第67話 敗北
「ここは俺が預かろう。お前達はすぐに退避してくれ」
ステージに並んだ紗月に声を掛ける。
「一人で相手する気ですか!?」
「ああ」
「……わかりました。無理はなさらないでください。すぐに警察を呼びます」
「ああ」
紗月と先輩が下がったタイミングで、ステージで声を上げていたリーダー格の男が動く。
それに合わせて俺も動いて、パンチを叩きこんだ。
彼も俺の動きに合わせて鞘に入っていた大きな剣で塞いだ。
衝撃によって周りに黒い電撃が散っていく。
「さすがだ。噂通りだな」
「…………」
周りを囲っていた団員は探索者でいえば、中位探索者くらいだった。弱いわけではないけれど、四十層には行けないように見える。
それに対して、この男は俺が今まで出会った誰よりも強い。
僕を抜いて行こうとする彼を何度も止め、彼は鞘のまま何度も攻撃を叩き込んでくる。
一瞬で何回も攻撃をしていると、
「ダークウルフか。珍しいものを持っているな。いいのか?」
「ん?」
「オークションの買い取りデータなんて簡単に手に入る。お前が購入したダークウルフの卵なんてすぐにバレると思うが? その仮面の下の素顔がな」
「……もしバレているなら、もうバレていると思うが?」
「くっくっ。噂通りに冷静だな。フロアボスを前に優雅に座っているだけのことはある」
「剣は抜かないのか?」
「……なるほど。お前は一つ大きな勘違いをしている」
「勘違い……?」
「お前如きに剣を抜くまでもないってことだ」
次の瞬間、男の体から赤いオーラのようなものが溢れ、一気に加速する。
目で追うのがギリギリで何とか反応して、彼の剣戟をギリギリに止める。それと同時に
「その程度か! 漆黒の翼!」
大きな剣を大振りに振り回すが、避けることができずに両腕で塞いだ。
攻撃に当たった僕の体は大きく吹き飛び、体育館から勢いよく壁を突き抜けて外に放り出された。
ダークメイルのおかげで何とかダメージはないけど、このままではかなり大きな戦いになりそうだ。
一つだけ後悔することがあるなら……ダンジョンで魔物を相手することばかりで、こうして対人戦闘は経験がない。
姉さんからも上位探索者になれば、国からの指示で対人戦闘をすることもあり、対人を考えた戦い方を学んだと言っていた。
毎日ダンジョンに向かう日々だったから、こういうことになるとは思わなかったし……やはりどこか姉さんを頼っていたのかもしれない。
外では生徒達が僕を見て驚いていて、先生達も右往左往するのが見えた。
影から
さて……どうしたものか……生徒達も建物を批難しているけど、学校から避難しているわけじゃないし、白の騎士団の目的もまだわからない。
体育館に空いた穴から、さっきのリーダー格の男が姿を見せた。
「剣を抜くまでもないな。それだけの力を持っていながらこんなに弱いとは! 最上位探索者が聞いて呆れる!」
僕もまだ武器を使ったわけじゃない。けれど、それは彼だって一緒だ。
「念のために聞こう。漆黒の翼の
「あるはずがない」
「そうなるだろうな……では、その意志の力を見せてみろ!」
そう言いながら男は大きな剣の鞘を取った。
真っ白な刀身は光を受けて美しく輝く。
彼から感じられる殺気で、全身から鳥肌が立つ。
「みんな逃げろ!!
危険を感じたのか紗月と先輩も先生を説得してみんなで逃げ始めた。
だが、時はすでに遅く、男は抜いた大剣を大きく振りかぶり――――振り下ろした。
オークガードの大盾を構えた。
「その程度の盾で防げると思うのか!!」
男の剣戟は赤黒の巨大な斬撃となり僕の視界を埋め尽くした。
斬撃が大盾に当たった瞬間に壊れる感触がして、すぐに【修理】を行って回復させる。それを三度繰り返した。
そのおかげで僕の後ろに逃げていた生徒達は無傷で済んだ。
――――けれど。
僕の視界に赤い血しぶきが見えた。
斬撃を何度も塞いで弱めることはできたけど、全てをかき消すことはできなかった。左肩から腹部にかけて、ダークメイルを斬撃が貫いたのだ。
全身に今まで感じたことがない激しい痛みが走る。
歯を食いしばってその場に立ち続ける。もし僕がここから離れてしまっては、後ろの生徒達が二撃目の犠牲になりかねない。
「その程度だったか。弱者は――――ここで死ね!」
二撃目が……くる!
僕を守ろうと走って来る
どうやって二撃目を止めていいか頭をフル回転させるが、いい手が思いつかない。
そのとき――――
「
遠くから姉さんの声が聞こえ、男に向かって一本の矢が飛んでいく。いや、よくよく見ると矢ではなく一本の剣だ。
男は姉さんの剣に反応して、飛んでくる剣に向かって二撃目を放った。
轟音が鳴り響いて、大きな爆発となる。
高熱の爆風が威力の凄まじさを物語っている。
すぐに僕の前に姉が現れた。
姉さんの背中が見え、誰よりも心強い。でも……僕はまだ姉さんの背中を追っているだけの存在なんだなと思えた。
「
「いや。リーダーは
「ふう~ん。まあ、うちもボスより俺の方が強いし、わからなくもない。
「名前は?」
「…………
彼が名前を口にしたとき、彼の後ろに黒い歪みが現れて、中から一人の小柄の騎士団員が出てきた。白いマントのヴァイスに対して、その人は赤いマントを羽織っている。
「ヴァイス~終わった~?」
「ああ。終わったぞ」
「あれ? スカウトは失敗~?」
「どうやら二人とも正義の味方らしい」
「そっか~それで、あの二人は誰?」
「最近噂の漆黒の翼だ。前のが
「そっか……邪魔されちゃったんだね~どんまい~」
軽い口調でヴァイスの方をポンと叩く彼女。
「そろそろ帰るわよ。めんどくさいのが来そうだから」
「わかった――――
「じゃあね~」
赤マントの女性は緩く挨拶をして、彼女とヴァイスは黒い空間の歪みに飲み込まれ、その場から消え去った。
――――そして、僕は全身に力が入らず、その場で倒れた。
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