第47話 値段の桁がおかしくない?
おじいちゃんの店の裏は、店舗よりも数倍広い工房になっていた。
手に取らなくてもどの装備も素晴らしい出来なのが一目で分かる。
紗月達も目を光らせて工房を眺めている。
おじいちゃんは僕達を連れて、工房の奥に進んでいった。
「ほらよ。これから試してみな」
そう言いながら渡してくれたのは、黒い布製の大きなローブだ。
言われた通りにローブを着てみる。
素材の良さは折り紙付きで、シルクのような触り心地だ。というか、これってシルクかな?
このままでは装備の詳細が分からない。一度経験値を入れてレベルを0から1に上昇させる。
「えっと、残念ながら
「じゃあ、次!」
それからおじいちゃんが渡してくれるローブを全て装備してレベルを付与してみる。
今週経験値を貯めこんでいて本当に良かったと思う。
あれからいくつかの防具を試して、ようやく一種類見つけることができた。
「あった!」
僕の声と同時に、【同化】が発動してしまった。大きいローブが俺の全身を包み込む。
あれだけ大きかったのに、密着したローブは黒い装束に変身した。
「装備が姿を変えただと!?」
「えっへん! うちの誠也の力なの! すごいでしょう?」
「ああ……自分が作った防具が姿を変えるとは……まさか、ということは、ダークフルメイルも同じく姿を変えているのか?」
「そうだよ!」
姉さんは自慢げに答える。
まあ、姉さんが楽しそうにしているならそれでいいか。
「誠也くん? その防具はランクでいうと、どのランクなの?」
「それがまさかのSランクだったよ」
Sランクといえば、僕が使っているダークフルメイルがAランクなので、それよりも上のランクだ。僕が知っている範囲で、Sランクというと、エンシェントダガーと怪力の腕輪、隼の腕輪の三つだ。
その他にもうちにいくつかのSランクと思われる装備もあるけど、実際に確認できたのはこちらの三点。
そして現在装備している【漆黒のローブ】もSランク防具だ。
「装備にはランクというものがあるのか?」
「はい。強い装備はランクが高くて、その分強くなれる幅が広いんですが、代わりに強くするまでが非常に大変な感じですね。ダークフルメイルはAランクで、こちらの漆黒のローブはその上のSランクです」
「ふむ……鍛冶屋の効果は関係あるのか?」
「いえ、以前いただいた鉄のブレスレットは名匠でも一番低いFランクだったので」
納得したように、ふむふむと唸り、何かを考え込むおじいちゃん。
「名匠の漆黒のローブを三つくださいっ!」
「…………いくらセグレスでも冗談はよせ」
「冗談じゃないよ? 本気だよ?」
「馬鹿野郎! 漆黒のローブで名匠はまだ存在しない。というか、その素材を持ってきてくれと頼んでたのに、引退したのはお前じゃねぇか!」
怒るおじいちゃんに、姉さんが目を大きく見開いた。
Sランク装備ともなれば、やはり最上層なんだな。
「ひとまず、上級なら三つあるぞ」
「じゃあ、上級でいいよ~」
「はあ……これは譲れねぇぞ。相当高いけど、払えるのか?」
「えっと、いくら?」
「一つ十億円だ」
「なんだ、たったの三十億円ね。問題ないわ」
「問題あるよ!」
思わず突っ込んでしまった。
姉さんはポカーンとしている。
そもそも三十億円ってなに!? あまりにも天文学的な数字に驚いてしまった。
「誠也? どうしたの?」
「いやいや、三十億円ってそんなポンと出せるものじゃないでしょう!?」
「え? どうして?」
「いやいや……そもそも億だけでも……」
「ちなみに小僧のダークフルメイル。それは十五億円くらいするぞ」
「ええええ!? 今すぐ脱ぎます。今すぐお返しします!」
「ダメ~! それはもう誠也のものなの!」
「いやいや! そもそも僕が十五億円もする防具を着ているとは思いもしなかったよ!? てか十五億円って桁に僕の感覚がおかしくなりそうだよ!?」
「そう言っても、あのマンションの方が高いよ?」
「…………え”」
いや、あのマンションに住んでいる人々ってお金持ちっぽいな~とは思っていたけど、ダークフルメイルよりも高いの!?
「小僧。いまさらだ。【名匠】のランクが付与された装備はどれもそれなりの値打ちはする。ただ、その性能をより深く出せるのは、小僧の力あってのもんじゃろ。ダークフルメイルを譲ったのはセグレスがいたからではあるが、それでもしっかり使えているなら、売った甲斐があったというものだ」
「そうだよ? おじいちゃんって普通の人に【名匠】なんて売らないし、うちのクランでも売ってくれるのは私くらいなもんだから」
最強クランなのに売らないの!?
「それにね。最上位探索者ともなれば、一回の狩りで一億なんて簡単に稼いじゃうから。三十億円くらい安いもんだって」
「それは姉さんだけでしょう!?」
「それはそうだけど、それくらい稼いでいるから、おじいちゃんにはお世話になってるし、いつまでも漆黒のローブをこのまま倉庫に眠らせておいたら可哀想でしょう? おいてもお金にはならないんだから。それにね。ここで私が買うことで、おじいちゃんはより強い装備を作る材料を買えるから、装備を購入するのも私達の役目なの」
姉さんは笑って、会計を行った。
なんだか上手く説得された気がするけど、今でもとんでもない金額に手が震える。
そりゃ……姉さんが稼いでることくらい知っていたけど、あまりに大きな金額に、むしろこれから探索者を卒業した方が姉さんは幸せに暮らせるんじゃなかろうかと思い始めた。
「セグレス」
「あい?」
「ほらよ」
会計が終わるとお爺ちゃんが一本の弓を渡した。
「弓? どうしたの?」
「どうしたのって。このまま小僧と一緒にパーティーを組むんだろう?」
「そうだけど……?」
「小僧と組むってことは、どうせ変装するのに、まさか本職の武器を使うなんてバカなことはするなよ。誰でも
「そ、そっか! だから弓か……! でも私、弓は全然使えないよ?」
「だからいいじゃねぇか。お前さんが本気出したら小僧達はやることがない。ならお前さんがサポートに回ってやればいい。拙い弓でな」
姉さんは弓をじっと見つめて、笑顔で「ありがとう!」と答えた。
ただ、その日はみんなを送って家に戻るまでほとんど意識はなかった。
僕の手元に四十五億円相当の防具達があるなんて…………。
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