第55話 我ら漆黒の翼

 二十七層攻略が始まってすぐに行ったのは進行速度の上昇だ。


 今までなら歩くスピードはわりとゆっくりめ。これは強襲されるのを心配したり、午後からも狩りを続行するので体力残しを考えたりとしていた。


 どのくらいペースアップできるか分からないけど、みんなの【漆黒のローブ】のレベルが30になっているので【身体能力+100】を信じてみる。


 僕の身体能力は150上昇しているので半分ほど本気で走り込む。


 姉さんはともかく、紗月も先輩もしっかり付いてくる。


 しかもそれだけでなく、先輩に限っては走りながら無詠唱で魔法を連打し、落ちた魔物の核はシリウスが器用に運んでくれる。


 紗月も魔物を見つけると、走る速度を一気に上昇させて斬ってから戻る。


 今までと進行速度が三倍は上昇した。


 午前中、二十七層を攻略し終えてすぐに二十八層に移動してそこも攻略し終え、午後から二十九層と三十層の攻略まで終えた。


 三十層までの経験値効率はいまだ楽に倒せるのもあって、一日約四百万も貯まる。


 シリウスの餌も大量に集まるので心配はない。


 それから三日経過し、木曜日には初めて――――四十一層にたどり着いた。




「四十一層だね……」


「すごいな……真っ赤な砂? 真っ赤な砂漠か」


 四十一層は非常に幻想的な風景が広がっている。


 上空には赤い月・・・が十個も飛んでいるおかげか、世界は昼間のように明るい。


「探索者になってまだ二月ふたつきも経ってないのに四十一層か……誠也くんって本当にすごいね……」


「いやいや、紗月もメンバーだよ?」


「そ、それもそうだけど……私一人では絶対に無理だったし、漆黒のローブのおかげもあるから」


「でもそれを使いこなせるかもあるし、誰でもできることじゃないさ。それに姉さんと先輩もいたからね」


「そうね。それにしてももうこんな場所まで来れたなんて……本当に驚き……」


 チラッと隣を見たら姉さんと先輩も少し放心状態だった。


 今週は行進速度を上げてみたけど、思っていたよりもずっと軽々進められた。


 みんなの漆黒のローブも全てレベルは最大70まで上げていて、身体能力だけでも200になり、よりすごい動きをしている。


 その時、少し離れた場所に誰かがダンジョンに入る魔法陣が現れて、四人の探索者が現れた。


「うわあああ!? な、なんだ!?」


 現れた人々は驚きながら僕達に剣を向けた。


「えっ……? 暗殺集団? 一度ダンジョンから引く?」


「いや、待て。もしかして、掲示板で噂になってた【漆黒の集団】じゃないか?」


 ん? 漆黒の集団?


「こんにちは」


「うわっ!? え、えっ!? 意外と若い男の声だな……?」


 ヘルメットを取ろうかなと思った時、姉さんが近づいて耳打ちをする。


「誠也。いまは正体を隠そう。あとこれから呼び名も変えよう」


「えっ……いまから?」


「うん。前々からこうなったときのために、紗月ちゃんと一緒に考えておいたの。私達は【漆黒の翼】。コードネームも決めてて、リーダーの名前は【ゼタ】。紗月ちゃんは【エクサ】。澪ちゃんは【テラ】。私は【クエタ】。いいね? 間違っても名前は使わない。それとちょっと芝居かかった言い方にしてほしいかな」


「わ、分かった……」


 小声で話し合ってる僕達に相変わらず武器を構えたままの探索者達。


 彼らの前に立った。


「わ、我は――――ゼタである!」


「え……? さっきはめちゃ普通の声だったのに……?」


 い、いや、そこは色々察してくださいよ……。


「我らは【漆黒の翼】。決して暗殺集団でもなければ、其方らと敵対するつもりもない」


「それをどう証明するんだ!」


「ふむ。それなら、もしやろうと思ったら――――」


 【身体能力+200】に任せて一気に距離を詰めて双剣を首元に付ける。


「――――既にやっている」


「!?」


「失礼。この通り、我らに剣を向けない人に剣を振るうつもりはない。ただし、其方らが悪人ならば今すぐ成敗するのもやぶさかではない」


「待て。俺達は普通の探索者だ。別に誰かと敵対したいわけじゃない」


「それならよかろう。では我々は先を進む。達者で」


「お、おう…………なんで急に変な口調になったんだ?」


 なんか聞こえた気がしたけど、知らんふりをして僕達は先を急いだ。




「うふふ」


「姉さん! もう笑わないでよ!」


「だって! 誠也ったら、我は漆黒の翼。ってものすごくイケボで言うんだもの~」


「姉さんがそうしろって言うからしたのに!」


 ものすごく茶化しにくる姉さんに顔が熱くなる。ダークフルメイルのおかげで見えないのが助かった……。


 四十一層の最初の魔物は、全身が赤黒い巨大サソリ魔物だった。


「頑丈だし、タフだし、速いし、強いから気を付けてね」


 それってとにかく強いってことだよね……?


 三十九層までの魔物には意外と苦労していない。もう一撃では倒せなくなったけど、連携すればあっという間に倒せる。


 でも赤いサソリはそうではなかった。


 先輩の氷魔法と姉さんの矢による攻撃でも一切怯むことなく突撃してくるサソリ。


 僕がターゲットを引いたまま右側に回り、紗月は逆方向から尻尾側を狙って斬りつけた――――その時、カーンと甲高い音が響いて、紗月の刀が弾かれた。


「硬い!?」


「紗月ちゃん! 尻尾は一番頑丈だから根元を狙うといいよ!」


「はいっ!」


 姉さん……名前じゃなくてコードネームで言おうって言ってなかったけ? それは戦いが終わってからでいいか。


 それにしてもサソリはやたらと硬い。この強さはフロアボスよりも強くない?


 シリウスの雷魔法がさく裂するとサソリの動きが鈍り始めた。


「雷魔法が効くのね! シリウスありがとう~! ――――チェインライトニング~!」


 シリウスと共に先輩の雷魔法がさく裂してサソリに大きなダメージを与え続けた。


 最初のサソリを倒すのに一分ほどの時間を要した。


 今までの通常魔物の中では一番時間がかかった。

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