夏色memory

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最初で最後の家族三人で訪れた花火大会。

初めての経験に気になる物でいっぱいの亮二。

来年は新たに誕生する子たちと家族五人で来られるのだろうか。◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


今年の花火大会は、初めて息子を連れてきた。

ずっと、付き合い始めた大学生の頃から桃瀬との子どもが欲しかった。

二十代前半、自分だってまだまだ未熟な学生の身で子どもを欲しがるなんて今思えば何を考えていたのかと思うけど、願いを望み続けるということは、もしかしたらいつか叶うのかもしれないと気づかせてくれた人生経験の一つでもあった。


あの頃、お互い学生の身だったり就職したり、最終的にはそれぞれ別れの道を選んだ俺たち。

学年が違うこともあってライフスタイルも段々と変化してきて、お互いを思いやる時間が減ってしまったことが原因だと思う。

それはもう、かれこれ七年前のこと。

過去にそんなこともあったけど、今となっては一度は別れた相手と結婚し、そして子どもが産まれ思い出の場所に家族でやってきた。


今、この現実に幸せを噛み締める。



「亮二、ほらキレイだろ?」


頭上で弾けるような、「パンっ!!」「パンっ!!」という音に怯えながら修二にしがみつく息子は産まれて初めての夏を迎え、生後10ヶ月になった。

まだ歩くことのできない赤ちゃんだが自我も芽生え、好き嫌いもはっきりするようになった今日この頃。


「あ、あー!うー、あ!う!」


そんな中、亮二が様々な屋台が並ぶ中の一つを指差し、興味を示した。


「何?ヨーヨーが欲しいの?でも亮くんに遊べるかなぁ…」


里美が亮二の顔を覗き込むと、息子の視線は小学生くらいの女の子が持つヨーヨーにまっしぐら。


「あーあー!あっ!」

「修二くん、亮くんもヨーヨーなら大丈夫よね?」

「じゃあパパが取ってあげようかな。悪いが亮二を頼むよ。」


大きなお腹の里美に亮二を託すと、屋台に向かいお金を支払うとその場にしゃがみ込む。


「パパ上手にできるかな?亮くん、パパがんばれー!って応援してあげて?」


亮二が大きな瞳で修二の背中をじっと見つめていると、ブルーとパープルのヨーヨーを見事にすくい上げ戻ってきた。


「お待たせ。ほら、取れたぞ。」


ブルーの方を受け取ると、上下に生えた小さな前歯を見せながらニコニコと笑顔見せる息子に、修二と里美はデレデレだ。


「あーん!亮くん可愛い!嬉しいねぇ。パパにありがとうだよ。」


その後も綿飴を買い、焼きそばを買い、ラムネを飲みながら頭上に打ち上がる大きな花火の音を聞きながら楽しむ。


「食べてばっかりね…ビールなんて飲めたら最高だったんだけどなぁ…」

「それは仕方ないだろ?俺も今日は一緒にラムネ。夏らしくていいじゃないか。」


亮二はビー玉が気になるらしく、ビンをカラカラとさせて音を鳴らすと指しゃぶりをしながら不思議そうにビンの中を覗きこむ。


「来年も来られるかしらね…次はやっぱりムリかなぁ…」

「どうだろうな。来年は今の亮二みたいな子がまたいるってことだろ?三人連れてくるのは厳しくないか?」


しばらくはこの夏の花火大会もお預けになりそうだ。

人混みが激しくなる前に撤退しようと、家族は少々早めに帰宅の途へと向かう。

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