第62話 運の良さ
ダンジョンから出るまでにやってきたのは――――四十七層だ。
景色は四十五層から大きく変わってはないけど、入った瞬間にここが紛れもなく現在最高難易度の階層だと伝わってくる。
「ついに来たね。誠也」
「うん。姉さんとここに立つのが夢だったから、すごく嬉しいよ」
「えへへ~私もだよ? 誠也とこうして肩を並べてここに立てるなんて。それにしても思いのほか早かったかな?」
「探索者になってからまだ日は浅いからね……でもちゃんとここに来れて良かった」
「うん! これからも頑張ろうね?」
僕達は景色を惜しみながら四十七層を後にした。
◆
次の日。
さっそく四十七層にやってきて向かうのは――――狩場ではなく、そこから入る狭い洞窟だ。
洞窟は地面の下に入るようになっていて、中に魔物はいないので生き物がいない空間となる。広さは二十畳くらいの広さだ。
「さて! 今日はばりばり――――採掘やるわよ~!」
「「お~!」」「うぅ……」
約一名テンションがガタ落ちしているが、強制的にツルハシを持たせる。
これは金属採集用のツルハシで、ダンジョンの壁をツルハシで叩くと鉱石がドロップする仕組みだ。こういう場所を【鉱石フロア】と呼び、魔物は近づかないので採集を生業にしている探索者も多い。
身体能力のおかげでツルハシは片手でも簡単に持てるので、みんなツルハシを二本持って壁を叩き始めた。
壁をいくら叩いても崩れることはなく、不思議と鉱石が壁からドロップする。
「少年のバカあああああああ~!」
いやいや……どうしてまた僕ばかりなんだ……。
先輩は大粒の涙を振り撒きながら、一所懸命壁を叩き続けた。
【鉱石フロア】があるなら四十七層は採掘する人で賑わうと思われるけど、実はそれは難しい。
というのも、安全地域があるのは、二つ目のゾーンと三つ目のゾーンの間だ。
三つ目のゾーンにたどり着けない探索者はこれない。
それもあって、今までここにくるパーティーは、姉さんが入っていたクランを主軸にいくつかの戦闘クランと採掘クラン、荷運びクランにそれぞれ分かれて来てたみたい。
そういう全体的な目標があっていくつものクランが組んだ組織のことを【キャラバン】と呼ぶ。
向上した身体能力で一日中ツルハシを叩き続けた結果――――とんでもない量の鉱石が集まった。
「そっか……異常に取れるなと思ったら、誠也のおかげなんだ……」
「ん? どうしたの? 姉さん」
「だって、一日で取れる数じゃないのよ。私達四人でたった一日でしょう? この量を今までのパーティー――――キャラバンで集めようとすると…………一年もかかるわよ」
「一年!?」
「うん。黒神石の一欠けらを出すにも凄い時間がかかるのに、黒髪石の原石がポンポン出る……それって誠也の運の高さが響いていると思う」
運……か。
そういえば、ここに来るまでもそうだけど、倒した全ての魔物が核をドロップしている。おかげでシリウスの餌には困ってないんだが、姉さんはそれも異常だと言っていた。
最近装備の数値も増えたおかげで運の数値もかなり上がってる。それのおかげと思うと、とても嬉しい。
「これなら今日の採取だけで十分そうね」
「!? 明日からはちゃんと狩れる!?」
「せ、先輩!? 足にしがみつかないでください! 明日からはちゃんと狩りに専念しましょう!」
「や、やったああ~!」
「先輩。これもこれから狩りをより楽しくするためにおじいちゃんに装備を作ってもらうためですからね?」
「でも……今日魔法全然撃てなかった……」
いやいや……ここに来るまで使ったでしょう……。
「はい。外に出ますよ」
「ちょっとくらい狩りしてもいいじゃん~!」
「ダメです! はい。強制送還!」
ダンジョンの外に出る。
入る時と出る時にほんの一瞬の
僕はその時間を使って、非戦闘モードに変換していて、これならダンジョンに入ってすぐに装備がバレることも、出る時にバレることもない。
僕達はレストランで食事をしてからおじいちゃんの店に向かった。
「おじいちゃん~今日はものすごいお土産もってきたよ~」
「!? まさか、到着したのか!?」
「扉閉めていいよね?」
「当然じゃ! 速く中に入ってくれ!」
目を大きくするおじいちゃんに背中を押されて、裏の工房の中に入る。
すぐに指定された場所にマジックパックから黒神石の鉱石を大量に出した。
「こ、こ、こんなにもかああああ!?」
珍しくおじいちゃんが大声を上げた。
驚きすぎて顎が外れるんじゃないかって心配になるほどだ。
「鎧と武器! よろしくお願いします! 武器は全種類ほしい!」
「鎧優先でいいんだな?」
「うん! それでお願いします!」
「分かった。任せておけ」
「料金はどうするの?」
「いらん。黒神石の鉱石をこんなにも託してくれたんだ。
「じゃあ、できたら連絡ちょうだい!」
「あいわかった!」
これから出来上がる装備にソワソワしながら、その日を待つことになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます