第66話 白の騎士団の目的
「この中に上位探索者の資質を持つ者が二人いると聞いている。こちらに来てもらおう」
上位探索者の資質……?
「少年。私と紗月ちゃんのことだよ」
なるほど。成長限界レベル80越えという上位探索者の
「先輩。もしものときは全力でヘルプに入ります」
「わかった。もし何かをするなら私たちはあまり手伝えないよ」
「はい」
いつも戦いといえば嬉しそうにしている先輩が、珍しく真剣な表情で話す。それくらい現状がまずい状態というものだ。
先輩が立ち上がり、ゆっくりステージに向かって歩き出す。
さらに紗月も立ち上がり二人一緒に向かった。
「私たちに何の用でしょう? 生徒たちを人質までとって」
「ほぉ……思っていたよりもずっと強いな?」
「…………」
「君たちは上位探索者としての資質を持っている。それを越えた最上位探索者の資質を持っている。髪の色がそれを物語っているな」
最上位探索者。代表的な存在といえば、姉さんのセグレス。もちろん、その他にも有名な探索者は多い。
先輩も生徒の間を歩き、登壇して紗月の隣に立った。
「ここに集まった諸君! 其方達は探索者に疑問を持ったことはないか! 我々探索者は政府に支配され、何もかも強制される。まだ学生である諸君は経験はないと思うが、大人になれば、力ある者は移動にも制約が付けられ、ノルマを課せられる。それが政府のやり方だ。それに疑問を持たないか? 我々は政府によって制限されるべきではない!」
「いいえ。制限はされた方がいいと思います」
紗月の言葉に、白の騎士団の面々がブーツを同時に踏みつけてバーチンと体育館の中に音を響かせた。
「何故力ある諸君が、力のない者に支配されなければならないのか! それが理解できないのか!」
「理解できません!」
「愚かな……」
「愚かなのは貴方達です! たしかに私達は普通の人よりも強くなれます。成長限界レベルだって高いから強くなれる人だっていますし、私もきっとその部類でしょう。だからといって、弱者を痛めつけたり、弱者から何かを奪うのは――――貴方が言っていた政府と同じことをすることになるじゃないですか!」
「我々は強者。弱者は強者のために働くべきだ! ここに集まっている諸君は未来の強者だ! 我々とともに来た者には、栄えある未来を約束しよう! 世界は弱者のためのモノではない! 我々強者のためのモノだ!」
「っ……」
壇上にいる紗月が男を睨みつけ、先輩は紗月にくっついて周りに意識を割けている。
彼らの言い分。いまもっとも社会問題になっている問題だ。彼が話したことは……残念ながら全て事実だ。
探索者は常に政府によって管理されており、その機関を【探索者ギルド】という。クランとの違いは、単純にクランは個人同士のパーティー延長のものに対して、ギルドは国が運営している言わば権力の象徴のようなものだ。
もちろん、探索者に寄り添った政策を行ってはいるが、探索者の管理やルール違反への注意、違反者への対策も全てギルドが行っている。
そうできるってことは、ギルド内に強力な力を持った者が在籍しているのだ。正式には軍部になる。さらに傭兵として最上位探索者に依頼が来る場合もある。姉にも何度かそういう依頼があったと聞いている。
強者はより上に立ち、弱者から搾取するのが世の常。他国ではそういう国もある。けれど、日本は全ての国民を平等に扱う方向で話がまとまった。当然……民主主義の投票によるもの。
投票といえば平等――――と思われるかもしれないけど、実際中位探索者以上の人数よりも下位探索者が、探索者を生業にしない人の人数の方が圧倒的に多い。結果が見えていた投票だと大きなバッシングを受けており、もっと社会的な地位を上げろという最上位探索者クランだって存在するのが現状だ。
ある意味、それらを全て超えて沈黙させたのは、他ならぬ姉さんだ。最強探索者として、国民に夢を与えた姉の活躍。姉さんが最強に君臨しているから。姉さんが弱者に救いの手を伸ばしていたから。
でも、いまの日本に最強探索者セグレスはいない。
こうして彼ら白の騎士団が堂々と暗躍したのもその影響だと思う。
次の瞬間、白の騎士団たちがその場で武器を抜いた。
「きゃあああああ!」
すぐに体育館に悲鳴が聞こえる。戦える者もいるが、ここで戦いになれば、必ず生徒に被害が出てしまうのは容易に想像できる。
「シリウス。西側を頼む。僕は東側を制圧するよ。ステージと出口は二人が反応してくれるはず」
僕の影の中に入ったシリウスから肯定したように小さく尻尾を出して応えてくれる。
周りの生徒達の視線が彼らに集まっている隙に僕とシリウスは体育館の左右に分かれて、一気に加速して走る。
こちらの動向に意識を向けていた先輩が反応するのが見えた。
非戦闘モードを解除していつもの
最初の団員を蹴り飛ばして、木剣を伸ばして遠くの団員を突いて、近くの団員に襲い掛かる。
僕が飛んだ東側は五人。全員を制圧した頃には、
ステージから出口まで先輩の雷の魔法の光が飛んで驚く生徒達の顔が見える。
二人が時間を稼いでくれたおかげで、僕と
「ゼタ様だあああああああああ!」
後方から歓喜する声が響き渡った。
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