第73話 〖装備〗の本当の力
「よろしくお願いします!!」
「いつでもかかってきなさい」
二度目の稽古が始まった。
まだ装備を装着していないからか体は重いけど、だいぶ慣れてきた。いや……慣れたというよりは感覚が
天使様のミカさんからは攻撃をしてこないので、こちらから攻めていく。
レベルが上がったわけではないし、装備で強くなったわけでもないのに、何だか体がとても動きやすい。
その一番の理由は――――相手の動きを逐一確認するようにしているから。
ミカさんの目を見ながら、彼女が次はどういう風に動くのか予測しながら、自分の体をどう動かせば有効打を与えられるのか……それを見極める。今自分の体をどこまで正確に使えるのかを見極めるのだ。
さっきみたいな当てずっぽうで体を動かしていないからか、不思議と全身が疲れにくくなった気がする。
それにミカさんの反撃もギリギリ避けられるようになった。
昔、映画で見た拳法家たちの戦いのように、ミカさんと僕の腕や足がぶつかり合う。
腕と腕がぶつかり合う度に、痛みを覚える。けれど……それは嫌な痛みではなく、どこか清々しいまで気分を高揚してくれる痛みだ。
「誠也くん。もう少し積極的に攻撃をしてみよう」
「はいっ!」
何度か打ち合いながらミカさんの一番手薄な部分に攻撃を加えていく。
足、太もも、腰、それぞれ開いた場所に攻撃を加えるけど、ことごとく避けられていく。
直線的な攻撃では彼女に有効打は与えられない。となると――――
彼女の腹部に大振りの攻撃を仕掛けると、それを読んでミカさんのカウンターが襲う。
パンチを手で押されて軌道を変えられ、もう片方の手が俺の顔を横にずらそうとする。
――――今だ!
彼女が僕の顔をずらすと同時に、僕は体重を右足から左足に移動させて、全身を回転させる。
スピードが乗った回転で僕は全力で手刀をミカさんに叩き込んだ。
――――次の瞬間。
ぽよ~ん。と音を立てて、僕の手刀が当たった場所から跳ね返された。
「へ?」
「あら、誠也くんも男なのね……」
そう話すミカさんはすぐに両手を自身の胸を隠しながら少し後ずさった。
「ええええ!? ご、ご、ごめんなさい!」
「ねえ、誠也くん? 触りたかったらちゃんと触りたいですって言ってね?」
「触りたくありません!!」
「え……触りたくないの?」
「い、いや、触りたくないというか……これは事故で…………というか、避けられるのにわざと当たったでしょう! ミカさん!」
「うふふ。バレちゃった?」
熱くなった顔を横に振ってさっきの感触を記憶から抹消する。
「それにしてもだいぶ動きがよくなったわね」
「これもミカさんの教えのおかげです。僕は自分の力をただ振り回してるだけで、本当の使い方をしていなかったんですね?」
「そうよ。君の力はレベルと比べたら遥かに強い力。気が付けば力に溺れているなんて当たり前のことね。むしろそうならない方がおかしいもの。でもこんなにも早く気が付いたのは、君が探索者になる前からずっと探索者に憧れて強くなろうと行動をした結果よ。せっかく装備を強くする力を手に入れたのに、今まで自分が頑張って手に入れた力を使わないなんて、ダメよ?」
「ミカさん……はいっ! 装備を強くして手に入れた力しか僕の力じゃないと……そう思ってました。今までの努力はレベル成長限界が1だから無駄になったと決めつけてました。でも……違ったんですね」
「うん。無駄なんてない。君の努力の結晶なのよ。さあ、これから本当の稽古を始めるわ」
「はいっ! よろしくお願いします!」
ようやく装備の装着の許可が出た。
たった一時間くらいの出来事なのに、とても長い間離れているように感じる。
ううん。僕は、装備を、自分の体を信じ切っていなかったんだ。だから今まで繋がらなかったんだ。
《覚醒〖装備〗を獲得しました。》
装備と繋がった感覚。僕と装備が一体化する感覚。
「あら? 強くなったわね?」
「はい。新しい力を手に入れたみたいです」
「それは朗報ね。では、その力を存分に私に試してみなさい」
「わかりました!」
それから僕は新しい力と新しい気持ちで稽古を続けた。
最初とはまるで違う実りのある稽古だ。新しいスキルを獲得したから。それももちろんあるんだけど、それだけではない。僕自身が僕自身を初めて認めたからだと思う。
その日から数日にかけてミカさんと毎日のように稽古を続けた。
「ミカ。今回もありがとうよ」
「どういたしまして。それにしても私をこんなにも長い間、降臨させられるなんて、あの子の力は本当にすごいわね」
「そうじゃな。私の全盛期よりも力を発揮できているんじゃないかのぉ……あとは若さがあればよかったのじゃが」
「うふふ。メイはずっと頑張っていたし、今は若者を見守る側でしょう?」
「それが嫌じゃといっているのじゃよ」
「うふふ。あ~あ~最初に会ったときは可愛いおてんばな女の子だったのになぁ~」
「ミカは変わらないのぉ……」
「そうね。天使だから……ね」
ミカはどこか悲し気に夜空を見上げた。
「ミカ。これからもしばらく力を貸してもらうよ?」
「もちろん。メイのためになるなら頑張るわよ。私を地上に連れてこれたのは……メイが初めてなんだから。すごく感謝してる」
「かっかっかっ。これからもっと楽しいことになるよ?」
「えっ?」
「この杖は別に使い捨てじゃないからのぉ。おそらくあの少年によっていつでも解除されるだろうけど、少年がそうしなければ、ずっと使える。少なくともこの一週間これだけ呼べることだから、いろいろ落ち着いたらミカと街にもいけるんじゃないかのぉ?」
「ほ、本当!? ねえ、メイ! それ本当なの!?」
「かっかっかっ。乙女みたいにはしゃぐなんて、ミカは相変わらず可愛いのぉ。まあ……私はもう歳だから一緒には行けないかもしれないが、少年や仲間たちがおる。それに、今までの弟子の中で一番筋がいいんじゃろ?」
「そうね。誠也くんって、どうしてレベル成長限界が1なのか不思議なくらい。もしかしたら……そういう試練なのかもしれないね。試練を越えた者は強くなれるって聞いたことがあるから」
「それではあまりにも酷い試練じゃがのぉ」
「私もそう思う。でも彼は諦めなかったし、自分の力を正しく使ってきっと心を許せる仲間ができたんじゃない? 夏鈴ちゃんだっているだろうし……彼はもしかしたら――――レベル1という呪いではなく、祝福されたのかもしれないわね」
「そういう神の気まぐれか……まあ、それでミカにも恩恵があってよかったのぉ」
「うん! 街行くの楽しみ! わ~い!」
「かっかっかっ!」
それからミカは行きたかった場所や食べてみたい食べ物をメイに楽しそうに話した。
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