言えぬ報告
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職場へ報告できずにいた、お腹にやって来た双子の存在。
だがいつまでも隠しておく事などできない。
そんな中、里美は同僚たちの対応の変化を感じていた。◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
朝から穏やかな心地良い日。
それなのに里美は出勤するなりヒーヒーフーフーと苦しそうにしている。
午前の勤務が始まって早々、里美は人事部に用があると言い席を外した。
先ほど出勤したばかりであり、朝から明らかに具合の悪そうな表情にため息ばかりの里美。
その姿を見ながら『大変そうね』と思いつつ、利佳子は他人事だった。
口元にハンカチを当て、目は潤み、午前中は気づかなかったが制服も今日は上下が繋がったタイプの物を着用しているようだ。
「あぁ……はぁ……」
「あなた、今回も辛そうね。」
「悪阻って訳じゃないのよ。胃が圧迫されて不快だし、もうね、だいぶ苦しいの。まだ五ヶ月入ったばっかなのに先が思いやられるわ。」
「それはまだ悪阻っていうんじゃなくて?」
亮二の時には入院するほどの悪阻だった里美も、育児で慌ただしい日々のおかげか今回はそれを回避していた。
数日前の夜、急に利佳子の家へやってきた里美は第二子の妊娠報告をした。
ついでに双子であることも報告済みだった。
「利佳子あんまり、周りに聞こえる様に言わないでもらっていい?まだバレるわけにはいかないんだから…」
「バレるも何も、隠し通せることじゃないしむしろ隠す事でもないでしょ?早めに話しておいた方が色々とあなたも都合良いと思うけど。」
小声で話す里美に、利佳子はそんな必要ないと感じながらも、本人の今後に関わる事であろう事も何となく感じた。
当の本人は、この件について周囲に言えないでいたし、言える訳ないと思っていた。
つい先週仕事復帰したばかりであり、二ヶ月後には再び産休に入る事など同僚たちにどう伝えるべきなのか迷っていたのだ。
早く伝えなければならない事は重々に承知していた。
新年度が始まってすぐ、里美は予め検査薬で得ていた結果を元に産婦人科を受診した。
その頃既に四か月を迎えており、里美は驚きを隠せなかった。
また、その二週間後には双子という現実を突きつけられ、想像もできぬ現実と『やってしまった感』でいっぱいだった。
仕事復帰は二日後に迫っていたのだから。
…
「大変申し訳ありません…育休から復帰して早々ですが私、妊娠がわかりました。」
「賀城くんから聞いていますよ。おめでとう。」
「…賀城、夫がですか?」
「えぇ、今月の頭だったかしら。桃瀬さんが二人目をご懐妊っていうのは聞いてますよ。」
外見はヨーロッパかどこかの国の出来る女性であるミネルバから伝えられた事実。
里美はその事実を初めて耳にした。
「本当に…仕事復帰の日も決まっていたのにこんな事になってしまって…本当に申し訳ありません。」
「謝らないでくれる?それはもう授かりものなんだから、大事に育てるしかありませんよね。お腹の赤ちゃんに失礼よ。それにしても初期にしては目立つわね?」
「もう初期じゃないんです…すみません、本当に色々と。それからもう一つ、お腹の子は双子です。」
対話するミネルバはここに来てついに表情を変え、目を丸くした。
里美も肩に力が入り、今にも泣き出しそうな程申し訳なさでいっぱいだった。
「そう…で、予定日は?あと初期じゃないって言うのはどういうことなのかしら?」
「十月五日が予定日で、今、五ヶ月です…」
「もう五ヶ月なの?…それなら勤務できるのは後三ヶ月くらいって所ね。」
「いえ、私大丈夫です。産まれるできる限り出勤しますので。」
「桃瀬さん知ってる?双子って産休に入るのが早いのよ?」
「そう…なんですか?」
こうなってしまった以上、出産ギリギリまで働くつもりでいた里美は想像していたよりあまりに短い産休までの期間に、自分の存在の意味を疑問に思い、寧ろ復帰しない方が周囲にも自分にも良かったのではと感じ始めていた。
「桃瀬さん?双子に安定期はないのよ。それにあなた、一人目のお子さんの時も入院してたわよね?」
「えっと…その節は大変ご迷惑を…」
「色々と頑張らないとね、私はあなた達を応援してるわ。
それから賀城くんのドイツ行きの件だけど…
私も何とか別の人に振れないか掛け合ったんだけど他がどうしてもって、私一人にはどうしようも出来なかった。
今回は昔みたいにそう何年もって事じゃないの。
こんなタイミングになってしまったけど、申し訳なかったわ。」
自分たちの仕事はそういう事なのだとわかっていたし、ただタイミングが良くなかっただけで誰も悪くないのだ。
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