第74話 最強vs聖剣

 熱気で陽炎が見える鍛冶場。


 そこには高齢の男女が熱気の中で座り、微笑みを浮かべていた。


「爺。ずいぶんと楽しかったようじゃのぉ!」


「おうよ……久しぶりに血がたぎる鍛冶だったな……婆もずいぶん無理をしたみたいだな?」


「そうでもないのぉ。あの杖のおかげで私まで楽しくなっちゃったのさ。かっかっかっ!」


「くっくっくっ。小僧はすごかっただろう?」


「そうじゃな。ミカもずいぶん嬉しそうじゃった。私もまたミカに会えるとは思わんかったからのぉ……」


「その杖があれば、いつでも会えるじゃろ?」


「そうじゃな。ミカも私も楽しみじゃのぉ~」


「くっくっくっ。小僧ならもう大丈夫だ。時代は若者に任せて年寄りはのんびりと待とうじゃないか」


「かっかっかっ! 全身やけどの爺では戦力外じゃよ!」


 熱気で真夏よりも熱い鍛冶場の中、二人の笑い声が響いた。



 ◆



 国会議事堂。


 そこには日本国の最強戦力が集まっていた。


 テロ組織【白の騎士団ヴァイスリッター】が国会議事堂を襲撃すると宣言した日だからである。


 集まった大物達の中に、ひときわ目立っていたのは真っ赤な髪を持ち、絶世の美女としても有名ながら日本国最強探索者として名高いセグレスが腕を組み、難しい顔で外を眺めていた。


