第35話 ウルトラレアドロップ
「少年~!!」
後ろを振り向いたら、すぐに「ぽむっ」と音を響かせて僕の腹部に温かい感触が伝わる。
「ぬわっ!? せ、せ、先輩!?」
「少年を誘って大正解だよ~! キングワーウルフをこんなにも簡単に倒せるなんて! しかも実は少年めちゃくちゃ強いじゃないか!」
「あはは……はは……」
先輩との距離感に焦りながら、彼女が落ち着くまで待った。
しばらく興奮で色々話した先輩だけど、何一つ覚えられなかった。
姉さんもだけど、女の人ってどうしてこう甘い香りがするのか。
「あれ? 少年! あれを見てくれたまえ!」
先輩が指差した場所にあったのは――――三十センチくらいの黒い楕円形のボールが黒い光を発して浮かんでいた。
「少年はなんと豪運なのだ! ウルトラレアがドロップしたのだよ~!」
「えっ? あれが……レアなんですか?」
「ちっちっちっ。ただのレアではないのさ。フロアボスのレアドロップ品は全て武器か防具だが、その中でもさらにレア――――ウルトラレアがドロップすることがあるんだ! ないフロアボスもいるけど、キングワーウルフはあの卵を落とすので非常に人気なのさ!」
人気? 全くの初耳だ。
初心者の最後の壁くらいしか知らなかったけど、意外にフロアボスは人気なんだ……。
「まあまあ。まずは受け取りたまえ。少年。売るもよし、自分で
ひとはず、先輩に言われるがまま受け取った。
触った瞬間、何かが鼓動を鳴らすかのような感覚が僕の全身に伝わってくる。
さらった感触は表面はサラサラしていて、生暖かい。
「これは何ですか?」
「うむ。それはダークウルフの卵なのさ」
「卵!?」
「そうさ。ダンジョンに機械類や
ダンジョンには機械類――――たとえば、車とか重火器とかは入れない。さらにペットなどの生物を一緒に連れてくることもできない。
「その卵は、いわゆる【
「へぇ……」
ドクンドクンと脈を打つ卵を見つめた。
「それってものすごく高いんですよね!?」
「そうだとも! 金持ちはみんな欲しがっていて、ウルトラレアということもあり、中々の値段さ。それにわざわざ五層でそれを狙ってフロアボスを狙うなんて非効率なことをする上級探索者なんて、あまりいないからね」
「そう……なんですね。どうしましょう。売ってお金を半分にしましょうか?」
「いや、私に報酬はいらないさ。だって、少年をキャリーすると言ったんだ。ここで出たドロップ品は全て少年の物さ」
「ええええ!? そ、それではあまりにも申し訳ないですよ!」
「ふふっ。少年は優しいな。普通なすぐにもらい受けるはずだよ?」
「だって、臨時とかキャリーとかその以前に一緒に命を懸けてダンジョンに入った仲間じゃないですか。一緒に戦った仲ですから、報酬は分けるべきです!」
先輩の可愛らしい目が大きく見開く。
「あ…………そっか…………少年はそういう人なんだな…………」
何かを言いかけた先輩は口を閉じた。
そして――――満面の笑みを浮かべた。
「だったら尚更受け取ってくれ。これは私達が出会った友情の証だ。またいつか私とパーティーを組んでくれたら嬉しい」
「っ!? そんな! 僕は
「なっ!? ま、ま、待ってくれ……私達はまだ出会って数時間しか……」
「時間なんて関係ありません! 先輩の暇がある時で構いませんからまた僕と組んでくださると嬉しいです! すごく嬉しいです!」
「ひゃぁ……あっ……は、はぃ…………これからも……組しぇていただきましゅ…………少年って……意外に積極的……だったんだな…………」
なぜかもじもじする先輩。どうしたんだろう?
少し目を潤ませた先輩が見上げてくる。
先輩の可愛らしさも含めて、見上げる仕草にドキッとしてしまった。姉さんと紗月はどちらかといえば、綺麗な女性なのに対して、先輩は可愛らしい女性だ。
身長とかそういうのもあるといえばあるけど。
その時、ぐ~って腹の虫の音が聞こえてきた。
先輩の顔が真っ赤に染まって、あわあわし始める。
「先輩。まず昼食に行きましょうか」
「そ、そうだな!」
初めてキングワーウルフを倒した僕達は、ダンジョンを後にして、近くのファミレスで食事を取った。
先輩はやはり二年生の
食事を終えて、またダンジョン五層で先輩が満足いくまで狩りを行った。
すっかり時間が過ぎ夕方になって、先輩を家まで送る。
意外にもうちのマンションの近くの一軒家だった。
「先輩。今日はありがとうございました」
「こ、こちらこそなのだ! あんなに魔法を気持ちよく使ったのは久しぶりだからな~すごく楽しかったよ! 少年。また組んでくれたら嬉しい!」
「もちろんです。先輩が良ければいつでも誘ってください」
「じゃ、じゃあ、明――――」
「あ。そういや、うちのメンバーにも紹介しておかないと」
その時、先輩の表情か一気に曇った。
「ん? 何か言いましたか?」
「う、ううん! 何でもないよ! 少年! 今日は本当にありがとう。じゃあ、またな!」
そう言いながら、何故か少し寂しそうな笑顔で先輩は走り去った。
まるで台風のような人だったなと、いまさらながら苦笑いがこぼれた。
たった一日なのに、先輩と過ごした一日はとても激しくて楽しかった。
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