第76話 セグレスの諦め
一度国会議事堂から離れる。
おじいちゃんのおかげで新しく僕の力になってくれた『アブソリュート・ダークメイル』。今まで一番高いレアリティでも漆黒のローブでSランク。
その上にSSランク、SSSランクが存在するのに、『アブソリュート・ダークメイル』はそれを越えたEXランクである。
EXランクは、おじいちゃん曰く、『神器』と呼ばれる世界でたった一つの装備らしい。なので、複製することは絶対に不可能だそうだ。
レベルも100まで上げられて……最初からめちゃくちゃ強いのにどんどん強くなって、装備がさらに自分の体にフィットして、自分もしっかり使いこなすと、とんでもない強さだった。
だって、あのヴァイスを一撃で退けたからね。
国会議事堂近くの商店街のところにやってきた。
大きなスクリーンにニュースが流れている。
どのスクリーンのニュースでも国会議事堂の一件が放送されていて、多くの人が不安そうにしているようだ。
姉さん曰く、マスコミは一部だけ切り取って放送するから信用に値しないって言ってたからどこまで信じられるかわからないけど、たしかに不安を煽るような内容ばかり流している。
ふと、いつも笑顔で胸を張っていた姉さんが、さっき泣いていた姿がどうしても気になって仕方がない。
できればこのまま家に帰って姉さんを待ちたいんだけど……今行かないとダメな気がする。
『アブソリュート・ダークメイル』を非戦闘モードにして、商店街から国会議事堂に向かって走る。
周りはスクリーンを見ながら「セグレスが負けたの!?」などと不安そうな声が聞こえてくる。
誤解されないように力をセーフして走って向かうと、数十分もかかった。
国会議事堂の前は当然のように物々しい警備で、周りはマスコミだらけだ。
えっと……壁を越えたら怒られそうだし、どうしよう?
そのとき、正面出口から離れた場所に、一人の女性が立っているのが気になった。
彼女と目が合うと、ニヤリと笑いながら手で僕を呼びよせるポーズを取る。
何となく彼女のところに向かった。
「君。高校生?」
「はい」
「君。この中に入りたいんでしょう?」
「えっと……」
「隠さなくてもいいわ。私、こういう者よ」
一枚の名刺を渡してくれた。
そこには『パラライズ社、ジャーナリスト、
「えっと、江入さん?」
「美彩さんと呼んで。ちなみにちゃんと本名よ」
てっきり偽名だと思っていた。
…………実は偽名なんじゃ?
「まあ、信じるも信じないも自由よ――――木村誠也くん」
「え……!?」
まさか自分の名前を言われるとは思わなくて、咄嗟に距離を取った。
「ごめんなさいね。貴方を知っているのは私くらいなものよ。心配しないで」
そう言いながら、電子タバコを咥えては、白い煙を吐き出す。
「私、君の姉さんの知り合いでね。世間に広まっている彼女の記事は私しか担当したことがないわ」
そう言われてみると、僕が買った姉さんのインタビューが載っている雑誌は全てパラライズ社の雑誌だった。だから、雑誌名を覚えていたのだ。
「積もる話は一旦おいとこ。中に入りたいんでしょう?」
「は、はい」
「なら力を貸すわ。ただ、私も同行させてちょうだい。悪いようにはしないから」
「悪い人は自分が悪い人だって言わないんじゃ……?」
「それもそうね。でも、ここで悩んでも君が中に入れる道はないわよ? 君の名前を知っているだけでも信用に値すると思うんだけど、選ぶのは君次第さ」
「……わかりました。よろしくお願いします」
「ふふっ。男はそう見極めないとね。さあ、こっちにいらっしゃい」
国会議事堂の正面に向かった彼女は、僕の手を引いたまま、マスコミの中を器用にかきわけて入っていく。
ものすごい警備員がいる正門についた美彩さんは、警備員に何かを耳打ちする。
すると、警備員は目を大きくして僕を見て、彼女と僕を中に入れてくれた。
周りのマスコミの人達が僕達に注目する中で入ると、周りがみんなこちらを見ていたが、誰一人写真を撮ったりはしていなかった。
何か理由でもあるのかな?
中に入ると、意外にも美彩さんがぐいぐい僕を引っ張って、まるで何度もきたことがあるように入っていく。
そして――――
「セグレス~弟くん、連れてきたわよ~」
遠くでも目立つ赤い髪の姉さんに向かって声を上げる。
間髪入れずにこちらを見つめた姉さんは――――全速力で僕の胸に抱き付いてきた。
「姉さん? どこかケガしてない?」
「誠也……ごめん……私…………」
「姉さん。大丈夫。姉さんは一人じゃないから」
「うん……」
本当はあのままいたかったけど、漆黒の翼ってバレるわけにもいかなかった。
でもこうしてここに来られて本当によかった。
「セグレス。感動の再開はそこまでにしなよ。状況を説明してちょうだい」
「美彩さん……」
「ふぅ――――負けたんだろ? それでもあんたは日本の希望よ」
そのとき、一人の男性が近付いてきた。軍服のがっつりとした体の男性だ。
「セグレスに美彩か。また珍しい顔合わせだな」
「
「まあ、そういうところだ」
「まあ、でも彼らの潜伏場所の目星くらいは付いたんでしょう?」
「ああ。――――負の遺産、軍艦島に潜んでいるようだ」
「あんな場所に……魔の暴風を越えられるのか、あの変な力のおかげね。じゃあ、そこに着ける何かを準備しなければね。まあ、大体わかったわ。じゃあ、これから頑張るわよ」
意外というか……ただのジャーナリストだと思っていた美彩さんは次々と決め始めた。
そのとき、姉さんが美彩さんの前に立った。
「美彩さん。私は…………もう戦えない」
「セグレス!? いい加減にしなさい。貴方は英雄よ」
「私は…………もう英雄なんかじゃない。だから、私は……もう……戦えない」
「っ…………情けないわね。弟くんの前だというのに」
「…………だからこそだよ」
「……はあ。あんたは昔から頑固だからね。でもいつでも待ってるから、その気になったら連絡ちょうだい」
「…………うん」
肩を落とした姉さんは、その場から離れて、地下にある車で家まで送ってもらえた。
「誠也~!」
「うわあ!?」
家に入るや否や、姉さんが笑顔で僕に抱き付く。
「せ、誠也? す、すごくかっこよかったよ!」
「あはは……姉さん? あれでよかったのか?」
「ええ。ああでもしないと、私、また先頭に立たないといけないから。これから時代を引っ張っていくのは、セグレスじゃない――――」
姉さんは、人差し指を伸ばして、僕の胸に触れた。
「
姉さんはとびっきりの笑顔を見せてくれた。
「やれるだけのことはやるよ。ひとまず、紗月と先輩も迎えに行こうか」
「ええ! 二人とも無事に
「それはよかった。おじいちゃんに大体の事情は聞いてるから」
これから二人を迎えにいくことになった。
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