第80話 連携攻撃?

「ここが四十八層か~景色はあまり変わらないな」


 四十七層までの宇宙が目の前のようなステージのまま、四十八層も同じだった。


 ここまで来る間もそうだったけど、五層ずつ同じステージが続く。ただ階層を進むと少しずつ変化があって、このステージは空に浮かぶ無数の星々が段々んと近付いてくる。


 四十八ともなると、星が光ではなく実物がしっかり見える距離にいる。


「でも空がちょっと怖いね」


「星って光だと綺麗なのに、実物が見えるとそう思ってしまうな」


 ポカーンと紗月と一緒に空を見上げる。


「少年~!」


「ん?」


「あのあの!」


 ぴょんぴょん飛び跳ねる先輩。餌をねだる子犬のようだ。


「いいですよ。先輩。姉さん~シリウス~護衛よろしく」


「ワン!」


「わかった~」


 四十八層に着いたってことで、ここには誰もいないはずだから、漆黒の翼じゃなくて、いつもの呼び方をしている。


「誠也くん? このままここも攻略しちゃうの?」


「ん~せっかく今日時間ができたんだから、もう少し攻略してみようかな? みんなの力だと、ここでも相手にならないみたいだから」


「ふふっ。私も刀振りたいな~」


「僕ももう少し動きたいかな」


「じゃあ、私達も少し行こうか?」


「ああ。そうしよう」


 先輩のおかげで1ステージ目の魔物は全滅している。


 そのまま2ステージ目まで進むと、全身が黒い巨体を持つ豚顔の人型魔物がいた。オークという魔物と似てるけど、伝わる威圧感はフロアボスにも匹敵する。


 足音を立てずにすっと近付いていた紗月が、ゆっくりと刀に触れた。次の瞬間、彼女の姿が一瞬揺らいで、魔物の後ろに現れると、魔物の上下が半分に分かれた。


 さらに紗月の目が光って、次々と魔物を斬りつけて進む。


「あ~! 私の獲物ぉ~!」


「はい。先輩。たまには紗月にも譲ってあげてくださないね」


 先輩の頭を鷲掴みすると、手をバタバタさせながら魔物の方に向かいたそうにする。


 魔物を倒したいというより、魔法を使いたい気持ちがぷんぷん伝わってくる。


「次は僕も戦いたいですよ~」


「え~少年にしては珍しい?」


「先輩が楽しそうにしてるから」


「えへへ~少年も魔法を使うかい? 楽しいぞ~?」


 魔法か……考えたことなかったな。


「僕に魔法使えますかね?」


「え? 少年なら使えてもおかしくないと思うんだけど?」


「へ?」


「だって、少年っていつも魔法みたいに私達に装備を強くしてくれるじゃないか? 私には本当に魔法みたいなのだ~」


「あはは……そう言ってもらえると嬉しいです。僕も魔法が使えるかちょっと試してみます」


 そういうスキルなんてないし、装備にもそういう装備は持っていないからな。


 両手を前に出して魔法を念じて見る。


 …………うん。やっぱり出ないよな。知ってたよ。


 ――――と思ったそのとき。


《スキル〖経験値燃焼〗を獲得しました。》


---------------------

〖経験値燃焼〗

経験値を消費して炎を召喚する。

今まで装備に費やした経験値量で強さが変わる。

---------------------


 俺の前に青い爆炎がぶわっと現れて、離れていた魔物に飛んでいき、一瞬で消し炭にした。


「へ?」


「少年も魔法が使えたんだな!」


「誠也!? 魔法が使えてたの!?」


 離れていた紗月も目を丸くしてこちらを見つめる。


「あはは……経験値を使うみたいだからあまり使いたくはないけど、どうやら結構使えるみたい」


「少年! 少年!」


「はい?」


「何だか――――先輩とお揃いだな!」


「姉さんと……?」


 姉さんと目が合って、ポカーンとしていると、先輩は続けた。


「先輩は赤い炎、少年は青い炎。姉弟で炎使いなのだ~!」


 そう言われると、何だかすごく嬉しくて、自然と顔が緩んでしまった。


「そうですね。姉さんと同じ力……嬉しいです」


 何となく、先輩の頭を優しく撫でてあげる。


「ふわあ!? しょ、しょれん……頭は……ダメらの……」


「あ! あはは……」


 それから僕達はまた4ステージ目まで進んだ。


 先輩の超広範囲殲滅魔法で魔物を全滅させると、また巨大なフロアボスが現れる。


 四つ足の獅子の体に鳥の顔と翼。いわゆるグリフォンと呼ばれている魔物の一種だ。


「誠也くん! 行こう!」


「ああ」


 紗月と一緒に一気に接近していく。


 グリフォンは翼を動かして爆風を起こすが、紗月が刀を抜いて空斬りを数回すると、暴風すら斬られて視界が戻った。


 その道を走り、グリフォンの顔を蹴り上げる。


体が大きくのけぞり反転して地面に倒れた。


「――――鏡花水月」


 空高く飛んだ紗月が無数の水の刃を降らせる。


 グリフォンが暴れようとするが、刃が刺さり起きられずにいる。


 僕も空高く飛び込んだ。


「誠也くん!」


「紗月!」


 空中で紗月の手を取る。


「行くよ!」


「おう!」


 僕の体が下を向き、足に鞘に入った刀を当てる。


「――――行っけぇ~!」


 凄まじい水圧の力が僕の足に伝わり、体が超高速で倒れたグリフォンに直撃する。


 当たる直前に〖経験値燃焼〗を使うと、紗月の水の力と相まって、周囲に蒼い炎と水しぶきが広大な範囲に広がっていく。


「あ~! 少年がさっちゃんとイチャイチャしてる~!」


 後ろに目がメラメラと燃えている姉さんがいたので、すぐに四十九層に向かい、今度は姉さんと一緒にフロアボスを倒した。


 そして、日本ダンジョンは史上初、五十層の世界が開いた。

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