第51話 紗月の顕現
シリウスのおかげで二十層の攻略も順調に進んで、最終ゾーンのデッドリーフロッグゾーンにたどり着いた。
通常魔物でも一メートルほどの巨大な蛙は、紫色の体に黒い斑点がある毒々しい蛙だ。
十六層からの湿地ステージの魔物全般に言えることなんだけど、どの魔物も遠距離攻撃を繰り出せる。霧に阻まれて攻撃をしてくるので、どこから攻撃されるか分からない点がある。
やはり、シリウス様様で、最終魔物のデッドリーフロッグでさえも、見えてしまえば対策はそう難しくはない。
「――――ライトニングスピア~!」
相変わらず先輩は絶好調で、遠くの魔物に魔法を放つ。最初は見えなくて魔法が使えないと泣きそうにしていたのに……シリウスのおかげで楽しそうにしてくれてよかった。
ちなみに、十六層からシリウスに餌をあげるのは先輩が買い出た。相当感謝しているようだ。
しばらく倒していると、霧の向こうでも分かるほど大きな影のシルエットが見えた。
「やっぱりキングデッドリーフロッグなんだな……」
「そうね。予想はしていたけど、随分と大きいね」
「最大五メートルくらいある?」
「そのくらいはありそう」
「ふふっ。えっと、お願いがあるんだけど、今回のキングデッドリーフロッグ戦は、私に任せてくれない?」
「えっ!? 一人で?」
「うん。私を優先してくれたおかげで【漆黒のローブ】のレベルが30になったでしょう? おかげで身体能力がかなり上がったし、ステータスもすごく上がったから。色々試したいものもあるの。ダメ……かな?」
紗月の可愛らしい上目遣いは破壊力抜群だ。
それにしても紗月の髪の色。今では黒色すら一切見えない。一本一本が水色になった。
一緒に聞いていた姉さんが話す。
「いいんじゃないかな? 紗月ちゃんも新しいスキルとか力とか色々試してみたいんでしょう?」
「はい! 夏鈴姉様もでしたか?」
「そうね。やりすぎて誰もついて来れなくなったけど、今でも後悔はしていないし、おかげで自分の能力に向き合うことができたから。あのままパーティー戦だけだと、一人で切り抜ける練習にはならなかったかも?」
「それは姉さんがやりすぎただけでしょう!?」
「そうともいう~てへっ」
「まあ、こちらの判断で危なくなったら加戦するからな? あと先輩と僕は周りの雑魚を何とかしておくよ」
肩を落としていた先輩の表情が明るくなった。
「うん。お願いします」
こうして、僕達の二十層のフロアボス戦は、今までとは違って、紗月一人で戦うことになった。
シリウスに少し無理をしてもらって、霧を晴らしてくれる魔法をより強くして広範囲にしてもらった。
これでキングデッドリーフロッグの周囲も全て見渡せる。
「誠也。ちょっといい?」
紗月が走り出したタイミングで、姉さんが声をかけてきた。
「どうしたの?」
「そもそもフロアボスって一人で倒せるような魔物じゃないの。一層からして何十人で戦うものよ。紗月ちゃんは十分強くなったけど、いずれ力尽きると思うからね」
「分かった。その時はすぐに助けに入ろう。先輩と僕で周りの魔物を倒すから、姉さんとシリウスは紗月を見守ってあげて」
「了解!」「ワン!」
すぐに僕と先輩はキングデッドリーフロッグの周りを一周しながら魔物を殲滅していく。
その間、キングデッドリーフロッグと一対一で戦う紗月の姿がちらっと見えた。
彼女の刀術は洗練されたものがあり、流れるような刀の運びは非常に美しく見る者を魅了するほどだ。さらに見た目だけでなく、彼女自身の強さも規格外の強さを誇る。
最初こそは僕が強化した刀の攻撃力に振り回されていたりもした。それくらい切れ味の良さは戦いの大きなアドバンテージになるから。
けれど、十六層に入ってから彼女の真価は発揮された。
相手の攻撃をすれすれに避けながら刀で斬りつける。言葉で言うだけなら簡単だ。でも実際の命がけの戦いでそれをやるのは、高い身体能力とそれを動かせる程の経験と練習が必要だ。
毎日ダンジョンに通ってもなお、彼女は毎晩素振りを欠かさないでいると言った。
それも相まって体の動かし方は、今のステータスに順応しており、今日【漆黒のローブ】のレベルを15から30まで引き上げたことで得た【俊敏+1350】と【身体能力100】をすぐに使いこなしている。
キングデッドリーフロッグは大きな舌を自由自在に操り、紗月に向かって叩き付ける。その速度は普通の人なら見てから避けるのは難しい速度のはずなのに、紗月はいとも簡単に
しかも、避けてから斬るのではなく、避けながら斬り、避け終わった時には攻撃が終わって、次のステップに移行している。
キングデッドリーフロッグがいくら魔法を展開したり、舌を鞭のように叩きまわしたり、巨体で踏み潰そうと跳び込んだり、前足で叩き付けようとも、全ての攻撃を
――――ただ、それだけでは勝てない。
その一番の理由は、キングデッドリーフロッグの耐久面だ。通常魔物と違ってフロアボスの体力は何百……何千倍にも及ぶ。一人でそれを削り切るのは中々できることじゃない。
しばらく攻撃を避けながらカウンターを合わせていた紗月は声を上げた。
「ふう……やっぱりこれだけじゃ勝てないよね。ふふっ…………でも体の動かし方はちゃんと分かった。なら――――ここからが本番よ!」
そう話した紗月の周りに、大粒の水滴が浮かび始めた。まるで先輩が使う水魔法のように。
「えっ!? 水魔法!?」
「いや、違う気がします。魔法から感じるのとはちょっと違う気が?」
「あれは…………
「顕現……?」
「ふふっ。見てて。もしかしたら、紗月ちゃん――――一人で倒しちゃうかも?」
紗月の周りに浮かんでいた大粒の水滴はどんどん形を持ち、水玉となる。
それらはキングデッドリーフロッグの攻撃を受けて散ってもまたすぐ集まった。
「――――【
次の瞬間、紗月の周りの水玉が全て刀の形に変わる。全てが紗月が手に持った刀と同じだ。
紗月の攻撃が始まる。
宙に浮かんだ刀達は意志があるようにそれぞれ展開して、キングデッドリーフロッグに突き刺さる。
さらに紗月も先程よりもずっと高い速度で動き回り、目にも止まらぬ速さで斬り刻む。
増えた刀は全部で十本。いまの紗月と同じ速度の斬撃を飛ばしている。さらに今までカウンターが主だった戦いから、攻撃優先に戦いつつも、キングデッドリーフロッグの攻撃から決して目を離さない紗月の攻撃が続いた。
戦い始めて五分が経過する頃、紗月は小さく口角を上げた。
それから三分後。巨大なキングデッドリーフロッグはその場から光の粒子となり、消えていった。
刀をその場に落とした紗月は、真っすぐ僕に向かって走ってくる。
「紗月、おめで――――」
彼女は真っすぐ僕の胸に飛び込んできた。
その目に大きな嬉し涙を浮かべて――――
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