第46話 作戦会議

 姉さんの休止理由を聞いて、僕達は夕食にした。


 いつもと変わらない感じで夕飯を食べ終えて、姉さんから「作戦会議」をしようということで、パーティー初の作戦会議となった。


 パーティーは基本的に四人で組む。五人以上の場合、経験値度外視で攻略だけを重点的に行う場合もある。代表的なものはフロアボス戦だ。


 フロアボス戦は最上層だけでなく、三十層でも強力なフロアボスを自陣パーティーだけで倒すのは難しいので、みんなで協力して倒したりする。


「では、今日の議題は、これからの戦いについてだよ~」


 姉さんの言葉にみんなで拍手をする。


「紗月ちゃん曰く、誠也の鎧には【挑発】が付与されているんだって?」


「うん。今も【挑発】のスキルは展開されていて、周りに魔物がいたら、寄ってくるよ」


「【挑発】をずっと使えるなんて……誠也の力は本当にすごいわね。それはいいとして、となると、ターゲットは常に誠也に向くってことね? となると、普段は迎撃ばかりすることになるのか……澪ちゃんは魔法の才能だから後衛からの援護ね。紗月ちゃんとシリウスが誠也の守りね?」


 肯定の意味を込めて頷いた。


「となると……少し役割が被ってしまうね。私もどこらかというと近接の火力型だから」


 探索者で最も華やかな才能は、何と言っても火力型だ。


 先輩も魔法使いとして攻撃魔法のスペシャリストだから一番の理想に近い。


 紗月も美しいとさえ思わせる刀術は、まだ発展途上ながらとても強い。先輩と比べてしまうと火力という意味ではまだ劣っているけれど、それはレベルの差だったり、活躍の場面次第だ。


 いずれ紗月も国を代表する剣士になるはずだ。


 僕はというと、近接タンク型と呼ばれるものだ。


「はいっ。夏鈴姉様!」


 紗月が手を上げる。


「実際、私の感覚ですけど、誠也くんはタンク型というより、タンクをする火力型だと思います」


「「タンクをする火力型?」」


「あ~それは私も思うかな~少年はタンクというのとはちょっと違うね。ターゲットを集められるのはその通りなんだけど、敵を受ける・・・訳ではなく、なぎ倒しているから」


「澪先輩が言っているように、誠也くんも火力型と考えて大丈夫だと思います」


「…………私、日本の最上位探索者にほとんど会ったことがあるけど、聞いた事ないわよ。タンクしながら火力型」


「あはは……」


 レベル上昇で手に入るスキルは、ランダムではなく、その人にあったものが与えられる。通称【ロール】と呼ばれているものだ。


 剣士なら剣士系統の、魔法使いなら魔法使いのスキルを得る。


 タンクという敵を集めて攻撃を受け止めるロールは、それ相応のスキルを手に入れる。


 ターゲットを集める【挑発】スキルと、火力用のスキルが混在する人はいないってことだ。


「まあ、僕というより鎧がそうだから……」


 三人が同時に僕を見つめ、何もなかったかのように会議を続ける。


「じゃあ、しばらくは各々で自由に戦っていいかもね」


「その方がいいと思います。誠也くんも普段はあまり動かないけど、各々で動けるとなると、自由に動けるはずなので」


「じゃあ、シリウス。これからは澪ちゃんを守ってくれる?」


「ワフッ!」


「シリウスもとても強いから、澪ちゃんにもし何かあった時には守ってくれるなら心強いわ」


「姉さん。僕からも一ついい?」


「うん?」


「実は僕達、十層の攻略が終わって、明日から十一層に行きたいんだけど」


「えっ……? もう十一層……? 三人で?」


 姉さんが目を大きく見開いて驚く。


「そう……だよ?」


「…………うん。それで?」


「彼女達の防具が心許ないから、余った防具を貸してもらえない? さすがに二人の制服を着る勇気はないんだよ」


「!? そ、そうか……誠也に防具を強くしてもらうには、着てもらう必要があったんだね!?」


「そ、そうなんだよ……姉さん? 目が怖いよ?」


「…………ふふふふっ。うん。防具なら私が何とかするよ。むしろ、今から行こう」


「「「今から?」」」


「こういう時は、おじいちゃんに丸投げした方が便利だからね。そういや、防具に【同化】というスキルが付けば、体にフィットするんだっけ?」


 それも紗月を通して知っていてくれたみたいだ。説明しなくてもいいのは助かるね


「うん」


「じゃあ、【同化】の防具探しだね。よし……今すぐ行こう!」


 その足で、装備店【赤い月】に行くことになった。



 ◆



「赤いの。引退したらしいな」


 お店に入ってすぐにおじいちゃんが聞いてきた。


 もしかしなくても、いま日本で最も有名なニュースになってそうだ。


「ふっふっ。【アムルタート】は休止ね。でもこれから弟と一緒に潜るよ」


「ふむ。それで? 今日は何の用だ?」


「私達の防具探し!」


 それから姉さんはおじいちゃんに何かを耳打ちした。


 大きな溜息を吐いたおじいちゃんは、店の鍵を閉めて、問答無用に僕達を連れて店の裏に入った。

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