第44話 突然のニュース

 休日が終わり、姉さんもまたダンジョン攻略のために向かって、俺は久しぶりに学校にきた。


 毎週月曜日は学校で出席チェックをしなくちゃいけないからな。


 学校に行く前に先輩と合流して二人で一緒に向かう。


 先輩も昨日の休日でだいぶリフレッシュしたようで、鼻息を出しながら今日の狩りを楽しみにしていた。


 そういや、防具の件は何も考えていなかったな…………。紗月の腕輪も鉄のブレスレットのままだし、新調したいな。


 学校の校門には紗月が待っていてくれて、嬉しそうな笑みを浮かべて手を振ってくれた。


 それにしても…………紗月の髪色が半分以上水色に変わっているな。


「おはよう~」


「おはよう。紗月。髪色随分と変わったな」


「うん。半覚醒したのかな……?」


「ふふふっ。覚醒する時って不安だよね」


 先輩も紫色の髪だし、覚醒組なんだな。


 通称【覚醒組】。覚醒を果たした探索者を羨ましがって付けた名称。


 覚醒というのは、開花した人の中で、とりわけ何かしらの力に特化した人に見られるもので、分かりやすく髪の色が変わっていく。


 日本で最も有名な人はセグレス。僕の姉さんだ。


「先輩も覚醒組ですよね」


「うん! 紫に変わっちゃった~でもおかげで魔法がたくさん使えるようになったからいいんだけどねっ!」


 力を象徴する色になるって話もあるけど、力はわりと色々で、先輩は魔法系統の才能が強くでたんだろうな。


 紗月の水色髪はどういう意味があるんだろうか……?


 黒髪と水色の髪が混ざっているけど、全体的に水色を帯びているので、とても綺麗だ。


 三人で出席チェックをして学校を後にする。


 チラッと見えた先輩の元メンバー達が隠れるようにしていたのに少し苦笑いが零れた。


「二人の防具の件だけど、やっぱりそろそろ考えたいかな」


「遠距離攻撃が気になるの?」


「ああ。今までは単純な魔物ばかりだったけど、十層でも遠くからの攻撃が多い。上層からはさらに厄介な攻撃が増えるらしいから、対策をしておきたい」


「そっか…………じゃあ……私の制服……着ないといけないね」


「無理だよ!? 着ないよ!?」


「嫌……なの?」


「嫌だよ! 女性物だし、紗月の物だし!」


「そっか……私の物じゃ着たくないよね……」


「そういう意味じゃなくて!? さ、紗月の制服を着るなんて……とんでもないというか、僕なんかが着ていいものじゃないし……」


 紗月がいたずらっぽく笑って、可愛らしく舌を出した。


「ふふっ。じゃあ、制服じゃなくて別な防具にしないといけないかな?」


「先輩の分も考えるとそれがいいかな。お金を貯めたいけど……核はシリウスが食べるからな……」


「クゥン……」


 シリウスがしょぼんとした表情を見せた。


「ごめんごめん。シリウスのせいだと言いたい訳じゃないんだ。防具が出るフロアボスがいるなら狙ってもいいけど、十層までは武器と盾ばかりだよね」


「そうね。やっぱりここは制服を着てもらうしか……」


「無理だよ!? 明後日姉さんが帰ってきたら相談してみよう。家にある防具で使えるもの貸してもらうのもいいかも」


「そうね。最上級ドロップ装備がずらりだったもんね」


 姉さんが拾ってきたものがたくさんあるからな。


「…………ねえ~そろそろ行こうよ~少年~」


 ダンジョン入口の泉の上で駄々こねるようにぴょんぴょん跳ぶ先輩。


 何だか子ウサギみたいだな。


「ひとまず、明後日まではずっと十層で戦いますよ~」


「どこでもいい~! 早く~!」


「はいはい~紗月。行こう」


「うん!」


 その日も朝から十層に向かい経験値を貯めては、昼食を食べてまた経験値貯め。


 それを水曜日の夕方まで繰り返して経験値七十万が貯まった。



 ◆



「ただいま~姉さん」


「みんなおかえりなさい~」


 三日ぶりの姉さんは嬉しそうにソファーから手を振ってくれる。


 真っ先にシリウスが走って行き、姉さんとじゃれ始める。


 可愛い子犬(狼だけど)を愛でる姉さんがものすごく可愛い。


 防具の相談は食後にすることにして、夕飯の準備をしながらテレビを付けていた。


 シリウスに夢中になっている姉さんと先輩も一緒になっていた。




「では本日のニュースです。最強クラン【アムルタート】のエース――――」




 付けていたテレビで、聞き慣れた名前が聞こえてきた。


「あっ!?」


 大げさに起き上がって瞬時にリモコンを探して手を伸ばす姉さん。


 その姿に違和感を感じて料理の手を止めてニュースに注目した。




「――――セグレスさんが無期限活動休止を発表なさいました」




「…………は!?」


「「ええええ!?」」


 ニュースから流れ聞こえた言葉に、自分の耳を疑う。


 クラン名も知っているし、エースと呼ばれている人の名前は当然――――姉さんだ。


「姉さん……?」


「あ、あはは……ど、ど、どうしたのかな~? 私の可愛い弟よ~」


 姉さんは急いで手に取ったリモコンでテレビを消して、目を泳がせていた。

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