第64話 ファン

 数日後。


「お、おい……あいつらって……」


 僕達を見て指差す探索者パーティーが多くなってきた。


 最近ダンジョンのフロアボスを狩る日々を繰り返していると、意外にも噂になっているらしく、十層台で多く出会う探索者たちから見られるようになってきた。


 元々漆黒の姿だから怪しいんだろうけど、噂でそれが拍車をかけたことになる。


「最近いろんな人たちが見てるね?」


「うん。黒くて目立つみたいだし」


「ふふっ。これもゼタ誠也くんのおかげだね~」


 それは喜んでいいのか……?


 二十層の最奥のフロアに着いて、先輩が魔物の殲滅に向かっている。シリウスも楽しそうに先輩を追いかける。


ナノシリウスッ! また行くわよ~!」


「ワンワン!」


 二人を眺めているだけでとても癒されるようだ。


 いつの間にかビーチチェアを取り出して、ゆったりする二人。


 漆黒ローブなのでちょっとしたシュールな光景だが、こうして先輩のストレス(?)を発散させる間、棒立ちするわけにもいかない。


 最初こそちょっと恥ずかしそうにしていた紗月もすっかり慣れて僕の隣に座り込んだ。


ゼタ誠也くん? 座らないの?」


 それにしてもダンジョン内では名前じゃなくて通り名で呼ぶのも慣れてきたな……。


 と、そんなことよりも――――


「何故僕だけ……こんな椅子なの? クエタ姉さん


「えっ? とても似合うよ! すごく似合うよ!」


「うん! 私もすごく似合うと思う!」


「…………二人とも絶対僕をイジメてるでしょう!?」


 というのも、二人がビーチチェアに対して、僕用の椅子は――――ものすごい豪華な作りの革製のソファだ。


 こんなダンジョンのど真ん中で置くと違和感が半端ないよ!? てかビーチチェアだって違和感半端ないよ!?


 仕方がないので座り込む。


 ちなみに値段もとんでもない超高価品で、座り心地は言うまでもなく素晴らしい。


 ダークメイルとはいえ、スキルでフィットしているので座り心地が伝わってくる。


 はあ……本当にリラックスできるな…………。


 前方には広範囲魔法を連発しながら甲高い声で笑う先輩と、散歩が楽しそうにはしゃぐシリウスの鳴き声が響き渡った。


 その時。


「あ、あのっ!」


 横から恐る恐るやってきた探索者パーティー。


「し、漆黒の翼の皆様ですよね!?」


「我ら~漆黒の翼~!」


 姉さんがビーチチェアに横たわったまま、緩く声を上げる。


 それを聞いた探索者の女性と仲間たちは黄色い声を上げた。


「これっ! 差し入れです! 私達漆黒の翼のファンです!」


 彼女から手渡されたのは、美味しそうなお菓子だった。


「あら、ありがとう。ありがたくいただくわ」


「はいっ! わ、私、クエタ夏鈴様の大ファンなんです! これからも頑張ってください! 応援してます!!」


「ありがとう!」


 見守っていたメンバーの一人が僕の前にやってきた。


 少し小柄の男性。まだ学生でうちの制服・・・・・を着ている。三年生の先輩だ。


ゼタ誠也様!」


「う、うむ!」


 これも姉さんから『威厳ある喋り方』を強制されているので、頑張って貫く。


「いつもゼタ誠也様の大活躍! とても感動しています!」


「うむ」


「僕もゼタ誠也様のようになりたいのですが……中々上手くいかなくて……どうしたらゼタ誠也様のように強くなれるんでしょうか!?」


 なるほど。強くなりたい……か。


 正直、それを僕に聞くのはナンセンスな気もする。だって、僕はレベルが上がらないから。


 ただ一つ伝えられることがあるなら――――


「俺が一つ伝えられることがあるなら――――仲間を信じろ。仲間を頼れ。仲間とともに歩け」


「仲間……!」


「俺も一人では強くなれなかった。仲間がいて、仲間に導かれて、仲間とともに窮地を越えてこそ、いまここにいる。探索者が個人であるからこそ、仲間を大切にするべきだ」


「は、はいっ! 僕、これからゼタ誠也様の名言を胸に頑張っていきます!」


「う、うむ」


 彼は何度も頭を下げ、握手をしてあげると感極まって泣いてしまった。


 そんなアタフタな出来事が終わって周りに誰もいなくなると。


ゼタ誠也が俺だって……! か、かっこいいよ! エクサ紗月ちゃん!」


「はいっ! クエタ夏鈴姉様! 私も俺って言うゼタ誠也くん、すごくかっこいいと思います!」


「二人ともやめてよおおお!」


 慣れないことをするとすぐこれだ。


 はあ……。


「み~ん~な~ボ~ス~出~た~よ~」


 遠くから先輩が可愛らしくぴょんぴょん跳ねながら手を振る。


 その後ろには凶悪そうな巨大魔物が見えるけど、最近は慣れてしまい、あまり怖くもなくなった。


「さて、フロアボス戦――――行こうか」


「「うん!」」


 姉さんは手際よく椅子を収納させて、僕たちは二十層のフロアボスに挑んだ。


 当然のように速い決着となったが、見守っていた探索者パーティーから、ものすごい黄色い声援が飛んできた。

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