雑巾で拭いたのか、湿気を帯びていた。

 よく見れば、薄くだけど、落書きの後がある。


 男性器や女性器が描かれていたり、何か文字まで書かれていたようだけど、牛河さんが消してくれたおかげで、ほとんど読めない。


「ぷっ……くくく……」


 笑い声がして、目だけを向ける。

 一番前の席では、男子たちがボクを見て嗤っていた。

 気にしないふりをして、ボクは席に座る。


 ボクだって、誰かを憎むなんて嫌だよ。

 でも、どうしようもない時って、あるじゃないか。


 必死に平静を装って、机にノートを広げる。

 学校なんて、つまらなかった。

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