第70話 宣戦布告と希望

 体はおばあちゃんのおかげで全快していて、立ち上がってもなんともなかった。むしろ、以前より元気になってる気がする。


 部屋から和風の扉を開くと茶の間に繋がっていて、テーブルの先にあるテレビが点灯している。


 ニュースが付けられており、上段には『緊急速報! テロ組織【白の騎士団】が声明を発表!!』と大きく書かれていた。


 そして画面には、僕が見た白の騎士団の仮面を被った男が椅子に座って足を組んでこちらを見つめていた。


 白の騎士団の普通の団員はマントを付けていないが、僕が戦ったヴァイスと、空間のねじれから現れた女性団員はマントを付けていた。ヴァイスは白、女性は赤、そして、画面に映っている男は黒だ。


 その後ろにヴァイスと女性、さらにもう二人が立っており、細身の男性は灰色のマント、女性は紫色のマントを付けている。


「我々の名は白の騎士団ヴァイスリッター。力ある者の味方である。この国は現在、弱者のために強者が虐げられている。本来は強者のために弱者が尽くさねばならないのが世の摂理。それを力ない者があの手この手で強者から吸い上げる。それがこの国の仕組みであり、衰退した原因だ。我々はそんな国を一から作り直すことにした。強者が君臨し、いつかのような世界で最も強い国として今一度君臨するために」


 ゆっくりとした口調で話す彼の言葉に、思わず聞き入ってしまう。それくらい、彼が話す言葉は、今の日本が抱える社会問題の一つでもあるからだ。


 今までなら政府が抑えていたはずだ……なのに、これだけ力を持つ集団が現れると、制御するのはとても難しいと思う。


「これから我々白の騎士団は政府に対して全面戦争をおこなう。その始めとして、政府の最も巨大な軍事施設を攻撃する。愚かな民どもよ。我らの力にこうべを垂れるがいい」


 映像が切り替わり、ある軍事施設が遠くから映し出された。


 そして、軍事施設の前に空間が歪み、無数の白の騎士団が現れる。中には――――ヴァイスたちの姿も見える。


 姉さんは言っていた。力ある者は弱き者を守るために力があるのだと。僕を守るために姉さんは日々頑張ってきて、僕たちのような身寄りのない子供たちの希望になってくれた。


 どうして力があるのに、それを人を支配して私利私欲を満たすためだけに使おうとするのか。


「小僧」


「おじいちゃん……」


「今の小僧ではあれらには勝てん」


「はい……」


「だが、まだ終わったわけじゃない。この戦いで白の騎士団は勝つだろう。だが忘れてはならない存在もいる。クラン【アムルタート】。彼らだって黙っていないさ」


 クラン【アムルタート】……姉さんが参加していた日本最強のクラン。その強さは世界的にも有名だ。その中でエースとして君臨していたのが姉さんだけど、だからといって姉さん一人で完結するようなクランじゃない。リーダーを始め、メンバー全員が最上位探索者だ。


「だから小僧は自分ができることをやれ」


「……はいっ!」


「婆よ」


「なんじゃい」


「小僧を頼むぞ」


「……あれをやるのかい?」


「ああ」


「……少ない寿命が縮むよ?」


「くっくっくっ。構わんよ。と言いたいところだが、そうでもない。あとは小僧の力を見てから婆もやってくれ。わしはもう出るぞ」


「……終わったらまた旅館にでも行こうかのぉ」


「そんときは奢らせてもらうよ」


 おじいちゃんは一足先に部屋を出て、おばあちゃんはテレビを消して反対側に出る。僕もその後ろを追いかけた。


 この家は広大な和風の屋敷で、建物も広いけど、そこから見える庭も非常に広い。


 通路をしばらく歩いていくと、庭先に訓練場のような建物が見えた。


 そのままおばあちゃんと訓練場に入る。


「坊や。爺が杖がどうこう言っていたが、どうしたんじゃ?」


「あ、少し待ってくださいね」


 しばらくフロアボスばかり倒していたし、装備も僕たちが持っている分は最大値だから随分と貯まっている。


 おじいちゃんが作ったと思われる杖に経験値を流し込んだ。


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 【名匠の漆黒のワンド】

 カテゴリー:武器

 レアリティ:Sランク

 魔力+2500、魔法クールタイム軽減10%

 耐性+100、運+50、身体能力+5

 回復魔法効果上昇30%

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 Sランクの……名匠!?


 フロアボスを倒すようになる前に最上層で取ってきた鉱石で作ったみたいな。


 それにしても回復魔法効果上昇なんて、おばあちゃんにぴったりな効果だ。


 回復魔法は、実在すると聞いたことはあるけど、使えるのが各国で一人二人くらいしかいないとされていて、実際目にしたことはなかったけど、まさかおばあちゃんがその一人だったとは驚きだったな。


 Sランクということはレベルが70まで上げられて、必要経験値は700万にも及ぶ。


 でも今の僕ならこれくらいの経験値、みんなと一緒に貯めた分で十分補える。


 一気にレベルを70まで上昇させた。


「おばあちゃん。こちらの杖。もっと強くしておきました」


「ん……? 強くする?」


「はい。僕の……力なんです。唯一の力です」


「ふむ?」


 杖を受け取ったおばあちゃんは、じっと杖を見つめた。


「なるほど。爺が認めたのはこういうことかえ……となると、最近爺が元気なのも、同じ力を?」


「はい。おじいちゃんの槌も強くしています」


「かっかっかっ! それは元気になるわい。爺め。わざと隠しておったな」


「あはは……」


「坊や――――私にもまだ戦えるチャンスをくれてありがとうのぉ」


「おばあちゃん……」


「歳は取りたくないものでのぉ。でもこの杖があれば、婆も全盛期の頃のように戦えそうじゃよ」


「あまり無理はしないでくださいね?」


「かっかっかっ!」


 大声で笑うおばあちゃんの目元に小さな光がキラリと光った。

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