第52話 レベル1の本懐
「泣いちゃってごめんなさい……」
「いやいや、役得したからむしろありがとう?」
「ぷふっ。誠也くんもそういうこと言うんだね?」
「何かの漫画で見たから真似てみたけど、あまり微妙だった?」
「ううん。すごくドキドキしたよ……?」
そう言いながらの上目遣いは本当に強烈だ。元々美少女なのに、髪色も鮮やかな水色に変わったおかげで、より美しさが際立つ。
「それとね。誠也くん――――ありがとう。君のおかげで私は一人では絶対にたどり着けない場所に来れたよ。ここに来られたのも、この力も全て誠也くんのおかげだよ」
「い、いや、それは紗月の頑張りがあったからだよ」
「頑張るだけなら誰でもできると思うの。だからありがとう。私をここまで連れてきてくれて」
「僕こそ……君がいてくれたから頑張れたよ。一人だと今でも下層で頑張っていて、こんなに速く来れなかったと思うから。これからもよろしくな」
「うん……!」
ニコッと笑う紗月。
「「ごほん」」
「「うわあっ!?」」
声がした方では姉さんと先輩がジト目で見つめていた。
「そろそろ出るわよ?」
「う、うん」「は、はい」
僕達は二十層を後にした。
「それにしても、またフロアボスのレアがドロップするなんて、誠也は本当にすごいね」
「前も言ってたね。最上位でもドロップはそんなに難しい?」
「うん。【運】というステータスを上昇させるのは非常に難しいの。自前で上がる人はまずいないというか、いるにはいるけど、代わりに戦闘力が低いから最上位探索者の中にはまずいない。幸運持ちを入れた戦闘三人体制ならあるけどね」
僕はというと、装備するだけで【運】が上昇するからな。しかもパーティーメンバー全員分でも上昇するので、既に三桁を突破している。
「夏鈴姉様? それも誠也くんの良いとこですけど、それが誠也くんですから!」
「そうね! やっぱりうちの誠也はすごいのよね!」
「はい! 誠也くんはすごいです!」
いやいや……本人を前にべた褒めはちょっと……恥ずかしい…………。
ふと、先輩がすこしムスっとしているのが見えた。
「先輩。そういえば、朗報があります」
「えっ!?」
表情と角度を百八十度変えて、駄々こねる少女のように僕に近づいて目を輝かせる。
「今夜来てほしいと言われてるので楽しみにしててください」
「今夜……?」
「まあまあ、楽しみってことで」
僕達はその足で家ではなく、レストランに寄って食事を取った。
食事のあとに向かった場所は――――赤い月だ。
「おじいちゃん~来たよ~」
「来たか。赤いの。玄関を閉めてくれ」
「は~い」
玄関を閉めて奥に入った。
そこで僕達を待っていたのは――――二本の武器だ。
一本は刀。もう一本は魔法の杖だ。
「頼まれていた刀と杖が完成したぞ」
「杖ぇええええ!?」
だだだっと走っていった先輩が目を輝かせて、テーブルの上に横たわる杖を眺める。
「二人の武器も新調した方がいいと思って、一番いいものを用意してもらったよ~」
杖は先輩の身長を考慮してか普通の杖より半分くらいのサイズ。棒の先には紫色の大きな宝石と、それを握るドラゴンの手のような装飾品が付けられている。
「杖は三十五層で採れる紫龍石の杖。刀は三十六層で採れる黒曜石の刀だ」
「わあ……嬉しい~!!」
杖を手にした先輩が嬉しそうに声を上げた。
刀は姉さんから紗月に渡された。
「大事にします……!」
「ふふっ。仲間なんだし、これからもダンジョン攻略、一緒に頑張ろうね?」
「「はいっ!」」
さて、めでたしめでたし――――なのだが、一つ気になることがあって質問を投げかける。
「おじいちゃん。鍛冶ってどんな感じでやるんですか?」
「なんだ。鍛冶に興味があるのか?」
「ちょっと気になることがありまして、少しでいいので見せてもらえませんか?」
「構わないぞ」
そう話したおじいちゃんは工房の後方にある椅子に座り込んだ。
その前には鍛冶といえば想像できる
いくつかの素材を金床の上に載せて、ハンマーを手にしたおじいちゃんは「鍛冶開始」と小さく呟くと、体から不思議なオーラを放ち始めた。
手に持っていたハンマーを振り下ろして、金床に載った素材を叩き始めた。
不思議と叩かれた衝撃で飛び散りそうな素材だが、一切飛び散ることなく、不思議な光で混じり合った。
素材がどんどん一つの光となり、姿形を変えていく。
何度も振り下ろされるハンマー。光はやがて剣の形に変わった。
「鍛冶って面白いね?」
紗月も興味津々に見つめて呟いた。
「でも結構疲れそう。あの鍛冶モードというか、オーラを放っている間ってずっと体力とか使いそうだな」
「うん。それにおじいちゃんのオーラってあまりにも強すぎる気がするね」
「僕も同じ意見だよ。だからこそいいものを作れるんだろうな」
しばらくハンマーを叩く金属の気持ち音が響き渡り、剣が完成した。
「ふぅ……こんな感じじゃ。満足したのか?」
「はい。一つ質問ですけど、鍛冶ってそのハンマーじゃないとできないんですか?」
「鍛冶というスキルを使用するにはハンマーと金床がセットで必要じゃよ」
「ん…………そのハンマー、見せてもらえませんか?」
「これをか?」
「はい。もしかしたら――――それを強くすれば、鍛冶を楽にするスキルが付かないかなって」
「「!?」」
おじいちゃんと姉さんが大きく驚いて、お互いに目を合わせた。
「ダメもとでもいい。よろしく頼む」
渡されたハンマーは長年使い込まれた年季の入ったハンマーだ。今までこのハンマーで多くの装備を作ってくれたおじいちゃんの努力が伝わってくる。
さっそく経験値を投入してみた
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【名匠の黒曜鍛冶ハンマーLv.1】
カテゴリー:武器
レアリティ:Aランク
攻撃力+1、鍛冶+2000、重さ軽減
鍛冶疲労軽減・小
Lv1:鍛冶+1000
Lv5:鍛冶疲労軽減・中
Lv10:腕力+300
Lv15:俊敏+300
Lv20:魔力+500
Lv25:鍛冶+1000
Lv30:同化
Lv35:ダブルヒット10%
Lv40:鍛冶+1000
Lv45:ダブルヒット10%
Lv50:鍛冶疲労軽減・大
Lv55:ダブルヒット10%
Lv60:極鍛冶、鍛冶+1000
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僕は小さく笑みを浮かべた。
「おじいちゃん。まだまだ鍛冶屋として頑張っていただかなくちゃいけなくなりました」
今ある全ての経験値を入れて、レベルを一気に30まで上昇させたハンマーを渡した。
「こ、これは……!? ここまで手に馴染むハンマー始めて……もはや体の一部のような……それにハンマーから伝わる強度が何倍にも増している!?」
「うちの弟すごいでしょう~! 新生鍛冶ハンマー試してみてよ~!」
「あ、ああ……そうじゃな」
おじいちゃんは手に持っていたハンマーを何度も振り下ろした。
そんなおじいちゃんの頬には一筋の涙が流れていた。
「わしはまだ鍛冶師として高みへいけるのだな……」
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