公表される夫婦事情

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勤務先の求めにより、賀城夫妻に機関報に掲載するための文書を提出した。

後に発行された機関報を目にし、里美は赤面するのだった。

そこには家庭での里美の姿や夫婦生活が公開されていた。◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


賀城修二、桃瀬里美両名が夫婦となり、二人が勤務する組織より賀城夫妻の元へとある依頼が舞い込んだ。



【機関報において賀城、桃瀬両名の妊娠出産、それに伴う生活面についてのインタビューを掲載したい旨、子育てと仕事の両立を計りながら安心して働くことのできる職場環境の整備のため、経験者として伺いたい。】




簡潔に言うのならば、賀城夫妻の日常生活や働きながらの育児、妊娠出産についての経験談を今後に続く職員のためにも広めたいということだろう。


修二と里美は、勤務先である研究所組織にも夫婦で在職している者たちが複数存在することを把握していたが、妊娠出産ともなれば退職してゆく女性が多数であった。

実際、里美は最初の妊娠の際、20代半ばで未婚だった。

当時、早々にキャリアを積み始めており、新たな命を宿したかもしれない嬉しさの反面『このタイミングで。』と頭を巡ったのも正直なところ。


結果、その命を守りきれなかった後悔が里美の心には残り、子を産みキャリアも積むためにも自分達夫婦がきっかけになることができればと20代後半のタイミングで子どもを作ったのだ。

その後、正しい順序ではなかったものの賀城・桃瀬という組織内の重要人物の結婚、はたまた出産という流れに、施設内の保育所新設、既存の病院内には小児科の増設等、共働き職員にとって新たな波となった。


それだけ結婚はまだしも、出産し、子育てしながらの勤務は時期職員にとっては厳しく周囲のフォローは欠かせないのだった。

二人が勤務する研究所と関連組織は日本国内に留まらず、海外にも複数存在し、修二と里美もかつては海外へと配属され勤務していた。

そのような状況が求められる職種なのだ。

いずれは再び、海外勤務もあり得るだろう。

その際は子を伴い家族で渡るのか、単身となるのか悩みは尽きない。


組織もどのようなフォローやサポートが必要なのか知りたいのだろう。


これは賀城夫妻にとっても、今後そのような道を選ぶ夫婦にとっても大きなメリットと捉えられた。

そして二人それぞれのPCへ届いたデータは予想外に膨大な物で、二人も今後に繋がるのならばと其れらに真剣に対応した。


—回答依頼—


名前 :桃瀬ももせ 里美さとみ

年齢 :28歳

所属 :内部自然研究室



●仕事との出会い

ご存知の方もいらっしゃるかも知れませんが、実は私の両親が職員でした。

その様な事もあり、幼い頃からこの組織には生活面だけではなくいつもどこか繋がりがありました。

実際、両親は医師として勤務していましたので私の職とは全く異なりますが、世のために勤務することは変わりありませんので誇りを持って職務に勤めています。



●勤務内容

私が所属する内部自然研究室という所は、海外を含め自然界に存在するあらゆる物、植物等の研究、保存に向けての管理や実験を行います。

そこの責任者として働いています。



●この職業に必要なこと。

関連施設は海外にも存在し、電話やオンラインでのやりとり、出張や海外勤務もありますので語学、まずは英語力は必要だと思います。

幼少期から両親の仕事に付き添い、家族でアメリカと日本の行き来で英語と日本語は自然と身に付いていたので、それはとてもありがたい環境でした。

ヨーロッパ勤務時も英語はとても役に立ち、主な勤務だったドイツでの言葉は配属決定後から独学で学びました。

誰も指導をしてくれる人はいませんので、自ら行動し学ぶ努力が必要です。



●今までの勤務地

入職一年目は日本で基本的な組織の様々なことを学び、二年目からはフランスとドイツ兼任で二年半配属されていました。

フランスメインと聞いていましたが、実際にはドイツの方が滞在期間は長く、フランス語の習得はあまりできませんでした。



●家族構成

夫、私、長男(8ヶ月)



●妊娠中の仕事と生活の両立について

長男妊娠中は悪阻が酷く、入院をして体調管理をしました。出勤しながら点滴にも通いました。妊娠悪阻というものです。

その後は早産のリスクもあり再び入院生活となり、その間は仕事のことばかり考えてしまいナーバスになりました。

病院と職場に許可を得てPCを病室入れ事務的な仕事はしていましたが、なかなか思い通りにはいきませんでした。

私たち夫婦の場合、結婚と妊娠の順序が逆となり、あらゆることに準備の時間がありませんでした。

可能であれば計画的に進めることが理想だと思います。



●出産後の生活について

長男は早産で2ヶ月早く産まれました。

なので産後も数ヶ月入院しており、その間に今まで逃げてきた家事や料理を自分なりに頑張りました。

今は自宅で生活していますが、まだ生後8ヶ月の赤ちゃんなので夜泣きもあり大変で手は

かかりますがとにかく可愛いです。



●復帰後の仕事と生活

産後は育休を取りつつ、他の同僚にはできない内容の仕事に対応するため、短時間の出勤をしています。

部署と話し合い週3ペースと決めていましたが、実際には週1かもっと少なくなるよう配慮してもらっています。



●仕事環境に望むこと。

扱う仕事柄機密事項が多く、資料閲覧の許可やデータファイルの管理や海外部署とのやりとりを出来る者が少ないため、そのような事が可能な人が増えることを望みます。



●自宅での夫の様子。

国際公務員法の男性育児キャンペーンに則り、本来ならば一ヶ月以上の育休を取るべきなのでしょうが夫は時短勤務の選択をしました。

息子が入院して自宅にいなかった事もあり、時短勤務を活用し、一緒に病院へ行き授乳や沐浴などの赤ちゃんのお世話を行っていました。

実は今双子を妊娠中で、今回の妊娠は復帰予定の2週間前にわかりとても動揺しました。

実際に復帰した頃に双子とわかり、不安だらけなのは変わりませんが「妊娠に早いも遅いもない、それぞれの家庭ごとに違って当然。」という夫の言葉に救われています。


●女性職員、この仕事を目指す人へのメッセージ

私の仕事と立場はとても特殊だと思います。

私は妊娠前の比較的早い段階でキャリアを積むことができたこともあり、それぞれどのタイミングで努力をするかで産後の環境は変わると思います。

キャリアを積んでおき、ある程度自分の中で安心を得ておくことが正しいのかは解りかねますが、色々とあった中で授かった生命でしたので産む選択をしました。

先に延ばすとしても女性にはどうしても年齢的なリミットもありますから、夫婦でのきちんとした話し合いが必須です。



里美は妊娠出産を控えた同僚や、これから世代を迎える後輩たちに向けて力になるべく、真剣に考え文書を提出した。

しかし後に発行され閲覧し、血の気がひいたのは夫である修二の解答だった。

里美はあの時、きちんと提出内容を確認すべきだったと猛省し、職場で赤面したのだった。

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