第65話 全校集会

 今日は久しぶりに高校の体育館に集まっている。


 毎週月曜日に出席のために来ているが、それとはまた別の用事だ。


 全生徒たちが集まって、校長先生のありがたい話を聞く。


「――――長期連休はしっかり休んで勉学に励んでください」


 ようやく長い話が終わったようだ。


 クラスは入学当時から変わってしまい、上位クラスは探索者の実力順だが、他は進学のためにランダム。Fクラスだった僕のクラスはすでになく、Eクラスまでしか存在しない。


 AとBとCクラスは相変わらず探索者のクラス、DとEは進学クラスだ。


 となると、自然と僕が入ることになってるのが――――Cクラスだ。


「レベル1野郎だ」


「金魚のふんだ」


 同じクラスとはいえ、話したこともない人々がたくさんいる。でも僕のことはみんな知っているようだ。


 金魚の糞か…………たしかに、僕は紗月のおかげで強くなれたものだからな。その通りだと思う。


 その時、俺の右腕をツンツンと押す感覚があった。


「ん? ――――先輩!? なんでここにいるんですか?」


 紫髪は目立つのもあって、先輩なのは一目で分かる。


「少年? 表情が暗いぞ?」


「そ、そんなことないと思いますけど」


「それに私はずっと少年の隣にいたんだぞ?」


「えっ……!? き、気付きませんでした」


 少し目を細めて僕を見上げる。


 いつも一緒にいるけど、学校で見るとまた違うようにも見える。小さな小動物のように見えるんだな。


「ほら、私はAクラスだから一年生のCクラスの隣なんだよ」


「あ~そっか。探索者クラスが前に並んでますもんね」


「そうなのじゃ。紗月ちゃんはAクラスだから遠くみたいね」


「ですね」


「それにしても……どうして少年がCクラスなのだ? だって、もう4――――」


「っ!?」


 急いで先輩の口を塞ぐ。


「っ!? っ!」


 僕は小さい声で先輩に耳打ちする。


「先輩! 姉さんから釘を刺されでしょう!? 絶対に僕達が四十層だなんて言っちゃいけないって!」


「!?」


 分かってくれたみたいでよかった。


 溜息を吐きながら立つと、周りの生徒たちからものすごい注目されていた。


 あはは…………また悪目立ちしてしまったようだ。


 姉さんからは僕も紗月も先輩も高校生のうちに四十層に入ったことは秘密にしようと言われている。


 高校生の時点でそれがバレると色々大変になるからもあるし、漆黒の翼は現在大きな注目をされているクランとなっていて、その正体が僕達だとは知らせたくないからだ。


 周りでは漆黒の翼が話題に上がっている。


 待ち時間、スマホを覗いて「私はクエタ夏鈴様が一番好き!」とか「やっぱりナノシリウスちゃんが一番!」などと、メンバーを褒める言葉が多い。


 その中でも女子より男子に人気なのが――――「やっぱゼタ様、かっけぇな……」

と声が聞こえてくる。


「この前、お父さんが見たらしいんだけど、フロアボスが現れるまで豪華な椅子に足を組んで待つゼタ誠也様が超かっこよかったみたい! 写真撮らせてくれたから写真もあるぞ」


「まじかよ! 見せて!」


「ほら」


「かっけぇ~! マジかっけぇんだけど!」


 …………さっきまで僕を「金魚の糞」って言っていた二人が、今度はゼタを褒め始めて、何とも複雑な気持ちになってしまう。


 壇上に一人の女子生徒が上がる。


 ロング髪をツインテールにしてて、紗月や先輩に負けず劣らず綺麗だ。


「はいはい! 生徒会から報――――」


 彼女が何かを言いかけたその時のことだった。


 体育館の照明が全て消え、窓から全ての光が断たれた。


 体育館は一気に暗闇に包まれる。


 当然のように生徒たちの驚く声や悲鳴が鳴り響く。


 隣にいた先輩の手を握る。


「先輩。周りは見えてますか?」


「ううん。暗くて見えない」


「いつでも出れるようにしましょう」


「うん。いつでも大丈夫」


 ダンジョンではいつ何が起きるか分からない。だからこそ、どんなときも冷静に対応できるようにしていた。それは外でも・・・変わらない。


「…………囲まれてますね。上と壇上にも気配がします。生徒会長も捕まったかもしれません」


「うん」


 次の瞬間、バチンと大きな音とともに、壇上の照明だけが付いた。


 そこにいたのは、生徒会長を捕まえた人と、他に三人が立っていた。


 衣装は真っ白なスーツに黒いネクタイと手袋が目立ち、顔には仮面を被っている。


 仮面は白色に右目と右目から涙のように黒い線が一筋入っているものだ。


「これから声が出したものは――――容赦なく殺す」


 一瞬で体育館が静寂に包まれた。


 ここにいるのは大半が探索者だ。いや、少なくとも全員が探索者としての経験がある。


 だからこそ彼らから放たれる異質な強さ・・・・・を感じて素直に聞いた方がいいと思えた。


「我々は――――白の騎士団ヴァイスリッターという」


 彼らはそう名乗った。

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