第37話 新しいメンバー
ダークウルフは雷魔法と闇魔法が得意のようだ。
風魔法と水魔法が火魔法も使えるが、こちらは微弱に使えるので生活に便利な範囲でしか使えないようだ。
それもこれもダークウルフがものすごく懐いてくれて、しかも僕の言うことを
雷魔法を全身に微弱な電流を流して風魔法と組み合わせるとなんと――――ダークウルフの全身は常に清潔に保てるし、毛も抜けない。
それを猛アピールしてきたダークウルフは俺の布団の中に入ってきて一緒に眠った。
月曜日。
手続きのために学校に来たが、明日からは学校にくるのは毎週月曜日だけでよくなる。しかも手続きだけなので授業はない。
「誠也くん~」
校門で僕を待っていたかのように嬉しそうな笑みを浮かべて手を振るのは、僕のパーティーメンバーの紗月だ。
「おはよう。紗月」
「おはよう!」
朝からこの笑顔が見られるなんて、一番役得かもしれない。
本日からクラス変更があるので、今までのクラスではなく、体育館に向かった。
体育館に向かう間にも思ったけど、探索者の
体育館に着いてみんな集まると三分ほどの説明があって、解散となった。これから毎週月曜日の朝に体育館で出席チェックをするだけ。僕達が説明を聞く間にも先輩達は体育館で出席チェックを行っていた。それも非常にスムーズに進むようになっていて、数分もかからなかった。
そんな中、ひときわ目立つ髪の人が見えた。
大勢の黒髪の中で目立つ紫色の髪。身長から昨日の先輩であることが分かる。
そういや…………先輩の名前を聞いておかなかったな。挨拶に行こうとしたその時、彼女の前に立っていた三人の女先輩達が振り向いた。
「おい! 早くしなよ! まったく……とろすぎるんだから!」
「う、うん……ごめんね?」
昨日の天真爛漫な先輩とは打って変わり、まるで何かに怯えているかのような雰囲気で、先輩の前に立つ女先輩三人も彼女に対して明らかに
「あんたは私達が組んであげないと誰とも組めないんだから、私達のためにしっかりしなさいよ!」
「う、うん! が、頑張るから……」
その姿を見た僕は、昨日の先輩がどうしてあれだけ楽しそうにしていたか、ようやく理解できた。
それに…………最初に僕を止めたとき「そこの少年」という台詞…………微かに震えていたのは
気づけば僕は喧騒の中、彼女に向かって歩いていた。
「誠也……くん?」
後ろから紗月の声が聞こえる。
「紗月――――新しいメンバーを迎えにいくぞ」
紗月は何も言わず、僕についてきてくれた。
女先輩達に酷いことを言われて震える先輩が目の前にいた。
手を伸ばせば届く距離。周囲の騒がしい音が一切聞こえなくなり、昨日の姿とはかけ離れた先輩が俯いている。
先輩はあまり周りのことが見えていないのかもしれない。魔法を使っては興奮する子供のようにはしゃぐような――――自分の気持ちに素直なだけの人なんだ。
どうして彼女がこんな辛い目に遭わなきゃいけないのか……そもそも先輩は僕より一年上。ということは一年間こういう待遇だったというのか……?
僕はゆっくり手を伸ばして先輩の頭を優しく撫でてあげた。
「えっ……?」
先輩が僕を見つめる。
「…………少……年?」
「先輩。迎えに来ましたよ」
「は? 何なのよ、お前!」
僕の手を振り払った女先輩が僕を睨む。
「…………」
「ひぃっ!?」
「
「はあ!? ふざけないでよ! みおは私達のパーティーメンバーよ!」
「ふざけるのは貴方だ。彼女は貴方達のメンバーじゃない。パーティーメンバーというのはお互いに背中を預けられる相手を指します。貴方達では彼女は守れない」
「な、何を言ってるの!
「……気持ち悪いのは貴方達だ。メンバーを道具か何かのように呼ぶなんて許されるはずがない」
「ど、道具って! それはこいつだよ! こいつはいつもメンバーを道具としか思っちゃいないわよ! 今までどれだけ多くのメンバーがこいつに壁にされたと思うのよ!」
体育館が僕と女先輩の喧嘩で静まり返った。
そこで一人の男性が僕達の前に立つ。
凛とした姿勢、強者の風格を漂わせた好青年のような三年生の先輩だ。
「そこまでだ。双方、口を閉じなさい」
直後、圧倒的な前の
空気が重く感じる。女先輩達は息すらできないようで顔が真っ青になっている。
「先輩。そこまでにしてください」
僕が手を伸ばして彼を止めると、ようやく威圧が解かれた。
「…………探索者同士の喧嘩。ひいて同じ学校内の生徒同士の喧嘩なんて認められない」
「誤解です。僕はうちのパーティーメンバーを迎えにきただけです」
「…………君。それは本当か?」
彼の視線が先輩に向く。
先輩は不安そうな表情で僕の目を真っすぐ見つめた。
僕はただ笑顔で小さく頷いた。
「う、うん…………あ、新しい……パーティーを見つけて…………そ、そこの少年の……パーティーに…………入っ……………………入りたいっ……」
「そうか。君がそう決めたのならいいんじゃないか。君達もそれでいいだろ? 彼女の意思は君達には向いていない。君達に彼女を引き留める権利はないと思うがどうだ?」
「は、はいっ! あ、ありません! わ、私達はこれで失礼します!」
女先輩達三人は逃げるかのように体育館を後にした。
それを見て、大きな溜息を吐いた彼はゆっくりと僕を見つめる。
「生徒会長の
「は、はい」
静まり返った体育館にまた活気が戻り、喧騒に包まれた。
「名乗るのすっかり忘れていましたね。木村誠也といいます。先輩」
「しょ、少年! わ、私…………」
「先輩――――また僕とパーティーを組みませんか?」
先輩の目に大きな涙が浮かんだ。
「う、うん。よろしく……頼む」
先輩が僕の手を取り、僕達は臨時パーティーではなく、ちゃんとパーティーを組んだ。
じーっと送られる視線を感じる。
「ぬわっ!? さ、紗月! ご、ごめん!」
そこにはジト目で僕と先輩と握った手を交互に見つめる紗月がいた。
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