第38話 三人と一匹のパーティー初日

 紗月と先輩と一緒に出席チェックを終えたので、近くの公園にやってきた。


 ベンチに二人で座ってもらった。


「紹介するよ。こちらが僕のパーティーメンバーの紗月。こちらが昨日臨時パーティーを組んだ先輩」


「初めまして。水無瀬紗月といいます。よろしくお願いします」


「わ、私は二年生の芹沢せりざわみおです……よろしく…………」


 チラッチラッと紗月の顔色を伺う先輩。


 先輩の名前、みおっていうんだな。昨日聞かなかったから知らなかった。


「僕は木村誠也。昨日はなんやかんやで名乗りませんでしたね」


「そうだったね。少年」


「…………」


 ジト目の紗月。昨日の臨時パーティーのことを早く伝えておくべきだった。


「実は昨日ダンジョンに入ろうかなと思ってきたら、先輩と出会って、臨時パーティーを組んだんだ」


「日曜日は私が時間を作れなかったから仕方ないけど、朝一で教えてほしかったな……」


「ご、ごめん。実はその件で色々あって、それもまとめて報告したくて」


「「色々?」」


「実はパーティーメンバーがもう一人増えたから紹介するよ。一人というか――――一匹だけど」


 俺の影の中から黒い風と共にダークウルフが現れた。


「「可愛い~!」」


「名前は今日の夕方姉さんと一緒に決める予定だからまだないけど、昨日から新しい家族になったダークウルフなんだ。昨日先輩と一緒に倒したフロアボスからドロップしてさ」


「ワフン」


 ダークウルフが紗月の膝の上に跳ぶと、すぐに抱きしめてあげた。


「か、可愛い……」


「少年。売らずに飼うことにしたんだね?」


「そうです。先輩にはそれも報告したくて」


「ふふっ。私も飼う方に賛成だ。それにしても可愛いわね~」


 紗月に抱きしめられたダークウルフに手を伸ばして撫でてあげる先輩。


 ダークウルフも美女二人から触れられて気持ちよさそうだ。


「そういうこともあってさ。先輩ともパーティーを組みたいんだけど、いいかな? 紗月」


「ん? 私はもちろん歓迎だよ。誠也くんを利用・・したりしなさそうだし」


 そう話すと、澪先輩が引き攣った表情を浮かべた。


「そういえば、先輩。前のパーティーはどうしてあんな感じになったんですか?」


「あ、あはは…………あれは全部私のせいなんだよ。魔法が使えるようになってから、魔法で魔物を倒したくて、いつもその衝動に駆られてしまってね。一年生の時からパーティーを盾にして魔法を連発していたのだよ…………」


「あ……昨日みたいに?」


 はっとなった先輩は小さく頭を縦に振る。怒られている幼女みたいで少し微笑ましい。


「き、昨日は久しぶりに興奮して……た、楽しかった…………」


 それはもうすごく楽しそうだったしな。


「そ、それで、私とパーティーを組んでしまうと、また昨日みたいになっちゃって……その……少年をまた利用してしまうかも……しれない…………」


 そして、ちらっと紗月を見つめる。


「あ~そういう利用ならいいと思います。誠也くんは優しいし。私だってそういうところありますし。ねえ? 誠也くん」


「ん~利用するというか、パーティーメンバーなんだからお互いに背中を預けられるというか、僕は気にしないし、紗月のことも、先輩のことも信頼してるから」


「先輩。これからよろしくお願いします~」


「う、うん! 二人ともよろしくなのだ!」


 笑顔を浮かべた先輩はとても嬉しそうに笑ってくれた。


 ◆


「うひひひ~! しょ、少年! も、もっといくぞ!」


 後ろから急かす声が聞こえる。


 毎回紗月が苦笑いをこぼしていた。


「紗月? 大丈夫?」


「大丈夫だよ~だって私達だけの時とそう変わらないからね」


 紗月と二人っきりの時だって、わりと半日はずっとダンジョンで狩りを続けていたからな。


 急かす先輩のテンポは正直、まったく疲れないというか、僕にはちょうどいいくらいだ。


「先輩~疲れたらすぐ言うんですよ~」


「分かった~!」


 それから五層の魔物を殲滅しながら紗月のレベル上げを重点的に、僕は大量の経験値が貯まるようになってきた。


 ベビーワーウルフゾーンに着いても先輩の勢いは止まらず、休むことなく昼休憩まで狩りは続いた。


 俺に向かってくるベビーワーウルフを先輩の魔法で殲滅しながら、近づいてきた魔物は紗月とダークウルフが倒してくれる。メンバーが強くて俺はただ挑発要員にしかならず、双剣を一度も使う事はなかった。


「先輩~昼休みするので出ますよ~」


「え~も、もうちょっと戦う! 少年! さっちゃん!」


「「…………」」


「ほら! 私はまだまだ元気だぞ!」


 と、共にぐ~って勢いよく腹の音が鳴り響く。


「はいはい。戦いたいのは分かりましたから、ご飯との戦いに向かいますよ」


 僕は先輩の首根っこを掴んで、ダンジョンから離脱ボタンを押した。


 パーティーを組んでいれば、入る時も出る時も強制させることができるからね。


「ま、まだ魔法が~! 魔物がぁぁぁぁ!」


 外に出るとその場でひれ伏す先輩。


 何か助けて(?)おいてあれだが、周りが先輩と組みたがらない理由がよくよ~く分かってきた。強制させなかったら昼休憩も取れなさそう。


「澪先輩~ご飯食べないとダンジョンには連れていきませんからね~」


「はっ! ご、ご飯食べます! ご飯食べたらまたダンジョンに連れていってくれるんだね? 少年!」


「もちろんです」


「ひゃっほ~!」


 子供みたいにはしゃいでいる先輩を連れて、近くのハンバーガー屋で食事を取る。


「さすがに速く行きたいから爆速で食べたりはしないんですね」


「昔、速く食べようとして喉に引っ掛かってダンジョンに入れなかった日があったから、ご飯はゆっくり食べるのだ~」


 あ……やっぱ、やったんだ…………。


 ゆっくり食事を取って、午後からも五層で狩りを続けた。


 人数が増えたおかげで、紗月が得られる経験値は減ってしまったが、その分、狩る数が数倍に増えているので問題はなさそう。


 僕も得られる経験値が非常に多くて、半日で四万という経験値を獲得できる。昨日今日でそれを四セット繰り返したので、現在経験値は十六万というとんでもない量を貯められた。


 そして、その日の夕方。


 夜は帰る時間だからなのか、素直に言うことを聞いてダンジョンの外に出た。


 一緒に戦ってくれるダークウルフの名前を決める会議に参加したいと、先に先輩の家を寄ってからうちに向かった。

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