第69話 敗北の裏での、もう一つの敗北
――【前書き】――――――
更新が遅すぎて忘れている方もいると思うので前情報を。
先輩の名前:
紗月の名前:
―――――――――――――
誠也が大きな傷を負い、夏鈴によって運ばれている間。
周りが右往左往している中、紗月と澪は静かに話し合っていた。
「澪先輩。どうしましょう」
「ここから離れると怪しまれるからね……少年を追いかけるわけにはいかないよ? それに気になることもあるかな」
「気になることですか?」
「うん。彼らが学校に来たのって、紗月ちゃんと私をスカウトしに来たんでしょう?」
「そうみたいですね」
「……それだとおかしい点が一つあるのよ」
「それって……あの人ですか?」
澪は肯定するかのように小さく頷いた。
「今からそれを確認しに行こう」
「わかりました。一緒に行きます」
多くの生徒達が校舎から逃げるために外に出る中、二人は真っすぐ校舎の方に向かって走った。
誰もいなくなった廊下を素早く走る二人が辿りついた部屋。その看板には『生徒会室』と書かれていた。
紗月はいつでも刀を抜く準備をして、澪がゆっくり扉を開いた。
開いた部屋の中からは、濃い殺気が外にまで放たれた。
「「っ!?」」
窓際から外を眺めている男に身構える二人。
だが、男はいっさい動こうとはしなかった。
「
ゆっくりと振り向いた男は――――目から光が消え、冷たい視線を二人に向けた。
「芹沢か。そちらはパーティーを組んでいた水無瀬だったな」
「お久しぶりです。先輩。一つ聞きたいことがあって来ました」
「聞きたいこと?」
「はい。今日体育館に現れた白い制服の人達……白の騎士団。あのタイミングよく現れたことに疑問を覚えます。それに……どうして先輩はそこで眺めているだけですか?」
「……くっくっくっ」
志鎌は右手を前にかざす。
「紗月ちゃん!!」
直後に凄まじい衝撃波が放たれて、それに反応した紗月の斬撃がぶつかり合う。
衝撃波はそのまま空に打ち上げられ、校舎の最上階から上部の屋根を大きく吹き飛ばした。
壊れた天井から強い風が吹いて、紗月と澪の髪を激しく揺らす。
「芹沢。今でも遅くない。
「やっぱり、白の騎士団を学校に引き入れたのは……志鎌先輩だったんですね」
「そうだとも。芹沢。お前はこんなところにいるべき人間じゃない。我々と共に弱者を支配する側だ」
「いいえ。私は支配なんて望んでいません」
「……それでいいのか! お前には強くなれる素質がある。なのに弱者達はそんなお前をいいように使っただけだった! 去年一年間体験したのだろ!」
怒りを露にする志鎌に、澪は悲しげな表情を浮かべて首を横に振った。
「確かに先輩の言う通りです。でも……ちゃんと話せばわかってくれる仲間がいるってわかったから。私はそちらには行きません」
「……まあいい。力づくでも連れて行くとしよう」
志鎌は両手に短い杖を取り出す。
それと同時に紗月が最高速度で斬りかかる。
だがその斬撃は届くことはなく、志鎌の周りに張られたバリアに防がれた。
「ほぉ……さすがは芹沢よりも高い成長限界だけのことはあるな。もうそれほど強くなっているとは――――だが、所詮はその程度だ」
志鎌の両杖から赤と青の光が灯る。
今度は後ろにいた澪が杖を取り出し、爆炎の魔法を放つがバリアに防がれた。
「――――ダブルスペル。イヴァルフレイム」
赤い炎と蒼い炎が杖から出て混ざり合い、黒い炎へと変わり、澪に放たれた。
「澪先輩!!」
咄嗟の判断で力を顕現させた紗月は、無数の刀で魔法を受け止めた。だが、受け切ることができず、黒い炎に吹き飛ばされ、全身がボロボロになり、校舎最上階から外に落ちていった。
「紗月ちゃあああああん!」
「芹沢。全てはお前のせいだぞ?」
「そ、そんな……」
「お前が素直に俺と一緒に来ていれば、こうはならなかった。全てはお前のせいだ」
「私の……せい……」
「そうだ! お前は弱者から虐げられてきた! そんなお前がいるべき場所は――――」
そのとき、紗月が落ちていったところから、「わお~ん」と狼の遠吠えが聞こえてきた。
「この声は……シリウス!」
「……ちっ。どこまでも邪魔してくれる!」
「志鎌先輩。私がいるべき場所は貴方の隣じゃありません。私の居場所は――――少年達のいる場所です!」
澪の全身から紫のオーラが立ち上る。
「――――【大賢者】」
彼女の頭上に直径五十センチの半透明の紫色の丸いボールのようなものが現れる。
直後、ボールから無数の魔法がノンストップで発動して志鎌に襲い掛かる。
一つ、二つ、三つと当たる度に大きな爆発を起こしながら、校舎を大きく吹き飛ばした。
魔法を放った澪の後ろから壁を伝ってシリウスが上がってきて、彼女の隣に立つ。
爆風が終わると、その中にバリアを張っていた志鎌は怒りに染まった顔で澪を睨んだ。
次の瞬間、志鎌の隣の空間が歪み、中から一人の女性白の騎士団が現れた。
「グラオ~終わった~?」
「……ロートか。まだ終わってない」
「え~もう時間だよ~?」
「ちっ。あと少しだったのに……」
「いいじゃん。どうせまた戦うだろうし。ね~お嬢ちゃん」
現れた赤いマントの彼女は澪に向かって緩く手を振った。
「うん? ダークウルフなんて珍しいもの連れてるわね。それに今まで見たダークウルフとは全然違うような……?」
「ロート。時間がないんじゃなかったのか?」
「あちゃ! そうだった! じゃあね~お嬢ちゃんとお犬ちゃん~」
「芹沢。次は必ず連れていく」
そして、二人はその場から消えた。
澪はその場で力が抜けたように座り込み、頭上のボールも消えた。
「シリウス……ありがとう。紗月ちゃんは無事なんだね?」
「わんわん!」
と、次の瞬間、シリウスは澪の影の中に入っていく。
すぐに空から四台のヘリコプターが現れ、何人もの軍人が降りてきて、澪に銃を向ける。
「動くな!! 武器を捨て、手を頭の上に上げろ!」
澪はすぐに武器を地面に置いて、両手を頭の上に上げて、立ち上がった。
「爆破犯として現行犯逮捕する!! 拒めばすぐに撃つ!」
澪は軍人達の指示に素直に従った。
そんな中、地上では全身がボロボロになって動けない紗月が、最上階に降りるヘリコプターを見ながら悔しそうに涙を流した。
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