第78話 新しい絶大な力、紗月と澪編。

「私の体は魔力で出来ている」


「先輩~戻ってきてください~」


「私の刀は体で出来ている」


「紗月~それ反対だぞ~」


 四十七層で狩りを続けること一週間。


 学校はあの事件があったから、臨時休校中みたいだけど、元々僕達はダンジョンに潜っていたから、あまり影響はなかった。


 一週間ずっと巨大な魔物を狩り続けて、ようやく経験値も貯まった。


 経験値効率的なことを考えれば、ここよりはもう少し下層で数を狩ってくれた方がいいんだけど、みんなのレベルのことも考えると、やっぱり四十七層が一番良かったと思う。


 一週間で貯めた経験値は全部一気に使って、紗月の刀と先輩の杖、姉さんの武器に入れ込んだ。


 姉さんはまだ武器を使うつもりはないようで、相変わらず、今まで使っていた弓を持ってるけど、二人は各々の武器を手に、どこか遠くを見つめて変なことを呟いている。


「少年~! 私、今すぐ戦いのだ!」


ゼタ誠也くん! 私もすぐに戦いたい!」


「あはは……」


「「ねえ!」」


「わかったわかった。じゃあ、二人とも俺の視界に届く範囲でな」


「「やった~!」」


 外ではみんな漆黒の翼の格好だから、厳格な態度でいようってあれだけ言ったけど、今日ばかりは仕方ないな。


 それに紗月までうきうきしてるくらい、武器を気に入ってくれたみたいでよかった。


「二人とも嬉しそうだね~」


「うん。二人にもまた思いっきり戦ってくれたら嬉しい」


「ふふっ」


 紗月と先輩がそれぞれ左右に分かれて、狩りを始めた。


「――――えっくすぅううう~! ぷろ~じょ~ん!」


 詠唱もなく、ボールを投げるかのように杖に紅蓮に燃える炎の玉を投げつける。


 漆黒のローブで姿は見えないけど、可愛らしい女子がボールをえいっ!って投げつける感じ。


 しかし、直後にとんでもないことが起きた。


 炎の玉が着弾すると、一瞬で炎の大爆発が広がり、一面が真っ赤に染まっていく。そして、経験値を大量に獲得した。


「す、すごいね……」


テラ先輩の本当の力を引き出したらこうなるんだな」


「…………あの子の本当に力……か。そうね。あの武器があればだれでも強くなれるわけじゃない。自分と向き合うことが大事なのね?」


「うん」


 遠くで爆発を見ながら腕を組んで「うんうん」と頷いている先輩がまた可愛らしい。それにしても、先輩の力って、あの浮いてる玉なんだな。


 どうやら魔法を無詠唱で使えるという特殊な力みたい。それだけで先輩が強いのはわかるんだけど、先輩曰く、あれを使えるタイミングは限られているって話だけど、あの杖があれば問題なさそうだね。


 おじいちゃんが僕の鎧と一緒に作り上げた三つの武器のうちの一つ。


 僕と同じく、四十七層から取れる素材で作った武器。


 名前は『ダークロード』。


 これも僕と同じく神器クラスになった。だから経験値が全然足りなくて強くすることができなかった。


 レベル1でも十分すぎるくらい強いけど、最初からレベル最大で使ってほしいと思って、今日ようやく渡すことができた。


 性能は、一言で言えば、魔法特化。ただし、珍しくデメリットが付いていて、詠唱能力が十分の一になる。だから普通に使うには、魔法を放つのにも時間がかかる。代わりに火力がものすごく盛れるし、魔力も軽減によって一日中魔法を放てる性能になってる。


 それこそ――――先輩に使ってもらうための杖って感じだね。


 一方、紗月の方はというと――――意外とまだ狩りは始めていなかった。


 じっと立ったまま、後ろ姿でフードを被っていてもわかるくらい集中している。目をつぶって周りの気配を感じ取っているのだと思う。


 次の瞬間、刀を鞘から抜いて目にも止まらぬ速度で斬りつけては、くるりと半回転して刀を鞘に入れる。


 ――――空間が斬れた。


 そう錯覚してしまうくらい景色そのものが上下に分かれる。そして、一気に増える経験値。


 視界に見えていた強力な魔物も当然半分に斬られて消えていった。


エクサ紗月ちゃんもさすがだね。もう馴染んでるんだ」


「うん。刀が体で出来ているって言ったのは、なんか妙に納得しちゃうな」


「うふふ。あのエクサ紗月ちゃんが珍しいわよね」


 行くときはうきうきして行った紗月だったけど、クールな笑みを浮かべて戻ってきた。


エクサ紗月。どうだった?」


「うん。誰にも負ける気がしないよ」


「そっか。でもまだ本気は出してなかったね?」


「そうね。まだ刀の力を見せてもらっただけ。私の力はこれから刀にも納得してもらわないとね」


「二人とも気に入ってくれたようでよかったよ」


「リーダー。ありがとう!」


「いや、こちらこそだよ。これからもよろしくな」


「うん!」


 遠くからダダダっと足音を立てて走ってきた先輩が、俺の体に抱き付く。


「リーダー! 私、もっと倒したい! 魔法使いたい!」


「あはは。わかった。じゃあ、これから奥に向かう間は、任せるよ」


「やった~! あいあいさ~!」


 ハイテンションになった先輩は、その足で次のステージに進んでいく。


 先輩の特殊な力『大賢者』の光る玉と杖のコンビネーションによって、魔物が瞬殺されたり、見えないところにも、さっきの大爆発魔法を放ったりと、そのたび「ひゃっは~!」と雄たけびを上げる先輩が可愛かった。


 そんな戦いを繰り返して四十七層の最後四ステージ目。


 今まで見たことがなかった――――巨大な魔物が出現した。


「っ……四十七層のフロアボス…………やはり、これが……条件だったのね……」


 姉さんは巨大なフロアボスを見上げながら、少しだけ悔しそうにつぶやいた。

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