第43話 のんびり休日
ダンジョン十層の攻略を終えて、夕飯準備のために家に帰る。
明日は日曜日なので、今日で今週の狩りは最後だが、先輩の目は相変わらずギラギラしていた。
「先輩。明日は休みますからね」
「…………」
返事が返ってこない。
「先輩」
「やだ」
「ダメです」
「やだあああああ!」
「そんなにわがまま言ったら――――強くした杖を弱くしますからね?」
先輩は絶望したような表情で杖を抱きしめて、頭を横に振った。
「いや、ちゃんと言うことを聞いたら消しませんから。分かりましたか?」
「う、うん…………」
絶対一人で狩りに向かうつもりだったんだろうな。
ひとまず釘を刺しておけば大丈夫だろう。
家に戻ると姉さんも帰ってきていた。
今日は久しぶりに四人で食卓を囲んで食事をする。
俺と姉さん、向かいに紗月と先輩だ。
紗月も先輩も姉さんのことは、ものすごく尊敬しているからか、話題は尽きない。
その時、姉さんから僕達の狩りの話が聞きたいということで、先輩が楽しそうに話してくれた。
「――――少年に強くしてもらった杖がすごくて~! ババババン~って!」
「うふふ。誠也は本当にすごいわね~」
「そうなんです! 戦う時も黒い鎧になると、すごくカッコいいですから!」
先輩にカッコいいと言われたが、これはおそらく
姉さんが僕を見つめた。
「ふふっ。誠也? 探索は楽しい?」
「そうだね。最初一人の時は心細かったけど、紗月と先輩と組めるようになって、毎日が楽しいよ。このまま頑張れるところまで頑張りたいかな」
「そっか。それはよかった」
満面の笑顔。
でもその笑顔の裏側には少しだけ寂しそうな感情が読み取れる。
その日も食事を終えて、みんなを送ってから夜空の中、姉さんと帰路についた。
帰り道の姉さんの横顔は何かを悩んでいる表情だったけど、気づかないふりをした。
本当は詳しく聞いた方がいいだろうけど、僕が姉さんを惑わせてしまっては、姉さんの覚悟を揺らしてしまいそうな気がしたから。
翌日。
今日は久しぶりに姉さんが休みということで、みんなで一緒に遊ぶことになった。
紗月と先輩もダンジョンには入らないから、暇だということで、四人で遊ぶことに。
やってきた場所は――――広い公園のバーベキュー場である。
うちのマンションの屋上にはバーベキュー場があるので、家にあるバーベキューセットを持ってきた。
ダンジョン産素材で作られたものはどれも頑丈で性能も高い。姉さんが買っておいたバーベキューセットも最上級のバーベキューセットで、簡単に火を付ける装置が付いていたり、火を維持させたり、煙を吸収したりと、ありとあらゆる高い性能が備わっている。
事前に予約しておいたので、有料のスペースを確保して、まだ時間があるので、みんなで公園を散歩する。
先輩はもっと駄々こねると思ってたけど、意外にもバーベキューは楽しみだという。諦めも肝心というし、先輩も大人になったんだな…………。
公園を歩いていると、僕の足元にボールが当たった。どうやら子供達がボール遊びをしているようだ。
ボールを拾って、軽めに投げてあげる。
綺麗な放物線を描いて飛んでいくボールを眺める。
高校生になる前は、わりと強めに投げないといけなかったけど、今では軽めでも遠くまで飛ばせる。
高校生から受けることができる【開花】。神が与えた力なので、人為的にその前に与えることはできないが、開花してからは人離れした感覚になれる。
僕はレベルは上がらないけど、装備のおかげでレベルが上がった人と同等の体験ができて本当によかった。
そういや、紗月と先輩の
「誠也くん? 顔が赤いよ?」
「ぬわっ!? な、何でもない!」
「ふふっ。誠也くんでもそういうこと想像するんだね?」
「そういうことって!? ち、ちがうよ? ただ、二人の防具を強化するのができないな~と思っただけ」
「「防具?」」
先輩もダンジョンに関することで興味があるようだ。
それにしても、休息日ですらダンジョンのことを考えているんだから、自分が如何にダンジョンに魅入られているか分かる。――――先輩のことをどうこう言えないな。
「武器なら僕が装着して強くしてってできるけど、防具はできないからさ」
「…………そっか。制服を着ないといけないのか」
「あ、ああ……」
先輩が僕の前に立って両手を伸ばして僕の肩に手を上げた。
「少年!」
「は、はい……?」
嫌な予感がする……。
「――――私の制服を着ていいわよ!」
「いやです! 僕が嫌です!」
「え~でも強くなれるんなら……靴も?」
「そもそもサイズが合いませんから装着できません!」
実は防具には【サイズ】という概念もあるので、着れない防具は装着できないのだ。
それに、何より――――女性ものを着るのはどうかと思う。
防具はひとまず置いとくとしよう。
何とか先輩を落ち着かせて、散歩を終わらせてバーベキュー場に戻り、みんなでバーベキューを始めた。
肉やら野菜やら色々焼いていく。
みんなに焼いた肉を渡していると、後ろから口笛の音が聞こえて、体格の良い男三人がやってきた。
「可愛いお姉ちゃんが多いじゃねぇか~俺達も混ぜてくれよ~」
ここ……一応有料席だからそれなりに警備もいる気がするんだけど……? まさかこういう連中が現れるとは思いもしなかった。
一瞬、姉さんが動こうとしたけど、彼らの前を塞いだ。
「それ以上近づいたら反撃させてもらいますよ?」
「ほぉ……? 俺達
迷うことなく殴りかかってきた男の拳を受け流しながら、後方に誰もいない場所まで投げ飛ばす。
ステータス上昇と身体能力上昇で簡単に投げ飛ばせるし、さらに【武神】を持っているから相手の動きが手に取るように見える。
「こいつ!」
二人目の男の腹部を軽めに蹴ると、十数メートルほど後ろに吹き飛んだ。
三人目の男は僕達と仲間を何度も眺めながら冷や汗を流す。
「彼らを連れて消えてもらえますか?」
「は、はいっ!」
逃げ足だけは速いな。
「誠也!? ケガはない?」
一連の出来事は見ていたはずなのに、姉さんは僕を心配してくれる。
「うん。大丈夫。まさかこんなところにチンピラが現れるとは思わなかったな」
安堵の息を吐いた姉さん。やはり、姉さんにとって僕はまだまだ守られる存在だからか、心配になるようだ。
それから警備の人が来て、何度も謝ってくれた。どうやら別の場所でトラブルが起きていたらしい。
こちらも被害はまったくないので、何も言わないことにした。
邪魔が入ってしまったけど、僕達はバーベキューを楽しんで、休日をのんびりと過ごした。
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