第39話 ダークウルフ命名

「セグレス様!?」


「また女の子……!?」


 家の玄関で僕を迎えてくれた姉さんと澪先輩が鉢合わせになった。


 それにしても赤髪の姉さんと紫髪の先輩の組み合わせは中々面白い。


 そういや日が追うごとに紗月も髪色が水色に変わっていくのが分かる。


「こちらは僕の姉さんの夏鈴です。姉さん、こちらは新しいパーティーメンバーの澪先輩だよ」


 あたふたする二人を宥めてリビングに集まった。


「姉さん。新しい家族のダークウルフだよ。名前を付けてあげないとね」


「かっ……可愛いっ~!」


「ワンワン!」


 ダークウルフも姉さんのことが気に入ったらしくて、甘え始めた。


 姉さんが動物を愛でるところは初めてみたので、役得な気がする。


「ではこれからダークウルフの名前付け会議を始めます!」


「「「は~い!」」」


「では一人ずつ発表してもらいます! まずは紗月!」


「私はくろちゃんがいいな!」


 なるほど……色できたか。


「次は先輩!」


「可愛いからマルくん!」


 丸……くはないけど、可愛いは分かるっ!


「次は姉さん!」


「誠也二――――」


「却下。次の案がある人は挙手してください!」


「――――え~いい名前だと思ったのに……」


 よくないよ! なんで僕の名前を使おうとするんだよ!?


「誠也くんは何かないの?」


 じっとダークウルフを見つめる。つぶらな瞳がとても可愛いのだが、ダークウルフと一緒に戦った時、勇ましさには驚いたものだ。従魔というのはカテゴリー的に魔物に属しているだけあって、非常に強かった。


「とても勇ましい子だからな――――シリウスかな!」


「シリウス…………うん。良い名前だね」


 それから色んな名前が出されたが、ダークウルフが一番反応を見せた名前にすることに決めた。


「今日から君の名前は――――シリウスだ。よろしくな。シリウス」


「ワンワン!」


 新しい家族となったシリウスをお祝いして、夕飯は豪勢に作った楽しい時間を過ごした。


 先輩と紗月を送った帰り道。


 おもむろに姉さんが話した。


「実はね。ダークウルフの卵はずっと探していたの」


「ん? 姉さん、犬が飼いたかったのか?」


 闇魔法で僕の体に付着したシリウスは、肩に乗っていて、そこから一緒に姉さんを見つめる。


「私って毎日ダンジョンに潜って居るでしょう……? いつも誠也を一人ぼっちにさせてしまうから、寂しくないようにってずっと探していたんだけど、中々見つからなくて……オークションにも出回らないくらいレアなの。海外でもたくさん求められるから」


「そうだったんだ……」


「ダークウルフを求めてわざわざ日本に来る人までいるけど、五層フロアボスは大人気だから、中々戦えないのよね。そう思うときっとシリウスは買われるより、誠也に直接迎えてほしかったのかもしれないね」


「そうか。僕としてもシリウスを売りたいなんて思わなかったからな。正直にいうと、寂しくなかった――――は嘘になるけど、でも僕はいつか姉さんと一緒に探索できる日を夢見てたから、そんなに寂しくはなかったよ」


「誠也……」


「いまは仲間達もいるからね。だから大丈夫だよ? 姉さん」


 姉さんは何も言わず、ただ笑顔を見せた。ちょっとだけ――――寂しそうな笑みを。


 家に帰ってきて、姉さんに先に風呂に入れと言われてシリウスと一緒に風呂に入った。


 外が少しガチャガチャと音が聞こえるなと思ったら、急に風呂場の扉が開いた。


「ぬわっ!? ね、姉さん!?」


 そこにはタオル一枚で前を隠した裸の姉さんがいた。


「誠也~一緒に風呂に入ろう~」


「な、何を考えているんだ!? 姉さん!」


「え~中学のときは一緒に入ってくれたじゃない。久しぶりにいいでしょう? 姉弟なんだから!」


「…………はあ」


 さすがに裸のまま追い出すこともできず、姉さんと一緒に風呂に入る羽目となった。


 さっき、帰り道で寂しいと言ってしまったからだろうな。それに姉さんだって同じ思いだったのかもしれない。


 僕達姉弟が生き延びるために姉さんは毎日探索者の仕事を頑張ってくれた。そのおかげで僕は人よりは楽な生活を送っているけど、それよりも姉さんと毎日一緒に過ごしたいと思う事も多い。


 でもそれを僕から言ってしまっては、姉さんの頑張りを無下にしてしまうから、一度も口にしていない。だから僕は追いつきたいんだ。


「背中流してあげる」


 久しぶりに姉さんに背中を洗われる。大事そうに洗ってくれる姉さんが鏡越しに見えた。少しだけ嬉しそうな笑みを浮かべているのが分かる。


 お互いに背中を流して一緒に湯舟に入る。


 …………本当に目の毒というか、なんというか。


 それにしても…………やっぱり姉さんの体には目立たない傷が結構多い。


 探索者をしていると細かい傷を負うという。最上級探索者ともなれば、傷を負う確率も多くなるんだろう。


「ん? どうしたの?」


「ううん。何でもない。うちの姉さん可愛いなと思って」


「な、な、なっ! 誠也が……私を可愛いって言うなんて!」


「うわあ!? ま、待て! せめて服を着てから抱き着け! 目に毒だし、肌にも毒だから!」


「ふふっ。そこまではしませんよ~」


 いや、こいつ、ぜったい抱きつこうとした。


 はあ……何とか止められてよかった。


「ねえ? 誠也」


「ん?」


「…………なんでもない。呼んでみただけ」


「そっか――――姉さん」


「ん?」


「…………無理はしなくていいからね」


「うん……ありがとう」


「こちらこそだよ。のぼせる前に出るよ」


「うん。私はもう少し入ってるわね」


「ああ」


 姉さんを置いてシリウスと二人で外に出た。


 その日、やっぱり姉さんも部屋に来て、シリウスとみんなで一緒に寝ることになった。

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