第63話 PK
翌日。
「ちらっ……」
わざわざ魔法の杖を取り出して、声に「ちらっ……」と出してを何度も繰り返す先輩。
先輩だけど体が小さいから、おねだりする可愛い少女のようだ。
「先輩。今日からはフロアボス倒しに行きますよ?」
「ほんと!? 本当に!? いいの!? やったあああ~!」
嬉しそうにはしゃぐ先輩に笑みが零れた。
「誠也くん? 何階から行く?」
「せっかくだし、下層からでいいのかなって思ったけど、どうかな?」
「十一層?」
「そうだね。そこら辺からでもいいのかなって思う」
「分かった!」
うきうきする先輩の頭を優しく撫でてあげてダンジョンに向かった。
「ふにゅぅ……」
◆
十一層の最奥に着いて、先輩の広範囲魔法で魔物を殲滅していく。
レベルがずいぶん上がったことや、魔法杖のおかげなのか、以前十一層の時よりも驚くペースで殲滅していく。
可愛らしい少女が高笑いしながら魔物を殲滅する姿は中々シュールなモノがある。
先輩が殲滅していると巨大な青いスケルトンが現れた。
「ブルースケルトンキングだね。今回の武器は大剣っぽいね」
「そうだな。何だか懐かしいな」
「ふふっ。あの時は本当に誠也くんが死ぬかと思ったよ?」
「あはは…………ね、姉さん、そんな睨まないでよ」
「むぅ……危ないことしないでよ?」
「もちろん。というか、もう姉さんと一緒じゃないとダンジョンに入らないから大丈夫」
「それもそうね」
「んもぉ~! 早く戦おうよう!!」
一人ぷんぷんする少女(?)に笑みがこぼれた。
「さ~て、やるか!」
「「「は~い!」」」
巨大な青いスケルトンに挑む。
最初に僕を捕捉した大きな剣が振り下ろされて軽々と避けた。
昔なら必死に避けたのが、最近は速さにも目や感覚、体が慣れてギリギリの距離を維持したまま簡単に避けられる。
地面に叩き付けられた大剣をそのまま僕が押し込むと、後ろから魔法と矢が飛んでくる。
爆音が鳴り響いてブルースケルトンキングが倒れる。
「誠也くん!」
「ああ!」
紗月と共に倒れたブルースケルトンキングの左右に分かれて頭部を目指す。
大きな骸骨の頭部の向こうから美しい刀身が見える。
お互いに頭部で攻撃をして通り過ぎる。
その刹那、紗月と目が合って、彼女は楽しそうに笑顔を浮かべていた。
フロアボスだけ見える弱点を叩くと大ダメージを与えられるのが分かっている。
頭部の鼻が弱点で僕の蹴りによってボロボロと壊れた。
横たわっているブルースケルトンキングに上空から真っ赤に燃える大きな爆炎の玉が降りてくる。
「――――インフェルノ!」
凄まじい爆炎に包まれてブルースケルトンキングは――――跡形もなくなった。
「少年~! 次いこう! 次!」
「はい。思ったよりも速かったから、十二層もいきましょう。先輩」
「やったあああ~! 少年――――大好き!」
先輩が真っすぐ僕の胸に飛び込んできた。
まさか抱き着くとは思わなくてびっくりする。
先輩の甘い髪の匂いがふんわりと広がって、僕達はそのまま十二層に転送した。
「…………姉さん。突撃してこないでよ」
「え~」「え~」
「紗月まで!? や、やめろ!」
「あっ! しょ、少年! 魔物を倒しながら進もうよ!」
「うわああああ!」
僕は追いかけてくる姉さんと紗月から全力で走って逃げて、先輩は文句を言いながら追いかけてきた。
通り過ぎる魔物は姉さんの矢が飛んできて倒してくれるが、気のせいか僕をすれすれに通っていく気がする。
あっという間に最奥に着くと、先輩はまた「少年のバカああああ」と叫びながら広範囲魔法で魔物を殲滅していく。
「姉さん、紗月、落ち着いた方がいいんじゃないかな?」
「澪ちゃんはよくて私はダメなんだ?」
「せっかくだから私も?」
「せっかくの意味違うから! う、うわあああ!」
二人とも僕の胸に同時に飛び込んできた。
鎧だから直接触れられるわけじゃないけど、漆黒ローブの内側から二人の髪の甘い香りがふんわりと広がる。
「少年~! フロアボス出たよ~!」
早っ……!?
くっついている姉さんと紗月を剥がして見てみると、どうやら僕達から少し離れた場所だ。
「いつもとちょっと遠いな」
「もしかしたら別パーティーかも?」
先輩が見るからにガーンとテンションが下がる音を響かせた。
念のためにフロアボスの近くに移動してみると、通常魔物と懸命に戦っている四人組がいた。
「やっぱり別のパーティーか」
「放置してるならこちらでもらっちゃおう~あの~すみません~」
姉さんが近づくと、僕達を見たパーティーメンバーがものすごくあからさまに身構えた。
「や、やばいよ! 魔物もまだいるのに、こんな時にPKに会うなんて!」
「まずい! みんな気を引き締めろ!」
「あの~私達はPKじゃないですよ~私達は――――漆黒の翼です!」
姉さんの声が響いていく。
ますます怪しそうに見つめるパーティー。
それにしてもこの姿だとPKだと勘違いされるんだな。
上層だとほとんどパーティーと出会わないので気にならなくなったけど、僕達を見かけた探索者はみんな警戒する。
PKというのは、元々ゲーム用語のプレイヤーキラーという言葉からきている。人を狙った人を指す総称で、今で言うなら――――殺人探索者を指す言葉だ。
「え、えっと……フロアボスならどうぞ好きにしてください!」
「は~い。じゃあ、もらいますね~」
とくに気にする素振りも見せず、姉さんがやってきた。
「少年! 速く倒そうよ~!」
「はいはい。向こうパーティーが良いならいいでしょう」
彼らを横目に僕達はまたフロアボスを倒した。
その日から毎日フロアボスを狙って倒し続ける日々を送った。
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