「おい。セグレス。聞いてるのか?」


「何度言っても、私は戻らない」


「はあ……待遇に不満があるのか?」


「そうではないと何度も行ってるだろう?」


「なら休止する理由がわからない」


「弟のため。そう答えたはずだが?」


「いや……その理由が理解できんって何度も言ってるんだが……」


 セグレスに向かって焦った表情で声をかける大柄の男。


 後ろからもう一人の男がやってきては、大柄の男の肩に手を乗せた。


「リーダー。やめとけ。セグレスにもいろいろ考えがあるんだろうから、それより今は奴らだ」


「はあ……まあ、それもそうだな。白の騎士団ヴァイスリッターだったな。セグレス。今度もう一度ゆっくり話そう」


「…………」


白の騎士団ヴァイスリッターは空間を歪めてやってくる。飛べる距離はわからないが、少なくとも建物内に現れたという」


「軍事施設の一件か」


「ああ」


 白の騎士団ヴァイスリッターが初めて目撃されたのは、とある高校だった。その理由は覚醒者に到達できる可能性がある戦力をスカウトするためだと伝わっている。


 次に彼らが目標にしたのは、軍事施設だった。


 それはまさに見せしめ。当時施設にいた全員が亡くなっている。


 セグレスはゆっくりと拳を握りしめた。


白の騎士団ヴァイスリッター……絶対許さないぞ」


 小さく呟いた彼女の瞳には、軍事施設で亡くなった者や自分の弟に対する怒りが映っていた。


 ――――そのとき。


 管内に緊急事態を知らせるレッドアラームが音を立て国会議事堂内に響き渡る。


「来たか。白の騎士団ヴァイスリッター


「相手は神器クラスを持ってるとされる。必ず一人では相手しないように」


 男が注意したと同時に時空が歪む。


「がーはははっ! ここは当たりだな!」


 中から現れたのは――――白いマントをなびかせた大柄の男、ヴァイス。そして、紫のマントの女性が空間から出てきた。


 集まっていた探索者達が身構えると同時に紫マント女は両手を不思議な形に交差させる。


雷遁らいとん轟雷ごうらい


 冷徹と思えるその声は、聞いた者達が背中をゾクッとさせるかのようであった。


 そして、彼女の両手から凄まじい勢いの雷が周りに響いていく。


「女の首元に神器がある! 気を付けろ!」


 探索者達はすぐに戦闘態勢を取り、強力な雷攻撃を耐え凌ぐ。


「ひゅう~さすがは日本が誇る最強戦力だな。この中で白の騎士団ヴァイスリッターに入りたいやつはいるか~? 今なら待遇も悪くないぞ?」


「ふざけるな! 誰がお前らみたいなテロリストに組するか!」


「そっか。ならば――――死んどけ」


 ヴァイスの一閃が男を襲い、盾を切り、鎧を貫いて大きな傷を負わせた。


 その隙に一人の探索者がヴァイスにつっこむ。


「おお! お前が――――最強か」


 セグレスの巨大な――――ハンマーをヴァイスは大剣で受け止める。


 二人の武器がぶつかり合うと、周りに強風が広がり、魔物の素材で作られた強固な壁にも大きなヒビが入る。


「人の命を弄んだ罪。絶対に許さない」


「くっくっ。やれるならやってみろ」


 それから二人の凄まじい攻防が続く。


 他の探索者達も負傷者を守りつつ、紫マントの女と戦い続けた。


「雷遁だの、風遁だの、まるで忍者かよ。こんな能力、聞いたことも見たこともないんだがな」


 彼女の攻撃を防ぎながらも、彼女を分析しながら迎撃を試みる探索者達だったが、彼女の素早い動きと広範囲の攻撃に手を焼いた。


 一方、セグレスと一対一で戦っていたヴァイスだったが――――戦いは想像していたものとは違うものになっていた。


 セグレス優位と思われた戦いは、ヴァイスの方が圧倒的な強さで押し切っていた。


「おいおい! 最強さんよ! その程度か!?」


「くっ……!」


 ヴァイスの強烈な攻撃で吹き飛ばされたセグレスは、壁を突き抜けて外に弾き出された。


 彼女の後を追うように跳び込んだヴァイスの大剣に眩い白い光が灯る。


 セグレスの巨大な槌にも禍々しい赤黒い炎が灯った。


「最強さんよ! 力を見せてみろ! 白焔斬鉄剣!!」


「フレアパニッシュ!」


 二人の攻撃がぶつかり合い、大きな爆発となった。


 爆発の爆風によってセグレスはより吹き飛ばされ地面に叩き付けられ、全身に無数の傷と口から赤い血を吐き出す。


「あ……あぁ……」


 そんな彼女の体を跨ぐように、ヴァイスが立つ。


 ヴァイスもあの一撃で無事ではなく、全身に無数に傷を負っているが、セグレスほど瀕死状態ではない。


「さすがは最強だ……くっくっ。お前が最強でのうのうとダンジョンなんて言ってて助かったぜ。この――――聖剣エクスカリバーがなければ、俺様でも絶対に勝てなかっただろう」


「…………」


「ここで殺すにはもったいない。セグレス。俺様の女になれ。望むモノ何でもやる」


「望むモノか……」


 セグレスはヴァイスより遥かに遠い夜空を見つめる。


 周囲では大きな爆発音や戦う音が聞こえていた。


「私は欲しいのは……誠也だけ……他はいらない」


 セグレスは顔に近付いていたヴァイスの顔に向かって唾を吐いた。


 ヴァイスの表情が強張る。


「…………ならば! ここで死ね!!」


 ヴァイスの大剣が彼女の首元に降りてくる。


(ああ……誠也……ごめんね……私……負けちゃった……誠也の…………立派なお姉ちゃんになれなかった…………また……一人ぼっちにさせてしまって……ごめ――――)
















 ヴァイスの大剣がセグレスの首に届く寸前。


 黒い影が空から降りる。


 ヴァイスの目が一瞬、影を認識するが、彼を大きく上回る速度で影の攻撃によって、ヴァイスは大きく吹き飛ばされた。
















「我が名はゼタ誠也。闇に潜み、闇を刈る――――漆黒なり」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る