第58話 拉致大作戦?
紗月には
うちが住んでいるマンションも大概巨大だけど、それよりも巨大なビル。
ここら辺一帯で一番大きなビルだ。
「ここが水無瀬グループのビルね」
僕も知らなかったんだけど、紗月の両親が営んでいる企業は、世界的に有数の企業らしい。しかも、ここ十年で一気に成長した恐ろしい企業だ。
紗月が言っていたように十年前はまだ狭いアパートで鍋を囲んでいたと言っていた。
現在は紗月一人で住む高級マンションを与えるようになったくらいだし、ご両親の商売の手腕は確かなモノなんだと思う。
まあ、それを僕が計れるかというと、ただ外見からそう判断するだけだけど。
「姉さん? 本当にやるの?」
「当然よ。紗月ちゃんは私達の重要なメンバーよ。まさか、誠也は紗月ちゃんを要らないと思ってる?」
「そんなはずないでしょう! 紗月は大事なメンバーだよ!」
「ふふっ。そうね。誠也が大切にしているから、私にとってもとても大切なメンバーだから。だからこそ、あのままにはしておけないわね。探索者を辞めなさいと言われないようにね」
「うん……」
でも本当にこれでいいのだろうか? 僕達が首をツッコむべきなのかと不安に駆られる。
「大丈夫。もし怒られたら姉さんが何とかしてあげるから」
「姉さん…………ううん。その時は、リーダーである僕がちゃんと責任を取るよ」
僕も覚悟を決めた。
紗月のためにできることをしよう。
ビルから少し死角になる場所で、僕と姉さんの【非戦闘モード】を解いて、ダークフルメイトと漆黒のローブを展開させる。
これなら誰が見ても僕達姉弟を知る方法はない。
…………なんか悪いことしているみたいで気が引けてしまう。というか、実際にこれから悪いことをやるんだけど……。
「よし、行こう」
「あいっ!」
僕と姉さんは――――ビルの壁を走って真っすぐ上っていく。
身体能力上昇とステータス上昇も相まって、重力に逆らってまっすぐビルの壁を走ることもできるようになった。
どんどん地上が遠くなって、チラッと覗いた下に目がくらむ。
「ふふっ。まさか、ビルの壁を走る日がくるとは思わなかったわ~楽しい~」
「姉さん……一応、犯罪だからね?」
「うん! 大丈夫!」
いやいや……大丈夫ではないんだけど……まあ、言っても仕方がない。
僕達は
「何者だ!?」
すぐ壁に特殊粘着剤を展開させて塞ぐ。これがないと上層の風圧が酷くて大変なことになるから。というか既に大変なことにはなっている。
入った場所は社長室。
そこに置かれた物が乱雑になっていた。
「貴方が水無瀬グループの社長さんですね?」
「……そうならどうする? 殺すのかね?」
「いえ。ただ、拉致させていただきます」
「…………これでも探索者のために日々奮闘していたつもりで、誰かに恨まれるとは思っていないがね」
彼が言うことも最もだ。
というのも、水無瀬グループがここまで急成長したのには理由がある。
誠実をモットーに、探索者のために素材の流通や核の買取から装備の流通まで、世界を走り回ってそれを実現した企業だ。
もちろん、ライバル関係にあった会社は打撃を受けているが、水無瀬グループができたおかげで、無駄を省き、より安価で良い品を世界中に循環させたこともあり、多くの会社が水無瀬グループの傘下に入ることで、被害を最小限にしている。
姉さん曰く、近年稀に見る最高のホワイト企業ということだ。
「恨まれることがない……本当にそう思いますか?」
「当然だ。胸を張って言っても構わない」
「…………残念です。貴方は何も分かってない」
「……なるほど。いいだろう。俺は誰かを陥れたりしていないし、潔癖なはずだ。どこにでも連れていくといい」
次の瞬間、扉が開いてSPが入ってくる。
――――がしかし、姉さんに一瞬で制圧された。
その様子を堂々と見ていた水無瀬さんは諦めたように俺のところにやってきた。
「副社長も連れていきます」
「なっ!? 俺一人で十分じゃないか!」
「いえ。副社長も一緒でなければなりません。
「了解っ」
いつもよりトーンの低い声で答えた姉さんが社長室から飛び出る。
それを止めようと動いた水無瀬さんを僕が止める。
「お金がほしいなら今すぐにでも出す! だからこういうことはやめなさい!」
「お金は一銭もいりません」
「なんだと……? では何のためにこんなことを?」
「貴方はもっと自分の足元を見るべきだ。今日ここでやったことは許されるものではないかもしれません。ですが貴方には――――現実を見てもらう必要がある。だからここで拉致していきます」
すぐに姉さんが一人の女性を抱きかかえてやってきた。
口封じと両手両足を縛っている。
今度は慣れた手付きで一瞬で水無瀬さんも縛った。
僕達は彼らを連れて――――外に飛び込んだ。
◆
水無瀬ビルでの一連の出来事は、当然大事になった。社長と副社長が拉致されたから。
だが、それが広まるよりも先に僕達がやってきたのは――――紗月が待っているマンションだ。
「「紗月……?」」
「お父さん!? お母さん!?」
やってきた場所が意外なのか、水無瀬さん達は大きく目を見開く。
「初めまして。手荒な真似をしてしまい申し訳ありませんでした。ですが、こうでもしないと水無瀬さん達に会うことも、話してもらうこともできなさそうでしたから」
そう話しながら、僕と姉さんは【非戦闘モード】になって顔を晒した。
「セグレス殿!?」
「お久しぶりです。水無瀬さん」
「どうして貴方のような方がこういうことを!?」
「それは私のセリフです。我々探索者に大きな援助をしてくれる水無瀬さんが、まさか――――娘さんをないがしろにしているとは思いもしませんでした」
「娘を……ないがしろ!?」
みんなが目を大きくして驚く中、僕だけは座卓の上にコンロを設置して鍋を乗せた。
事前に作っておいた特製汁を入れて、火を付ける。
「まずは座って――――鍋でもしましょう」
僕の言葉に、全員が啞然としながら座った。
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