第41話 何事にも準備は大事

 火曜日に六層に初めて入って、水曜日には七層に、木曜日には八層、金曜日には九層まで突き進んだ。


 そして土曜日。


 僕達は十層にやってきた。


「誠也くん。どう?」


「まだよく分からないけど、体の感覚は変わってるよ」


「ふふっ。じゃあ、先輩と私は見ているね」


「わ、私も戦いたいのだよ~!」


「先輩と私は見守るんです!」


「で、でも……」


「心配しなくてもこれからたくさん戦えますから、まずは誠也くんを応援してあげましょう」


「うぅ……」


 駄々こねる先輩に苦笑いしながら、新しく手に入れた力を試す。


 【名匠のダークフルメイル】。そのレベル――――60。最大レベルである。


 レベル25から一気に60まで上げた事で発動するスキルは【武術】【体力自動回復】【超再生】【ダメージ反射40】【魔法反射40】【身体能力+100】【防御力+2000】そして、【武神ぶしん】というスキルである。


 これは【武術】の完全上位のもので【武術】が消えて【武神】となった。


 十層の最初の魔物はムキムキのオークだった。ここまで出会ったオークとは一線を画す強さを感じる。


 双剣は使わず、拳で殴る・・・・


 相手の攻撃が一瞬で理解できて、それをすれすれで避けて攻撃を叩き込む。


 たった一撃。大げさな音が響くと、その場でオークが消えた。


「さすが【武神】。最上級スキルらしいね」


 紗月が言う通り、【武神】というスキルは非常に有名なスキルの一つだ。例えば【剣神】というスキルがあれば、剣を用いた戦いで絶大な効果をもたらす。【武神】は武術の際に絶大な効果をもたらしてくれるスキルだ。


 さらに体の使い方や相手の動きを読む力など、色んな効果を体験できた。


「これなら僕も戦えそうだよ」


「ふふっ。元々強かったのに、もっと強くなっちゃったね」


「それもこれも紗月と先輩のおかげだよ。ありがとう」


「ふふっ。私も負けないように頑張るね!」


「た、戦いたいのだよ~!」


 ダンジョンに入ると子供みたいになる先輩に苦笑いしながら、狩りを始めた。


 基本的に挑発でターゲットは僕に集まり、遠い敵は先輩の魔法で倒しつつ、近づいてきた魔物は僕と紗月、シリウスで倒していった。


 十層最奥に進むと、シーサーペントゾーンがあった。


 二メートルくらいの海蛇は常に体を立たせており、遠くから水魔法でこちらを攻撃する。


 水魔法に当たると、魔法が自動的に反射してシーサーペントに跳ね返る。これが【魔法反射40】の効果で、全ての魔法攻撃を四割の火力で反射する。


 残り六割はダメージとして受けているが、それは魔法耐性によって軽減され、シーサーペントの魔法だとノーダメージだった。


 僕を中心にみんなでシーサーペントを倒し続けていると、巨大なシーサーペントが現れた。


「キングシーサーペント! フロアボスだよ!」


 巨体から放たれる強者としてのオーラ。殺気めいた鋭い目つきで近くの獲物を探していた。


「誠也くん? とても戦いたそうね?」


「えっ……?」


「前、キングスケルトンと戦いたそうにしてた時と同じ顔になってるよ。ふふっ。誠也くんって普段は温厚なのに強敵には目がないよね~」


「そ、そんなつもりはなかったけど……はは……」


 実は五層で戦ったキングワーウルフのことが忘れられない。


 強敵というより、自分がダンジョンで一歩でも進む実感。姉さんに一歩でも近づく感覚。それが忘れられない。


「少年! 戦おうではないかっ~!」


「私としては、今すぐ戦うよりも、もう少し強くしてからの方がいいんじゃないかな? 先輩の分も~」


 紗月の言う通り、冷静に考えると急いで挑戦する必要はない。


「そういえば、先輩の武器ってどんなものを使ってますか?」


「私の? これだよ~?」


「少し借りても?」


「え、えっと……」


「先輩。ちゃんと戦う時は返してあげますから」


「分かった!」


 杖を預けるのが嫌なんじゃなくて、戦えなくなるのが嫌という先輩らしい嫌がり方だな。


 経験値1を入れてランクを調べてみる。


 Cランク武器だったので、レベル最大40まで上げるのに経験値十二万が必要だ。これなら今日一日で集められる。


「これなら一日で集められそうです。キングシーサーペントは午後からにしましょう」


「え"」


「さあ~昼飯に行きますよ~」


「い、いやぁああああああ!」


 先輩を強制的に連れてダンジョンを後にした。

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